スパイロメトリー検査では、患者の呼吸能力を客観的に評価するために複数の重要な指標を測定します。最も基本的な項目は肺活量(FVC)と一秒量(FEV1)、そしてこれらから算出される**一秒率(FEV1/FVC)**です。
参考)https://fu-clinic.com/%E5%91%BC%E5%90%B8%E6%A9%9F%E8%83%BD%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E6%A9%9F%E5%99%A8%E3%80%8C%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF
肺活量は、最大まで息を吸い込んだ後に完全に吐き出すことができる空気の総量を示し、肺の容積や柔軟性を評価します。正常値は年齢、性別、身長により算出される予測値の80%以上とされています。
参考)https://www.docknet.jp/article/check/837
一秒量は、最大吸気後に1秒間で強制的に吐き出せる空気量を表し、気道の通りやすさを評価する重要な指標です。一秒率は70%以上が正常範囲とされ、これを下回ると気道閉塞の存在が疑われます。
**%肺活量(%VC)**も重要な評価項目で、予測肺活量に対する実測値の割合を示し、80%未満で異常と判定されます。この数値により、肺の機能的な大きさの減少を定量的に評価できます。
閉塞性換気障害は、気道の狭窄により息を吐きにくくなる病態で、スパイロメトリーでは特徴的なパターンを示します。一秒率(FEV1/FVC)の低下が最も重要な診断指標となり、70%未満で閉塞性換気障害と診断されます。
参考)https://ohata-clinic.com/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%AD%EF%BC%88%E8%82%BA%E6%A9%9F%E8%83%BD%E6%A4%9C%E6%9F%BB%EF%BC%89
代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)と気管支喘息があります。COPDでは不可逆的な気道狭窄により一秒率が持続的に低下し、重症度に応じてFEV1の予測値に対する割合で病期分類されます。
気管支喘息では、気管支拡張薬投与前後でのスパイロメトリー測定により、可逆性の気道閉塞を確認できます。FEV1が薬剤投与後に12%かつ200mL以上改善する場合、可逆性ありと判定され、喘息の診断根拠となります。
興味深いことに、努力性呼気曲線の形状からも疾患の特徴を読み取ることができます。COPDでは呼気の初期は比較的正常だが後半で著明に低下する「concave pattern」を示し、重症の喘息では全体的に呼気流速が低下する特徴があります。
拘束性換気障害は、肺の拡張能力の低下により息を吸いにくくなる病態で、肺活量(FVC)の著明な減少が特徴的な所見です。%肺活量が80%未満で一秒率が正常範囲にある場合、拘束性換気障害と診断されます。
最も代表的な疾患は間質性肺炎(肺線維症)で、肺胞壁の線維化により肺の伸展性が低下します。この疾患では肺活量の進行性低下が特徴的で、定期的なスパイロメトリー検査により疾患の進行速度を客観的に評価できます。
胸郭の変形や呼吸筋力低下による拘束性障害も重要で、神経筋疾患や胸郭変形では特徴的なパターンを示します。これらの場合、最大吸気圧(MIP)や最大呼気圧(MEP)の同時測定により、肺実質の問題か呼吸筋の問題かを鑑別できます。
混合性換気障害として、一秒率と肺活量の両方が低下するパターンもあります。これは進行したCOPDや重症喘息で見られ、予後不良の指標とされるため、より慎重な経過観察が必要となります。
スパイロメトリーは診断だけでなく、治療効果の客観的評価において極めて重要な役割を果たします。特に気管支拡張薬の効果判定では、投与前後のFEV1の変化率により薬剤の有効性を定量的に評価できます。
COPDの管理では、年間FEV1低下率が重要な予後指標となります。正常では年間20-30mLの生理的低下ですが、COPDでは年間60mL以上の急速な低下を認める場合があり、治療強化の指標となります。
喘息の長期管理では、**ピークフロー値(PEF)**の変動率が重要です。朝夕のPEF値の差が20%以上ある場合、喘息のコントロール不良を示唆し、治療方針の見直しが必要となります。
術前評価においても、スパイロメトリーは必須の検査です。肺切除術前では、術後予測FEV1が800mL以上、または予測値の40%以上あることが安全な手術の目安とされています。この評価により、手術適応の決定や術後合併症のリスク評価が可能となります。
スパイロメトリーは、職業性肺疾患の早期発見と経過観察において重要な役割を果たします。アスベスト曝露による石綿肺では、初期には明らかな症状がなくても肺活量の軽度低下として検出されることがあります。
塗装業や溶接業に従事する方では、化学物質による気道過敏症の評価が重要です。メタコリン誘発試験と組み合わせることで、職業性喘息の診断が可能となり、作業環境の改善や配置転換の根拠となります。
珪肺症では、粉塵曝露歴のある方で肺活量の進行性低下を認める場合、胸部レントゲンで異常が明らかでなくても早期診断の手がかりとなります。特に建設業や採石業従事者では、定期的なスパイロメトリー検査により早期発見が可能です。
興味深い応用として、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングにも活用されています。日中の呼吸機能低下や努力性呼気曲線の異常パターンにより、夜間の呼吸障害を推測することができ、睡眠検査への橋渡しとなる貴重な情報を提供します。
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