ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる普遍的な電子伝達体です 。その化学構造は、ニコチンアミドとアデニンが2つのヌクレオチドによってつながった形で構成されており、酸化型がNAD+、還元型がNADHと記載されます 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%89%E3%82%A2%E3%83%87%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%8C%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%81%E3%83%89
この分子は18世紀初頭に発見され、人体内の細胞で起こる代謝過程や反応に不可欠な成分として機能しています 。NAD+は二電子還元を受けることができ、中間型は生じないという特徴があります 。
参考)https://www.hanaoka-ladiesclinic.com/medical/beauty/nad/
かつては、ジホスホピリジンヌクレオチド(DPN)、補酵素I、コエンザイムI、コデヒドロゲナーゼIなどの名称で呼ばれていましたが、現在はNAD+に統一されています 。
NAD+とNADHは細胞内において多くの酸化還元反応に関係しており、直接的または間接的に、代謝、免疫機能、DNA修復、クロマチンリモデリングといった多様なプロセスに影響を与えます 。特にエネルギー代謝において、NADHはATP合成におけるプロトン濃度勾配を形成するために必要不可欠です 。
参考)https://humanmetabolome.com/jpn/news/2023/04/68465/
NAD+は解糖系とトリカルボン酸系の必須補酵素であり、これらの経路では人体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)が生成されます 。解糖系やTCAサイクル、β酸化などによって生成されるNADHは、細胞呼吸のすべての部分において重要な役割を担っています 。
参考)https://kkclinic-ichihara.com/pdf/nad_therapy.pdf
NAD+は長寿遺伝子として知られる「サーチュイン遺伝子」を活性化させる働きがあります 。サーチュイン遺伝子が活性化されることで、細胞の修復や老化の抑制、さらには寿命の延伸が期待されており、抗老化医療の分野でも注目されています 。
参考)https://medipreneur-jp.com/business/nmn.html
多くの研究データにより、NAD+の欠乏が様々な病気や病態を引き起こすことが示唆されており、近年では加齢に伴う身体の衰え(老化現象)をNAD+によって改善できる可能性が報告されています 。NAD+/NADH比(またはNADH/NAD+比)は、ミトコンドリアや細胞の状態を判断する指標としてメタボローム研究でもよく利用されています 。
年齢とともにNAD+の量は減少し、これが細胞の機能低下や老化に寄与すると考えられています 。NAD+は加齢とともに減少し、40代では10代後半の約半分にまで低下するといわれています 。
参考)https://www.iv-therapy.org/g_nmn_nad-therapy/
このNAD+の減少により、エネルギー代謝や細胞機能の低下が生じ、認知機能の衰退やがん、代謝性疾患など、多くの加齢関連疾患に関連付けられています 。そのため、NADの材料となる前駆体を投与するNAD補充療法が考えられてきました 。
参考)https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a60325740/nad-supplement-20240401/
外因性NAD+の補給により、体内のATPレベルが増加し、その結果、エネルギーレベルを高め、疲労感を軽減する効果が期待されます 。NAD+は代謝と概日リズムの調節にも重要な役割を果たすことが研究で示されています 。
NAD+は脳に対して保護作用と刺激作用の両方を発揮することが示されており、記憶力の向上、集中力の改善、脳再生の促進、神経機能全般の改善などの効果が期待できます 。このように、体の機能を向上させ、病気や加齢による筋肉の減少や心臓の健康状態の低下を遅らせるのに役立つとされています 。
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、NAD+の主要な前駆体として知られており、体内でNAD+に変換される過程を経ます 。NMNは、ニコチンアミドと呼ばれるビタミンB3の一形態から生成される分子で、細胞内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の合成に関与しています 。
参考)https://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20220412.pdf
NADは三つの経路で合成されており、NmnatはNMN、NAMNのどちらも基質とし、ATPのアデニンヌクレオチドを結合させNADもしくはNAADを合成します 。この合成経路において、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド構造中の高エネルギーリン酸結合であるリン酸無水結合(ピロリン酸結合)の加水分解により、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドとAMPが生成される過程が重要な役割を果たしています 。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2020.920572/data/index.html
明治ホールディングス株式会社の研究では、抗老化物質ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の長期摂取が、高齢者の歩行速度を維持し、睡眠の質を改善することが確認されました 。この研究成果は、国際学術誌GeroScienceに掲載され、ヒトを対象とした研究により明らかになった重要な知見です 。
参考)https://www.meiji.com/pdf/news/2024/240621_01.pdf
富山大学の研究では、健常な日本人でのNMNの安全性が示され、NMN摂取が血液中ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の量を大きく増加させることが明らかになりました 。閉経後の女性のやや過体重の、前糖尿病状態の方に一日250mg 10週間内服を続けた結果、筋骨格筋のインスリン感受性を25%向上させ、これは10%体重を下げた時の代謝の改善に匹敵する効果でした 。
参考)https://tanaka-heartful.com/blog/post-56/
東京大学の研究では、NMNの経口摂取による高齢男性の運動機能向上が確認され、サルコペニアの予防効果が期待されています 。
参考)https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/__icsFiles/afieldfile/2022/05/06/release_20220501_1.pdf
NAD+点滴療法は、米国で普及している治療法で、NAD+を点滴により直接血管内に取り入れることで、体内でより効率的なNAD+増加による若返り効果が期待できます 。投与方法としては、NAD+ 100~500mgを生理食塩水100~250mlに溶解して点滴で投与します 。
参考)https://biken-kai.com/renais-nihonbashi/nad/
点滴時間は投与量により異なり、100mg:30~45分、200mg:60~90分、300mg:90~120分、500mg:90~150分となっています 。初回は副作用の有無を確認するため、時間をかけて点滴し、副反応が少ない方では2回目以降点滴時間を短縮することができます 。
投与頻度については、100~200mgを1~2週間毎、もしくは300~500mgを2~4週間毎に点滴することが推奨されています 。効果を早期に出すためには、連日投与(5日間)が有用とされており、通常2~3週間体内に留まるため、2週間~1ヶ月に1回の治療が効果的と考えられています 。
参考)https://aoyama-hurri-clinic.ienn.or.jp/1172/
山口大学の研究では、健康な若年マウスへのNMN単回投与でも代謝改善効果が得られることが世界で初めて示されました 。この研究で認められた脂質代謝を介したインスリン感受性の改善は、即効性の代謝改善効果として注目されています 。
参考)https://www.yamaguchi-u.ac.jp/weekly/41465/index.html
ヒトやマウスでNMN摂取することで抗肥満、エネルギー代謝改善作用を示すことがわかっており、さらに研究では、高齢者の筋肉機能の改善、アスリート選手の有酸素能力や持久力の向上、インスリン感受性の改善が示唆されています 。
NAD+静脈点滴は、慢性疲労やエネルギーレベルの低下を抱える人々の管理に使用されており、体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の生成を促進することで、エネルギーレベルの向上と疲労感の軽減が期待されます 。
NAD+は脳に対して保護作用と刺激作用の両方を発揮することが示されており、記憶力の向上、集中力の改善、脳再生の促進、神経機能全般の改善などの効果が期待できます 。NAD+点滴療法は、身体の若返り効果だけでなく、認知機能の向上、記憶力・集中力の向上など「脳の若返り」に特に効果的であるとされています 。
参考)https://www.drsato02.com/chiryou/tenteki/nad-therapy/
睡眠の質も高めることがわかっており、年々衰えていく睡眠の質を改善してくれ、つまり若い人の生理学的な状態を保つことができるようになっていき、老化を遅らせることが期待されています 。外因性NAD+の補給がこのような効果を発揮する的確な方法については、現在も研究が進められています 。
NAD+点滴療法には、いくつかの副作用や注意事項があります。可能性のある副作用としては、胃腸の不快感、吐き気、紅潮、頭痛などがあり、腹部膨満感、筋肉痛、かゆみ、発汗、排便の変化なども生じる場合があります 。
点滴療法特有の副作用として、息切れ、動悸、胸の不快感や熱感、肝機能障害(血清ビリルビン、AST、LDHの一過性上昇)、頭痛・めまい、便秘などが報告されています 。点滴中に胸部の熱感や不快感、動悸、息切れなどを感じることがあるため、これらの症状が現れた場合は、すぐに医師または看護師に知らせる必要があります 。
参考)https://www.shinjukuclinic.com/nad/
禁忌事項として、NADによるアレルギー既往歴がある方、妊娠中・授乳中の方、子供(小児)は治療を受けることができません 。また、点滴速度が速すぎると、頭痛や吐き気などの副作用が起こりやすくなるため、医師の指示に従い、適切な点滴速度で投与を受けることが重要です 。
専門家によると、NAD+の長期的な副作用と危険性についてはほとんど未知であることから、服用する際に慎重である必要があります 。NAD+が、さまざまな細胞のプロセスに関与している事実を考慮すると、生物学的経路に及ぼす影響に関して、理論上の懸念があるとされています 。