NT-proBNPを「心不全の病名さえあれば毎月問題なく算定できる」と思って請求すると、実は97%以上の確率で査定・返戻されているケースが全国で報告されています。
NT-proBNP(脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)は、診療報酬上「心不全の診断または病態把握のために実施した場合に、月1回に限り算定できる」と定められています。 つまり、傷病名欄に「心不全」または「心不全の疑い」が記載されていることが大前提です。
関連)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/061053.html
それだけではありません。
支払基金の取扱い事例では、「心房細動」や「高血圧症」のみの傷病名に対してNT-proBNPを算定した場合は、心不全の病態であると判断できないとして原則として認められないと明示されています。 「心房細動の患者にNT-proBNPを測っているから当然請求できるはず」という考え方は、査定リスクに直結します。
実際、全国での審査では、心房細動等に対するNT-proBNPの請求のうち97.59%が査定・返戻となったと報告されています。 これは約10件中ほぼ10件が認められないという水準です。
関連)https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/saikaisyou_torikumi/kashikarepo/kashikarepo_jirei.files/ip285.pdf
| 傷病名 | 算定可否 | 備考 |
|---|---|---|
| 心不全 | ✅ 可 | 最も確実な病名 |
| 心不全の疑い | ✅ 可 | 初回診断時など |
| 心臓性浮腫 | ✅ 可(連月も可) | 心不全に伴う浮腫として認められる |
| 慢性心不全(基礎疾患名あり) | ✅ 可 | 心筋梗塞等の基礎疾患名も記載が望ましい |
| 心房細動のみ | ❌ 原則不可 | 心不全の病態と判断できない |
| 高血圧症のみ | ❌ 原則不可 | 同上 |
| 浮腫のみ(心臓性との記載なし) | △ 要注意 | 査定される事例あり |
心不全が基本です。
ただし、「慢性心不全」など確定病名がある場合でも、基礎疾患名(例:拡張型心筋症、虚血性心疾患など)を傷病名に併記しておくことで、審査上の整合性が高まります。 傷病名の付け方ひとつで、返戻の有無が変わると覚えておいてください。
参考:心房細動等に対するNT-proBNPの審査取扱い(支払基金)
【検査285】心房細動等に対するNT-proBNPの算定について(社会保険診療報酬支払基金)
「NT-proBNPを算定するたびに、毎月心電図や胸部X線も撮らないといけないの?」という疑問は、医療事務の現場でよく挙がります。
結論は、毎月必須ではありません。
意外ですね。
実際には、少なくとも初回時または診断確定時に心電図・胸部X線を同月に算定し、摘要欄に「心不全の病態把握のため」などの理由を記載しておくことが、査定回避の実務的な対策として推奨されています。 毎月の実施が必要かどうかは、病態の変化・主治医の判断によります。
関連)http://shirobon.net/qabbs_detail.php?bbs_id=44823
具体的な対策として。
算定月ごとに心電図・X線が必要とは限りませんが、根拠の記録が条件です。
参考:NT-proBNP請求時の胸部写真・心電図について(しろぼんねっと Q&A)
NT-proBNPを行う際の胸部単純写真あるいは心電図について(医療事務 Q&A)
「NT-proBNPとBNPを同じ月に両方測定したら、2つとも請求できる」と思っている方は注意が必要です。
これは算定できません。
BNP・NT-proBNP・ANP(hANP)のうち2項目以上を、いずれかの検査を行った日から起算して1週間以内に実施した場合は、主たるもの1つに限り算定できるというルールがあります。 たとえばNT-proBNPを測定した翌日にBNPも測定しても、レセプトに計上できるのはより高点数の主たる1項目のみです。
関連)https://data.medience.co.jp/guide/guide-03090002.html
この規定は多くの医療機関で見落とされがちで、実際に返戻・査定となった事例が報告されています。
関連)http://shirobon.net/qabbs_detail.php?bbs_id=39134
点数の観点でも確認しておきましょう。NT-proBNPの保険点数は生化学的検査(Ⅱ)に分類され、判断料は144点です。 BNPも同区分です。同一週内に2項目測定するメリットはほとんどなく、むしろ請求ミスのリスクを生むだけです。
関連)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/detail.php?pk=245
実務では次の1点だけを守ればOKです。
どれを算定するか迷う場合は、医師と相談の上で診断目的に合った項目を選択し、統一するのが最善策です。
参考:NT-proBNPの算定要件と注意点(ファルコバイオシステムズ)
NT-proBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)保険点数・算定条件(ファルコバイオシステムズ)
心不全の患者を継続的に管理している場合、毎月NT-proBNPを測定して連月算定することは、原則として認められます。
ただし、例外があります。
支払基金の事例では、「心疾患の確定病名がなく、BNP異常値→心エコー異常なし→翌月BNP異常値→心エコー異常なし」というパターンを繰り返す場合は、査定対象となる可能性があると示されています。 「心不全疑い」のままで毎月検査を繰り返すだけでは、いずれ審査で引っかかるリスクがあります。
関連)http://shirobon.net/qabbs_detail.php?bbs_id=35781
厳しいところですね。
つまり、連月算定を継続するためには、次の条件を満たすことが重要です。
「心臓性浮腫」病名でのNT-proBNP連月算定は、支払基金により明確に「原則として認められる」と取り扱われています。 心不全に伴う浮腫管理の場面では、この病名が請求の安全策になります。
また、心不全患者のNT-proBNP測定は月1回を超えての算定は認められていないため、同月内に複数回測定しても請求できるのは1回分のみです。 この点も医師・看護師・事務スタッフ間で共有しておく必要があります。
参考:心臓性浮腫に対するNT-proBNPの連月算定の取扱い(支払基金)
【検査320】心臓性浮腫に対するNT-proBNPの連月算定について(社会保険診療報酬支払基金)
病名が揃っていても、摘要欄の記載が不十分なために返戻となるケースがあります。
摘要欄は査定防止の最後の砦です。
以下は摘要欄の記載例です。
| 場面 | 摘要欄記載例 |
|---|---|
| 初回診断時 | 「心不全の診断目的」 |
| 慢性心不全の経過観察 | 「心不全病態把握のため(慢性心不全管理中)」 |
| 治療変更後のフォロー | 「利尿剤増量後の病態評価目的」 |
| 心臓性浮腫の管理 | 「心臓性浮腫の経過観察・病態把握のため」 |
摘要欄が条件です。
傷病名・検査実施理由・摘要欄の3点が揃えば、審査委員がレセプトを読んだ際に「妥当な請求」と判断しやすくなります。 逆に摘要欄が空白であれば、適切な請求であっても「理由不明」として返戻となることがあります。
関連)http://www.yamaguchi.med.or.jp/images/medical/blue-page/No1690_H15-10-01_749-754.pdf
実務でさらに役立つ情報は、支払基金や社会保険診療報酬支払基金の審査事例データベース(医科)でも確認できます。審査取扱い事例は随時更新されているため、年に1回程度チェックする習慣をつけると、新たな査定リスクを早期に把握できます。
参考:医療事務・傷病名の点検ポイント(日本医業総研グループ)
参考:BNP・NT-proBNP測定の保険診療上の留意点(日本心不全学会)
血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について(日本心不全学会)