腫瘍マーカーは、がん細胞自体またはがん細胞に反応した細胞によって産生される様々な物質の総称です。これらは主にタンパク質、ホルモン、酵素、糖鎖抗原などで構成されており、血液や尿などの体液中に検出されます。臨床現場では、がんの早期発見、病期の評価、治療効果の判定、再発モニタリングなど多岐にわたる用途で活用されています。
腫瘍マーカーは大きく分けて以下のタイプに分類できます。
腫瘍マーカーの臨床的意義は、その特異性と感度によって大きく左右されます。特異性が高いマーカーは特定のがん種に対して高い陽性率を示す一方、感度が高いマーカーは早期段階のがんでも検出可能です。しかし、多くの腫瘍マーカーは完全な特異性を持たず、非がん性疾患でも上昇することがあるため、診断の決め手というよりも補助的な役割を果たします。
臨床現場では、単一の腫瘍マーカーに頼るのではなく、複数のマーカーを組み合わせたり(コンビネーションアッセイ)、画像診断や病理検査などの他の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要です。また、個々の患者の既往歴や家族歴、生活習慣なども考慮に入れた解釈が求められます。
臓器特異性の高い腫瘍マーカーとは、特定の臓器や組織から発生したがんに対して高い陽性率を示すマーカーを指します。これらは診断的価値が高く、スクリーニングや治療効果のモニタリングに特に有用です。主な臓器特異性の高い腫瘍マーカーとその特徴について解説します。
PIVKA-II(タンパク質誘導体)
原発性肝細胞がんに対して高い特異性を持つマーカーです。ビタミンK欠乏によって産生される異常プロトロンビンで、肝細胞がんの診断や治療効果判定に用いられます。AFPと併用することで診断精度が向上します。進行度に比例して高値を示す傾向があり、早期がんでの検出率は約40%、進行がんでは約80%に達します。
PSA(前立腺特異抗原)
前立腺がんに対して最も信頼性の高い腫瘍マーカーの一つです。前立腺に特異的に存在するセリンプロテアーゼであり、前立腺がんのスクリーニング、治療効果判定、再発モニタリングに広く使用されています。健康診断や人間ドックでも一般的に測定され、早期発見に寄与しています。ただし、前立腺肥大症や前立腺炎などの良性疾患でも上昇することがあるため、遊離型PSAと結合型PSAの比率(%PSA)を測定することで鑑別診断の精度向上が図られています。
AFP(α-フェトプロテイン)
肝細胞がんと卵黄嚢腫瘍に高い特異性を示す代表的な癌胎児性抗原です。正常では胎児期に肝臓と卵黄嚢で産生されますが、出生後は急速に減少し、成人ではほとんど検出されません。肝細胞がんの診断において、PIVKA-IIとの併用が推奨されています。また、肝炎や肝硬変でも軽度上昇することがあるため、L3分画(レクチン親和性AFP)の測定が肝細胞がんの鑑別に有用とされています。
SCC(扁平上皮がん関連抗原)
子宮頸がん、食道がん、肺がんなど扁平上皮がん由来の腫瘍に対して特異性が高いマーカーです。特に子宮頸がんでは、ステージングや治療効果判定に広く用いられています。進行度に比例して陽性率が上昇し、早期がんでは約30%、進行がんでは約80%の陽性率を示します。
CYFRA(サイトケラチン19フラグメント)
肺の非小細胞がん、特に扁平上皮がんに対して高い特異性を持つマーカーです。腫瘍細胞の細胞骨格タンパク質であるサイトケラチン19の可溶性フラグメントであり、肺がんの診断や経過観察に用いられています。特に扁平上皮が