ストレスチェック義務化50人未満事業場対応実務指南

50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される改正法について、医療従事者向けに実施方法や対応ポイントを詳しく解説。どのような準備が必要なのでしょうか?

ストレスチェック義務化50人未満事業場対応

ストレスチェック義務化の全体像
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現行制度から拡大へ

50人以上から全事業場へと適用範囲が拡大される

施行時期

2028年頃までに順次実施開始予定

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医療従事者への影響

実施者としての役割と受検者としての立場両方を理解

ストレスチェック義務化50人未満事業場の制度概要

令和7年3月14日に政府が閣議決定した労働安全衛生法改正案により、現在は努力義務とされている従業員50人未満の事業場でのストレスチェックが、正式に義務化されることとなりました。この改正により、事業場の規模を問わず、すべての労働者のメンタルヘルス対策が強化されます。
参考)https://sanpo-navi.jp/column/stresscheck-under50/

 

現行制度では、常時50人以上の労働者を雇用する事業場のみがストレスチェックの実施義務を負っていましたが、精神障害の労災支給決定件数が令和5年度に883件超と過去最多を記録し、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業または退職した労働者がいる事業場割合がこの3年間約1割で推移している状況を受けて、小規模事業場への適用拡大が決定されました。
参考)https://www.espayroll.jp/news/20241283

 

改正法の施行は公布後3年以内、つまり2028年4月頃までに実施される見込みです。医療従事者にとっては、実施者としての専門性を活かす機会が拡大すると同時に、自身の職場でも新たに義務化の対象となる可能性があります。
参考)https://kokoro-mental.com/column/stresscheck/stresscheck92.html

 

厚生労働省は、50人未満の事業場におけるメンタルヘルス対策の取り組み割合が、30~49人の事業場で71.8%、10~29人で56.6%と、50人以上の事業場の91.3%と比較して大幅に低い状況を問題視しており、この格差解消が今回の義務化の主要な目的となっています。

ストレスチェック義務化50人未満における実施要件

50人未満の事業場における義務化では、基本的に現行の50人以上事業場と同様の実施要件が適用される見込みです。実施頻度は年1回以上、対象者は一定の要件を満たすすべての労働者が含まれます。
参考)https://www.persol-bd.co.jp/service/hrsolution/s-hr/column/stresscheck-mandatory/

 

対象となる労働者の具体的な要件として、契約期間に定めのないフルタイムの正社員やパート・アルバイトで、労働時間が通常の労働者の4分の3以上であることが条件となります。また、契約期間に定めのある労働者でも、その期間が1年以上、または1年以上使用されている場合は実施対象者に含まれます。
参考)https://doctor-trust.co.jp/law/law-2606.html

 

実施者については、医師、保健師、または厚生労働省が定める研修を修了した精神科医、心理カウンセラーなどが担当します。特に医療従事者である看護師の場合、研修を受けることで実施者としての資格を取得することが可能です。
参考)https://www.kango-roo.com/work/1809/

 

実施方法は質問票(紙媒体、ウェブなど)を用いた調査形式で、費用負担は事業主が行います。小規模事業場では外部機関への委託が一般的となることが予想されており、一般企業は病院や診療所などの医療機関、健康診断機関やメンタルヘルスサービス機関といった外部機関にストレスチェックを委託することになると考えられています。

ストレスチェック義務化50人未満の医療従事者への影響

医療従事者にとって、50人未満事業場への義務化拡大は、専門性を活かす新たな機会の創出を意味します。特に産業看護師や保健師の需要増加が見込まれ、ストレスチェックの実施者としての役割が重要になります。
看護師がストレスチェックの実施者となるためには、厚生労働省指定の研修の修了が必要ですが、この研修により看護師としての視野を広げ、メンタルヘルスの考えを普段の仕事に活かすことも期待できます。産業看護職への転職を考える際や、転職後の業務においても有用なスキルとなるでしょう。
病院や診療所などの医療機関においても、労働者数に関わらずストレスチェック制度を実施することが望ましいとされており、医療従事者自身が受検者となるケースも増加します。医療現場特有のストレス要因(夜勤、人命に関わる責任、患者対応など)を適切に把握し、職場環境の改善につなげることが重要です。
外部機関として一般企業のストレスチェックを受託する医療機関では、自身の労働者数が50人を超えていれば、その機関で働く看護師などを対象としたストレスチェックも同時に導入する必要があります。これにより、医療機関は提供者と受益者の両方の立場でストレスチェックに関わることになります。

ストレスチェック義務化50人未満事業場の準備ポイント

50人未満の事業場がストレスチェック義務化に向けて準備すべき重要なポイントがいくつかあります。まず、実施体制の構築が最優先となります。自社で実施者を確保するか、外部機関に委託するかの判断を早期に行う必要があります。

 

政府は2027年までに50人未満事業場のストレスチェック実施率を50%以上に引き上げることを目標としており、早期対応により政府の支援策を活用できる可能性があります。また、義務化前の自主的な取り組みは、従業員の理解促進や制度の円滑な導入にも寄与します。
実施スケジュールの策定においては、年1回以上の実施頻度を確保できる体制を整備し、高ストレス者への医師による面談指導の体制も併せて構築する必要があります。特に小規模事業場では、産業医の選任義務がない場合も多いため、面談指導を行う医師の確保が課題となります。

 

従業員への説明と理解促進も重要な準備事項です。ストレスチェックの目的が一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)にあることを明確に伝え、個人情報の取り扱いや結果の活用方法について十分な説明を行うことで、従業員の協力を得やすくなります。

 

ストレスチェック義務化50人未満における独自の運用課題

50人未満の小規模事業場特有の運用課題として、限られた人的・財政的リソースでの効率的な制度運営が挙げられます。大企業と異なり、人事担当者や産業保健スタッフが専任で配置されていないケースが多く、既存の業務と並行してストレスチェック業務を遂行する必要があります。

 

個人情報保護の観点では、小規模組織特有の「顔の見える関係」が課題となります。少人数の職場では、ストレスチェック結果から個人が特定されやすく、プライバシー保護により一層の配慮が必要です。実施者と従業員の関係性についても、馴染みのある関係だからこそ生じる回答の躊躇や、逆に相談しやすさといった両面性を理解した運用が求められます。

 

費用対効果の最適化も重要な課題です。外部委託の場合、従業員数に対する固定費の負担割合が大きくなりがちです。近隣の同業種事業場との共同実施や、業界団体を通じた集約実施などの工夫により、コスト削減を図る手法の検討が有効です。

 

職場環境改善への活用においては、少人数組織だからこそ可能な迅速な改善対応と、一方で改善の選択肢が限られるという制約のバランスを取る必要があります。ストレスチェック結果を単なる義務的実施で終わらせず、実質的な職場環境向上につなげる仕組みづくりが、制度の真価を発揮させる鍵となります。