約1億6700万円という薬価でも、患者の実質的な窓口負担は数万円台で済む場合があります。

オナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)は、2020年5月13日の中医協総会で薬価1億6,707万7,222円として承認されました。 これは国内の薬価としては史上最高額であり、それまでの最高額だったキムリア(約3,349万円)の約5倍に相当します。
関連)https://www.m3.com/news/iryoishin/770714
薬価算定には「類似薬効比較方式」が適用されました。 類似薬として脊髄性筋萎縮症(SMA)の既存治療薬「スピンラザ」(約949万円)が選ばれ、1日あたりの薬価を基準に計算が行われました。 ゾルゲンスマは1回の投与で治療が完結するため、スピンラザの長期投与コストを換算した上で算定されています。
関連)https://medicaldoc.jp/news/202005n0116/
つまり「1回限りの治療」という点が価格の論拠です。
スピンラザとの比較ベースに対して、有用性加算・画期性加算・小児加算・先駆け審査指定制度加算(10%)が上乗せされ、合計60%の補正加算が反映されました。 さらに複数国の薬価平均との調整も行われています。高い薬価の背景には、単なる製造コストではなく「一生分の治療費を1回に集約した」という考え方があります。
関連)https://www.kenporen.com/book/kenpo_news/detail/2005/200503_06.shtml
| 薬剤名 | 薬価(1患者あたり) | 投与回数 |
|---|---|---|
| ゾルゲンスマ(オナセムノゲン アベパルボベク) | 1億6,707万7,222円 | 1回のみ |
| スピンラザ(ヌシネルセン) | 約949万円/回(初回以降定期投与) | 継続投与 |
| キムリア(チサゲンレクルユーセル) | 約3,349万円 | 1回 |
保険適用の対象は、2020年の収載当初は「2歳未満のSMA患者」に限定されていました。 SMAの診断基準としては、臨床所見で発症が確認されているケースに加え、遺伝子検査でSMA発症が予測されるケース(症状が出る前の段階)も含まれます。これは重要なポイントです。
関連)https://saiseiiryo.net/%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9E/
症状出現前でも保険適用が可能ということですね。
医療従事者が把握すべき条件をまとめると。
1億6,700万円という数字を見て、「患者は払えるのか」と疑問を持つ医療従事者は多いでしょう。実際には、高額療養費制度と指定難病の医療費助成制度が組み合わさることで、患者の窓口負担は所得区分に応じた月額上限に抑えられます。
関連)https://www.kenporen.com/book/kenpo_news/detail/2005/200503_06.shtml
高額療養費制度では、70歳未満・標準的な所得の場合、ひと月の自己負担上限は概ね8〜26万円程度に設定されています。 さらにSMAは指定難病に該当するため、難病医療費助成制度も適用可能です。制度の組み合わせが患者を守ります。
関連)https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/8455.html
加えて、小児慢性特定疾病医療費助成制度が適用される患者(18歳未満など)では自己負担がさらに軽減されます。高額療養費の「多数回該当」制度(同一世帯で直近12カ月に3回以上の高額療養費が発生した場合、4回目以降の上限額が下がる仕組み)も覚えておくと、患者への説明に役立ちます。
関連)https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/8455.html
限度額適用認定証を事前に取得しておくことで、窓口での一時的な高額支払いを回避できます。入院前に手続きを案内するのが現実的な対応です。
関連)https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/8455.html
参考:高額療養費制度の詳細な計算方法・限度額一覧(厚生労働省)
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(PDF)
国内最高薬価という注目度の高さから、ゾルゲンスマは薬価改定・再算定の対象になるかどうかが医療業界で注目されました。通常、薬価は2年ごとの改定で市場実勢価格に合わせて引き下げられます。しかし超高額薬品には「最適使用推進ガイドライン」や「費用対効果評価制度(HTA)」との連動が議論されています。
厚生労働省はゾルゲンスマを費用対効果評価の対象品目に指定しており、評価結果によっては薬価の追加引き下げが行われる仕組みです。 現時点では、患者数が年間数十人程度と極めて少ないため、市場全体への影響は限定的とも言えます。ただし制度上の前例として、今後の高額遺伝子治療薬の価格設定に大きく影響します。
意外なのは、患者が少ないほど薬価が守られやすいという逆説です。
対象患者数が少ない場合、薬価改定での「市場実勢価格との乖離」が生まれにくく、改定幅が小さくなる傾向があります。SMAの国内患者数は2018年時点で858人と報告されており、年間の新規ゾルゲンスマ投与対象患者は数十人規模と推定されます。 超少数の患者に対してのみ使われる薬では、流通量自体が少なく、大幅な薬価下落が起きにくいという構造があります。
関連)https://saiseiiryo.net/%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9E/
参考:ゾルゲンスマの作用機序・薬価算定の背景(詳細解説)
PassMed「ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴」
現場での投与準備において、薬価の高さと同様に重要なのが投与前チェックリストの徹底です。ゾルゲンスマは静脈内投与(点滴静注)製剤と髄腔内投与(髄注)製剤で投与経路が異なり、混同は重大なリスクになります。これは見落とせません。
投与前に確認すべき主要項目。
医療機関内での「最適使用推進ガイドライン」に基づく施設要件・医師要件の確認も欠かせません。ゾルゲンスマは特定の要件を満たした施設・医師のみが使用できる薬剤です。
関連)https://saiseiiryo.net/%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9E/
参考:ゾルゲンスマの再生医療等製品としての特性・投与管理の解説
再生医療ドットネット「再生医療等製品#8 ゾルゲンスマ」
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