やけどの原因は大きく4つのカテゴリーに分類され、それぞれ異なる発生機序と臨床的特徴を持ちます。
温熱やけど(熱傷)
最も頻度が高く、全やけど症例の約90%を占める温熱やけどは、熱湯、火炎、高温物体への接触により発生します。特に10歳未満の小児では、調理器具の蒸気、ホットプレート、ストーブなどによる受傷が多報告されています。温度と接触時間の関係では、100℃の熱湯で1秒、60℃で5分、44℃で6時間の接触でやけどが成立します。
化学やけど(化学熱傷)
酸やアルカリなどの化学物質による細胞タンパク質の変性が原因です。工場や研究室での職業性曝露、家庭用洗剤による事故が代表例です。化学やけどの特徴は、初期の外観が軽微に見えても深部損傷が進行する点にあり、受傷後数時間から数日で症状が悪化することがあります。
電撃やけど(電撃傷)
電流が体内を通過する際の発熱により生じるやけどで、高電圧線、家電製品、雷撃が原因となります。電撃やけどの特徴は、皮膚表面の損傷は軽微でも深部組織の壊死が広範囲に及ぶ可能性があることです。心停止や神経損傷などの全身合併症を伴うことも多く、見た目以上に重篤な状態となることがあります。
低温やけど(低温熱傷)
40-55℃程度の比較的低温の熱源に長時間接触することで発生します。湯たんぽ、電気毛布、使い捨てカイロが主な原因で、最近ではスマートフォンの発熱による受傷例も報告されています。低温やけどは痛みが軽微なため気づきにくく、発見時には深達性Ⅱ度以上の深いやけどとなっていることが多いのが特徴です。
やけどの初期症状は、皮膚損傷の深度によってⅠ度からⅢ度まで分類され、それぞれ特徴的な症状を呈します。
Ⅰ度熱傷の初期症状
表皮のみの損傷で、受傷直後から皮膚の発赤と腫脹が出現します。患者は「ヒリヒリする」と表現する痛みや熱感を訴え、知覚過敏の症状も認められます。典型的な例は軽度の日焼けで、1週間程度で瘢痕を残さず治癒します。
Ⅱ度熱傷の初期症状
真皮に達する損傷で、浅達性と深達性に細分されます。浅達性Ⅱ度では、受傷後数時間以内に水疱形成と強い痛みが特徴です。皮膚色調は薄赤色を呈し、知覚は保たれています。深達性Ⅱ度では、水疱は形成されるものの皮膚はやや白色調となり、知覚神経の部分的損傷により痛みは軽減します。
Ⅲ度熱傷の初期症状
皮下組織まで達する全層損傷で、初期から皮膚は蝋色、黄色、赤茶色、または黒色を呈します。水疱形成はなく、皮膚は乾燥し硬化します。知覚神経の完全損傷により無痛性が特徴的で、これが重症度判定の重要な指標となります。
症状進行の時間経過
やけどの症状は受傷直後から進行性に悪化することがあり、初期の重症度判定が確定的でない場合があります。特に深達性Ⅱ度とⅢ度の鑑別は困難で、受傷後48-72時間の経過観察が必要です。細菌感染の併発により症状が悪化し、より深い損傷に進行することも知られています。
やけどの初期対応は、症状の進行抑制と疼痛軽減において極めて重要です。
冷却処置の原則
受傷直後から流水による十分な冷却が基本です。15-30分間、または痛みが軽減するまで継続します。冷却により組織温度を下げ、熱による細胞損傷の進行を阻止し、炎症反応を抑制します。水温は15-20℃が適切で、氷水は避けるべきです。
部位別冷却方法
手足のやけどでは流水下での直接冷却が効果的です。顔面では濡れた清潔なタオルやガーゼを使用し、眼や口腔への水の流入を避けます。広範囲のやけどでは、患者の体温低下を防ぐため冷却範囲を調整し、必要に応じて救急搬送を優先します。
衣服の処理
衣服の上から受傷した場合、無理に脱がずに衣服の上から冷水をかけます。強制的な除去は皮膚剥離や損傷拡大のリスクがあり、十分な冷却後に慎重に行います。
水疱の取り扱い
水疱は可能な限り保護し、意図的な穿刺は避けます。自然破綻した場合も皮膚片の除去は行わず、感染予防に注意します。
やけどの治療方針は、深度と面積、患者背景を総合的に評価して決定します。
外来治療の適応
Ⅰ度熱傷と浅達性Ⅱ度熱傷の小範囲例が対象となります。成人では手掌大(体表面積の1%)以下、小児では手掌の半分以下が目安です。疼痛管理と感染予防を中心とした保存的治療を行います。
入院治療の適応
深達性Ⅱ度以上の熱傷、成人で体表面積20%以上、小児で10%以上の広範囲熱傷は入院適応です。輸液管理、感染制御、栄養管理が必要となります。特にⅢ度熱傷では外科的治療(デブリドマン、植皮術)が必要になることが多く、形成外科への紹介を検討します。
専門医紹介の基準
以下の場合は専門医への紹介が推奨されます。
治療薬剤の選択
軽度熱傷では湿潤環境維持のためのワセリンベース軟膏や、ポビドンヨード含有軟膏を使用します。中等度以上では銀含有創傷被覆材やコラーゲン製剤の適応を検討します。
医療従事者として把握すべき予防策と臨床現場での注意点について解説します。
年代別リスク因子
10歳未満の小児では調理器具による受傷が最多で、特に電気ポットや炊飯器の蒸気による事故が増加しています。高齢者では低温やけどのリスクが高く、感覚低下や認知機能低下が要因となります。成人では職業性曝露による化学熱傷や電撃傷の頻度が高くなります。
季節性要因
冬季は暖房器具使用に伴う低温やけどが多発します。湯たんぽ、電気毛布、コタツなどによる受傷例が多く、特に糖尿病患者や末梢神経障害のある患者では注意が必要です。夏季は花火事故や日焼けによる熱傷が増加する傾向があります。
医療現場での注意点
病院内での熱傷事故として、温罨法による低温やけど、電気メス使用時の電撃傷、消毒薬による化学熱傷があります。特に手術室や透析室では医療機器の適切な使用と患者の皮膚状態確認が重要です。
患者教育のポイント
退院時指導では、創傷ケアの方法、感染兆候の観察、日光曝露の回避について詳細に説明します。瘢痕予防のためのマッサージ方法や圧迫療法の指導も重要です。
合併症の早期発見
感染徴候(発熱、膿性分泌物、周囲の発赤拡大)、循環障害(末梢冷感、チアノーゼ)、瘢痕拘縮の初期兆候を見逃さない観察技術が求められます。