筋肉内注射が「原則禁止」であることを、あなたはすでに知っていますか?
シアノコバラミン注射液の効能・効果は全部で7つの大項目に分類されています。 第一に「ビタミンB12欠乏症の予防及び治療」、第二に「需要増大時の補給(消耗性疾患・甲状腺機能亢進症・妊産婦・授乳婦)」があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063128.pdf
続いて、巨赤芽球性貧血・広節裂頭条虫症・悪性貧血に伴う神経障害・吸収不全症候群(スプルー等)が続きます。 そして第7項目として、「栄養性および妊娠性貧血」「胃切除後の貧血」「肝障害に伴う貧血」「放射線による白血球減少症」「神経痛」「末梢神経炎・末梢神経麻痺」が挙げられています。
ここで注意が必要です。第7項目の適応は条件付きで、「ビタミンB12の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合」に限定されています。 単に神経痛があるからといって即投与できるわけではありません。
さらに重要なのが、添付文書に明記された一文です。「(7)の適応に対して、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでない」 とあります。これは原則です。1か月以上経過しても改善が見られない場合は、継続の必要性を必ず再評価することが求められています。
参考)医療用医薬品 : シアノコバラミン (シアノコバラミン注射液…
「漫然と使用すべきでない」が条件です。
添付文書に定められた標準用量は「シアノコバラミンとして、通常、成人1回1,000μg(1mL)まで」です。 投与経路は皮下・筋肉内・静脈内注射の3経路が認められており、年齢・症状により適宜増減します。
1,000μgという量は、経口摂取の吸収量と比べると非常に高用量です。ビタミンB12の食事摂取基準(日本人成人)が1日約2.4μgであることを考えると、1回注射量はその約400倍に相当します。これは吸収不全の患者に対し確実に補給するための設計です。
ただし投与経路の選択には慎重な対応が求められます。特に静脈内注射時は「できるだけ緩徐に投与することが望ましい」と明記されています。 急速投与はリスクを伴います。
筋肉内注射については、より強い注意喚起があります。添付文書では「筋肉内注射はやむを得ない場合にのみ、必要最小限に行うこと」と記載されており、日常的な筋注ルートとして選択することは適切ではありません。 意外ですね。
同一部位への反復注射は行わないことが必須です。
禁忌は1項目のみ、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」です。 非常にシンプルに見えますが、実際の投与前確認では過去のビタミンB12製剤使用歴を必ず聴取する必要があります。
重大な副作用として挙げられているのがアナフィラキシー(頻度不明)です。 「頻度不明」であることは稀であることを意味しません。むしろ発生頻度が正確に把握できていないという意味であり、リスクは否定できません。投与後の観察が重要です。
その他の副作用として、過敏症(発疹・そう痒感)が頻度不明で報告されています。 軽微に見えても、アナフィラキシーの前駆症状となり得るため、皮膚症状の出現には注意が必要です。
筋肉内注射時の注意事項も詳細に規定されています。
小児への注意が条件です。特に低出生体重児への筋注は最大限の慎重さが必要です。
なお、製品によってはベンジルアルコールを添加剤として含むものがあります。 外国報告では新生児へのベンジルアルコール大量静注(99〜234mg/kg)により、あえぎ呼吸・アシドーシス・痙攣などの中毒症状が発現したという報告があります。製剤選択時に添加剤の確認も怠れません。
参考:添付文書(シアノコバラミン注射液1mg「ツルハラ」)禁忌・副作用・小児等への注意事項が詳細に記載されています。
シアノコバラミン注射液1mg「ツルハラ」添付文書PDF(data-index.co.jp)
添付文書における保存に関する規定は明快です。貯法は「室温保存」、有効期間は製品によって3年または5年と異なります。 この差は製剤設計(添加剤の有無など)によって生じるものです。
特に重要な取扱い注意事項として「外箱開封後は遮光して保存すること」が全製品共通で記載されています。 シアノコバラミンは光に不安定で、光分解によりシアン化物が生成するリスクがあります。これは知っておくべき事実です。
病棟・処置室で外箱から出して保管しているケースがありますが、それは添付文書の規定に反する管理です。遮光保存の徹底が薬剤品質を守る唯一の方法です。
変色を確認したら使用禁止が原則です。
投与直前に製品の外観(色調・澄明度)を確認する習慣が、品質トラブルの防止につながります。調剤・準備担当のスタッフへのレクチャーにも活用できる知識です。
シアノコバラミンはビタミンB12の一形態であり、体内で活性型(メチルコバラミン・アデノシルコバラミン)に変換されて機能します。 添付文書の薬効薬理(18.1)では、以下の3つの主要機序が説明されています。
第一は葉酸の活性化を介したDNA合成への間接的関与です。葉酸がDNA合成に使われるためにはビタミンB12が必要で、B12欠乏時には葉酸が機能不全となり、骨髄での正常な赤血球産生が障害されます。巨赤芽球性貧血はその典型です。
第二はメチルマロニルCoAからサクシニルCoAへの転換促進で、造血機能の正常化に寄与します。 この反応が障害されると有機酸が蓄積し、神経毒性を生じます。
第三は髄鞘(ミエリン鞘)形成の促進です。 B12欠乏が長期化すると末梢・中枢神経のミエリン鞘が障害され、神経症状(しびれ・歩行障害・認知機能低下)が出現します。これが適応(5)「悪性貧血に伴う神経障害」の理論的根拠です。
つまり造血・神経の両面に作用します。
注射製剤が選択される理由は明確で、経口摂取では吸収に内因子(胃壁細胞産生の糖タンパク)が必要なため、胃切除後や悪性貧血では経口投与では吸収されないからです。 注射による直接補給が不可欠となる場面があるということですね。
参考:シアノコバラミン注射の効能・効果・副作用・添付文書情報を医師・薬剤師向けに整理したページです。
シアノコバラミン注射液1mg「日医工」の効能・副作用(CareNet)
参考:JAPIC収載の添付文書情報。シアノコバラミン注射液の組成・薬効薬理・適用上の注意が詳細に記載されています。
シアノコバラミン注1000μg「NP」添付文書PDF(JAPIC)