TCRの多様性が高すぎると、むしろ自己免疫疾患のリスクを高めることがあります。

T細胞受容体(TCR)は、αβ型とγδ型の2種類に大別されます。 αβ型TCRが末梢T細胞の大部分(約95%以上)を占め、γδ型は全体の5%未満です。 両者の違いは認識する抗原の種類にあり、αβ型はMHC分子に提示されたペプチドを認識するのに対し、γδ型はMHCを必要とせず脂質抗原なども直接認識できます。
関連)https://square.umin.ac.jp/haramaki/yakudai/meneki/010908.pdf
TCRの多様性を生み出す最大の仕組みが「遺伝子再構成(VDJ再構成)」です。 TCRβ鎖は可変領域(V)・多様性領域(D)・結合領域(J)という3種類の遺伝子セグメントが組み合わさり、αおよびγ鎖はVとJのみが再構成に関与します。 この段階だけで、α鎖とβ鎖のランダムな組み合わせは理論上106通りにも達します。
関連)https://chigasaki-localtkt.com/tsaiboujuyoutainokakutokumekanizumu-2/
さらに多様性を爆発的に広げるのが「接合部多様性」です。 セグメントどうしがつながる接合部でランダムな塩基の挿入・欠失(N/P-ヌクレオチド付加)が生じます。 この仕組みを含めると、1個体が持つTCRの多様性の総数は計算上1018を超えると報告されています。
関連)https://www.medsi.co.jp/e-meneki2/files/e-meneki2_q05.pdf
つまり「遺伝子の多さ」ではなく「つなぎ方の組み合わせ」が鍵です。
参考:遺伝子再構成の仕組みとTCRレパトアについて詳しく解説されています。
TCRの中で抗原エピトープと直接接触するのは、相補性決定領域(CDR)です。 CDRは3つ存在しますが、CDR3は接合部多様性が最も集中する領域であり、抗原認識の特異性を決定する最重要部位です。 CDR1・CDR2がMHC分子の枠組み部分を認識するのに対して、CDR3はその中に収まったペプチドを直接「触る」部分と理解すると分かりやすいです。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.037095310770020143
CDR3の多様性がいかに重要かを数字で確認しましょう。 TCR遺伝子の再編成は理論上1×1018通りのレパートリーを生み出しますが、そのほぼすべてがCDR3の配列多様性に由来します。 これは免疫グロブリン(BCR)と比べて大きな違いであり、TCRでは体細胞高頻度突然変異が生じないため、多様性はCDR3の接合部に集中する構造になっています。
関連)https://ja.wikipedia.org/wiki/T%E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
CDR3多様性が集中するということは、ここが免疫応答の「個人差」を生む最大の要因でもあります。
関連)https://academia.carenet.com/share/news/82f043b3-7512-414a-a12d-c53e02fce814
参考:CDR3とTCR多様性の詳細な構造説明が掲載されています。
T細胞による抗原の認識(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
多様性が高ければ免疫力が強い、と多くの医療従事者が感じているかもしれません。しかし実際には、TCRレパトアの「偏り」が自己免疫疾患と深く関係しています。
理化学研究所の研究チームは、HLA遺伝子の自己免疫疾患リスク多型が、特定のCDR3配列パターンを持つT細胞受容体の発現頻度を高めることを発見しました。 さらにそのCDR3配列パターンが、関節リウマチで重要なシトルリン化自己抗原に反応するT細胞と共通していることも確認されています。 これは「HLAのリスク多型 → TCR多様性の特定方向への偏向 → 自己免疫疾患発症」という連鎖を示す重要な証拠です。
関連)https://j-star.ryumachi-jp.com/literature/575/
関節リウマチ患者を対象にした次世代シークエンサー解析では、高疾患活動性RA群でCD4陽性T細胞のTCRレパトア多様性が減少し、少数の強増殖クローンが支配する免疫環境が存在することが示されました。
関連)https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/48625/files/A32746_abstract.pdf
| 状態 | TCRレパトア特性 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 健常者 | 高多様性・均一な分布 | 多様な病原体への応答能力が高い |
| 活動性RA | 多様性低下・特定クローンが優位 | 自己反応性クローンの過増殖を示す可能性 |
| HLAリスク多型保有者 | CDR3配列パターンに偏り | 自己免疫疾患の発症リスク上昇と関連 |
多様性の「低下」だけでなく「方向性の偏り」に注意が必要です。
参考:HLAリスク多型とTCR-CDR3パターンの関連の理研公式プレスリリースです。
自己免疫疾患のHLA遺伝子リスク多型がTCRに与える影響(理化学研究所)
加齢と免疫老化の関係は、TCRレパトアを中心に議論されることが増えています。 ヒトは生後10〜20年の間にナイーブT細胞レパトアをほぼ完成させ、その後は胸腺の萎縮とともに新しいTCRクローンの供給が著しく低下します。 胸腺はおよそ40〜50代で機能的にほぼ停止するとされており、それ以降のTCRレパトアの更新は限定的です。
関連)http://leading.lifesciencedb.jp/7-e005.html
重要なのは、ヒトでは加齢によるレパトアの多様性低下がマウスほど顕著ではないという点です。 マウスでは恒常性増殖によるレパトアの偏向が強いですが、ヒトでは加齢してもナイーブT細胞の多様性はある程度維持されることが指摘されています。 ただし、CMV(サイトメガロウイルス)などの潜伏感染ウイルスへの対応で、特定T細胞クローンが長期にわたって過増殖することがレパトア偏向の主因になります。
関連)http://jglobal.jst.go.jp/public/202602211153750283
TCRレパトアの多様性は、健常高齢者とフレイル高齢者を区別する指標にもなると報告されています。 これはフレイル評価に新たな免疫学的視点をもたらす可能性を示しています。
関連)http://jglobal.jst.go.jp/public/202602211153750283
高齢患者の免疫機能を評価する際には、単なるリンパ球数だけでなく、TCRレパトアの多様性という観点が今後さらに重要になるでしょう。
参考:T細胞の老化と免疫老化についての詳細なレビューです。
また、京都大学の研究では、CD8陽性PD-1陽性T細胞のTCRレパトアを次世代シークエンサーで解析した結果、TCR多様性の高い患者がICIに奏効しやすいことが示されています。 これは「T細胞が多様な腫瘍抗原を認識できる状態」が治療効果に直結することを意味します。
関連)https://iact.kuhp.kyoto-u.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2022/10/B57-J.pdf
これは使えそうです。
| 解析対象 | 評価指標 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 末梢血T細胞 | DI(多様性指数)増減 | ICI早期奏効予測マーカー |
| 腫瘍浸潤T細胞 | TCR多様性スコア | 治療奏効との相関 |
| CD8+PD-1+T細胞 | CDR3多様性 | ICI奏効患者で高多様性傾向 |
TCRレパトア解析は、現在では次世代シークエンサー(NGS)を用いて比較的短時間に実施できるようになっています。 CDR3領域のシークエンスにより、クローン性増殖の有無、特定抗原に反応するクローンの検出、免疫老化の程度など多角的な情報が得られます。 腫瘍内科・血液内科・リウマチ科など多くの診療科でのルーチン利用が今後さらに拡大すると予想されます。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.037095310770020143
参考:TCRレパトアシークエンシングの現状と臨床的意義が詳述されています。
TCRレパトアシークエンシングの現状と意義(医書.jp 生体の科学)
これは驚きですね。
dual-TCR T細胞が持つ意味を整理すると以下になります。
参考:dual-TCR T細胞の二重抗原特異性に関する研究内容が掲載されています。
【指定第2類医薬品】イブクイック頭痛薬DX 60錠