トラマール効果と作用機序や副作用

トラマールは非麻薬性オピオイド鎮痛薬として、がん性疼痛や慢性疼痛の治療に用いられます。二つの作用機序で痛みを和らげますが、副作用への注意も必要です。その効果と特徴を医療従事者向けに詳しく解説しますが、あなたの患者への適用は適切でしょうか?

トラマール効果

トラマールの主な効果
💊
二重作用機序による鎮痛

μオピオイド受容体作動作用とモノアミン再取り込み阻害作用を併せ持つ独自の鎮痛メカニズム

🎯
幅広い疼痛への適応

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の両方に効果を示す

⚖️
非麻薬性オピオイド

モルヒネの約1/5の鎮痛効果を持ちながら依存性が低い

トラマール作用機序の詳細

トラマドール塩酸塩(トラマール)は、中枢神経系に作用する非麻薬性オピオイド鎮痛薬であり、二つの異なる作用機序を持つ点が特徴的です。
参考)302 Found

第一の作用機序として、トラマドールおよびその活性代謝物M1(モノ-O-脱メチル体)がμオピオイド受容体に結合します。ただし、その親和性はモルヒネの1/6,000と非常に弱いものの、活性代謝物M1のμオピオイド受容体への親和性は親化合物より高く、臨床効果に寄与しています。
参考)作用機序

第二の作用機序として、トラマドールはノルアドレナリンおよびセロトニンの再取り込み阻害作用を有します。この作用により下行性痛覚抑制系を活性化し、脊髄レベルでの痛み信号の伝達を抑制します。特にセロトニン再取り込み阻害のIC50は3.1μMと報告されており、(+)-エナンチオマーが(−)-エナンチオマーより約4倍強力です。
参考)いつもの痛み止めが効かない…医師が出す「トラマール」って安全…

この二重作用機序により、トラマールは侵害受容性疼痛(組織損傷による炎症性の痛み)と神経障害性疼痛(神経損傷による痛み)の両方に効果を発揮します。
参考)トラマール(トラマドール塩酸塩)

トラマール効果が期待できる疼痛の種類

トラマールの適応症は、非オピオイド鎮痛剤で治療困難な「疼痛を伴う各種癌」および「慢性疼痛」です。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報

がん性疼痛に対しては、WHOの三段階除痛ラダーにおける第二段階(軽度から中等度の痛み)の弱オピオイド鎮痛薬として位置づけられます。トラマドールは侵害受容性および神経障害性のがん性疼痛の両方に有効であることが臨床試験で確認されています。日本で実施された二層錠製剤の第III相試験では、がん疼痛患者において速放性製剤と同等の鎮痛効果が得られました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10756890/

慢性疼痛においては、変形性関節症、腰痛症、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害など、多様な原因による痛みに使用されます。特に神経障害性疼痛に対するNNT(治療必要数)は強オピオイドとほぼ同等であり、三環系抗うつ薬に次ぐ効果を示します。
参考)https://med.nippon-shinyaku.co.jp/faq/tramal_od/chronic_pain/q1-01/

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やアセトアミノフェンで効果不十分な患者に対して、次の選択肢として考慮されます。また、NSAIDsと異なり胃腸障害のリスクが低いため、消化器系の副作用が懸念される患者にも使用しやすい特徴があります。
参考)NSAIDsで効かない痛みにも?トラムセットが処方されるケー…

トラマール副作用と管理方法

トラマールの主な副作用は、便秘、悪心、傾眠、嘔吐、浮動性めまいです。臨床試験において便秘51.2%、悪心48.8%、傾眠23.9%、嘔吐19.7%、浮動性めまい12.7%の発現率が報告されています。
参考)トラマドール塩酸塩(ツートラムⓇ️、ワントラムⓇ️、トラマー…

これらの副作用は投与開始後3ヶ月以内、特に初期1週間から1ヶ月の発現率が高く、時間経過とともに減少する傾向があります。井上らの報告では、投与開始1週間で41.6%に副作用が発現しましたが、その後は主な副作用の発現率が10%未満に減少しました。
参考)非がん性慢性疼痛に対するトラマドールの長期投与—日常診療にお…

悪心・嘔吐に対しては制吐薬の併用が推奨され、便秘に対しては下剤の予防的投与が有効です。特にトラムセット(トラマドール・アセトアミノフェン配合剤)では、吐き気止めの適切な使用がポイントとなります。
参考)トラムセット(トアラセット) 広島県福山市の整形外科・リハビ…

重大な副作用として、呼吸抑制、ショック・アナフィラキシー、痙攣発作、依存性が報告されています(頻度不明)。トラマドールは用量依存性に痙攣リスクが上昇するため、1日総投与量は400mgを超えないよう設定されています。痙攣のメカニズムにはセロトニン系の関与が示唆されていますが、最近の研究では従来考えられていたセロトニン症候群以外のメカニズムも検討されています。
参考)https://www.mdpi.com/1424-8247/15/10/1254/pdf?version=1665561037

トラマール依存性と長期使用における注意点

トラマールは麻薬指定を受けていない非麻薬性オピオイドですが、長期使用時に耐性、精神的依存、身体的依存が生じる可能性があります。依存性はモルヒネなどの強オピオイドと比較して低いものの、完全にないわけではありません。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100082/800155000_22300AMX00552_B104_1.pdf

依存症の兆候として「服用しないと痛みが止まらない」「処方量を超えて使用してしまう」といった訴えが見られます。耐性が形成された場合、「処方された倍量を服用しても効果がない」という状態になることがあります。​
長期投与の臨床研究では、3年間のトラマドール投与において比較的良好な安全性プロファイルが示されましたが、投与初期の副作用管理と定期的な効果判定が重要です。痛みのコントロールの基本は「痛みの出る動作を避ける」ことであり、鎮痛薬のみに依存した管理は適切ではありません。​
依存性や耐性の問題が生じた場合は、ペインクリニックや専門施設への紹介を検討すべきです。また、中止や減量は医師の指示のもとで段階的に行う必要があります。​

トラマール併用禁忌薬と相互作用

トラマールには重要な併用禁忌薬が存在します。第一に、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤(セレギリン塩酸塩など)との併用は禁忌です。MAO阻害剤との併用により、セロトニン症候群のリスクが著しく増大します。
参考)医療用医薬品 : トラマール (相互作用情報)

第二に、アルコール依存症治療薬であるナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ)との併用も禁忌とされています。ナルメフェンはオピオイド受容体拮抗薬であり、トラマールの鎮痛作用を完全に消失させる可能性があります。
参考)医療用医薬品 : トラマール (トラマール注100)

併用注意薬として、他のオピオイド鎮痛剤や中枢神経抑制剤との併用は、相加的な中枢神経抑制作用により呼吸抑制や過度の鎮静を引き起こす可能性があります。また、セロトニン作動性薬剤(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬など)との併用時はセロトニン症候群の発現に注意が必要です。
参考)トラマールOD錠25mgとの飲み合わせ情報[併用禁忌(禁止)…

日本薬理学雑誌のトラマドール塩酸塩に関する総説では、薬物代謝酵素CYP2D6による代謝について詳細が記載されており、この酵素活性の個人差により効果が変動することが示されています。CYP2D6の活性が低い患者では活性代謝物M1の生成が減少し、鎮痛効果が減弱する可能性があります。
参考)https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/guide08_17.pdf

高齢者では生理機能の低下により代謝・排泄が遅延し、副作用が出現しやすいため、慎重な投与が求められます。また、服用中の飲酒は副作用を増強させるため避けるべきです。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=49752