5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)は、従来の四種混合ワクチン(DPT-IPV:ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)にヒブ(Haemophilus influenzae type b)ワクチンを追加した新しい混合ワクチンです。2024年4月1日から定期接種として導入され、これにより従来は別々に接種する必要があった四種混合ワクチンとヒブワクチンが一つになり、接種回数を大幅に削減できるようになりました。
このワクチンで予防できる疾患は以下の5つです。
これらの疾患はいずれも重篤な合併症や後遺症のリスクがあるため、予防接種による予防が非常に重要です。5種混合ワクチンの導入により、これら5つの疾患を一度の接種で予防できるようになりました。
5種混合ワクチンの接種スケジュールは、従来の四種混合ワクチンと同様のスケジュールで行われます。具体的な接種スケジュールは以下の通りです。
接種対象は生後2ヶ月から7歳6ヶ月までの小児ですが、初回接種は生後7ヶ月までに開始することが推奨されています。接種間隔については、初回3回の接種では各接種間に3週間以上(標準的には3〜8週間)の間隔を空け、追加接種(4回目)は3回目接種から6ヶ月以上(標準的には6〜18ヶ月)経過後に接種します。
従来は四種混合ワクチンとヒブワクチンをそれぞれ4回ずつ、合計8回接種する必要がありましたが、5種混合ワクチンの導入により、接種回数は半分の4回になりました。これにより、子どもの身体的負担と保護者の通院負担が大幅に軽減されます。
なお、既に四種混合ワクチンやヒブワクチンの接種を開始している場合は、原則として同一のワクチンで接種を完了させる必要があります。つまり、5種混合ワクチンへの途中切り替えは推奨されていません。したがって、5種混合ワクチンの対象となるのは、2024年4月1日以降に初めてワクチン接種を開始する小児、または四種混合ワクチンとヒブワクチンをまだ接種していない小児となります。
自治体によっては、やむを得ない事情がある場合に限り、四種混合ワクチンから5種混合ワクチンへの切り替えを認めているケースもありますので、詳細は各自治体の予防接種担当部署に確認することをお勧めします。
現在、日本で承認されている5種混合ワクチンには2種類あります。
これら2種類のワクチンは、含まれる抗原成分やその量に若干の違いがあるため、原則として同一種類のワクチンで4回の接種を完了させることが推奨されています。つまり、1回目にゴービックを接種した場合は、2回目以降もゴービックを使用するのが基本です。
ただし、ワクチンの流通状況や医療機関の在庫状況によっては、異なる種類のワクチンを使用せざるを得ないケースも考えられます。そのような場合の対応については、各自治体によって対応が異なるため、接種を担当する医療機関や自治体の予防接種担当部署に確認することをお勧めします。
医療機関側としては、どちらの製品を採用するかについて、以下の点を考慮して検討することが重要です。
患者や保護者からワクチンの種類について質問があった場合は、両ワクチンの効果や安全性に大きな差はないこと、そして原則として最初に接種したワクチンと同じ種類を継続することの重要性について説明することが望ましいでしょう。
また、医療機関ごとに採用しているワクチンの種類が異なる場合があるため、転居などで接種医療機関を変更する際には、前回までどの種類のワクチンを接種したかを確認し、可能な限り同じ種類のワクチンを提供できる医療機関を選択するよう保護者に助言することも重要です。
5種混合ワクチン接種後に見られる可能性のある副反応は、従来の四種混合ワクチンやヒブワクチンと同様のものが報告されています。主な副反応と注意点について以下に説明します。
よくみられる副反応。
まれな副反応。
非常にまれな重篤な副反応。
これらの副反応の頻度や程度は、四種混合ワクチンとヒブワクチンを別々に接種した場合と比較して、大きな違いはないとされています。むしろ、接種回数が減ることにより、副反応を経験する機会も少なくなる可能性があります。
接種前の注意点。
接種後の注意点。
医療従事者は、これらの副反応と注意点について保護者に適切に説明し、接種後の対応について十分に理解してもらうことが重要です。また、重篤な副反応が疑われる場合は、適切に報告を行い、必要に応じて予防接種健康被害救済制度の案内も行いましょう。
5種混合ワクチンの導入は、予防接種の効率化と子どもたちの負担軽減という点で大きな前進ですが、その将来展望と医療現場への影響についても考察する必要があります。
医療現場への影響。
四種混合ワクチンとヒブワクチンを別々に管理する必要がなくなり、在庫管理や保管スペースの効率化が図れます。特に小規模クリニックでは、冷蔵保管スペースの有効活用につながる可能性があります。
これまで四種混合ワクチン4回、ヒブワクチン4回の計8回のスケジュール管理が必要でしたが、5種混合ワクチン4回のみとなり、医療機関側の事務作業負担も軽減されます。
1回の診察で2種類のワクチンを接種する必要がなくなるため、医師や看護師の接種時間が短縮され、待ち時間の減少にもつながります。
一方で、導入初期は四種混合ワクチンとヒブワクチンを既に開始している小児と、5種混合ワクチンを新たに開始する小児が混在するため、接種履歴の確認や適切なワクチン選択に注意が必要です。
新しいワクチンであるため、保護者からの質問が増えることが予想され、初期は説明に時間を要する可能性があります。
将来展望。
今後、肺炎球菌やロタウイルス、RSウイルスなど、他のワクチンとの混合も研究される可能性があります。世界的には6種以上の混合ワクチンも研究開発が進んでいます。
接種回数の減少により、全ての接種を完了する率が向上することが期待されます。これにより、集団免疫の強化と対象疾患の発生率低下につながる可能性があります。
接種回数の減少により、医療機関への受診回数も減少するため、保護者の負担(通院時間、交通費等)や社会的コスト(保護者の休業等)の軽減が期待されます。
低中所得国では、接種機会の確保が課題となっており、混合ワクチンの普及により、より効率的な予防接種プログラムの実施が可能になります。WHOもこうした混合ワクチンの普及を推進しています。
ワクチンメーカーにとっては、複数のワクチンを別々に製造・流通させるよりも、混合ワクチンとして一括製造・流通させることでコスト効率が向上する可能性があります。
医療従事者としては、こうした変化に柔軟に対応しながら、適切な情報提供と接種管理を行うことが重要です。また、新しいワクチンの導入に伴う副反応の監視や報告にも積極的に協力し、ワクチンの安全性と有効性の評価に貢献することが求められます。
ワクチン接種は、個人の健康を守るだけでなく、社会全体の疾病負担を軽減する重要な公衆衛生対策です。5種混合ワクチンの導入により、より効率的かつ効果的な予防接種プログラムの実現が期待されます。