イグラチモドは主としてB細胞による免疫グロブリン(IgG、IgM)の産生、および単球/マクロファージや滑膜細胞による炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6、IL-8、MCP-1)の産生を抑制することで抗リウマチ作用を発揮します。これらの作用は免疫グロブリンや炎症性サイトカインのmRNA発現低下を伴っており、転写因子Nuclear Factor κB(NFκB)の活性化抑制を介した作用であることが示唆されています。
参考)イグラチモド錠25mg「サワイ」の効能・副作用|ケアネット医…
日本で開発された低分子の抗リウマチ薬であり、2012年に日本で承認されて以降、関節リウマチ治療において広く使用されています。イグラチモドの血中濃度は約3μg/mLであり、この臨床用量範囲において効果的な免疫調整作用を示します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8160848/
日本薬理学雑誌の本薬剤の薬理学的特性に関する総説では、イグラチモドの詳細な作用機序と臨床試験成績が報告されており、薬剤選択時の重要な参考資料となります。
国内第III相試験において、関節リウマチ患者を対象にイグラチモド(1回25mg1日1回投与から開始し、4週間後に1回25mg1日2回投与に増量し、24週間投与)とプラセボの二重盲検比較試験が実施されました。投与28週後のアメリカリウマチ学会評価基準(ACR20)による改善率は、イグラチモド群で53.8%(71/132例)、プラセボ群で17.2%(11/64例)であり、イグラチモドの改善率はプラセボと比較して有意に優れていました(p<0.001)。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070561.pdf
メトトレキサート(MTX)単剤で効果不十分な患者を対象としたランダム化比較試験では、MTX+イグラチモド併用療法とMTX単独療法が比較されました。その結果、ACR20ではRR=2.27(95%CI 1.63-3.15)、ACR50ではRR=2.41(95%CI 1.44-4.05)、ACR70ではRR=3.00(95%CI 1.20-7.51)といずれも有意差が示され、DAS28-CRPやHAQにおいても有意な改善が認められました。
参考)リウマチのお薬(イグラチモド/ケアラム:IGU)
84件のランダム化比較試験を対象としたメタアナリシスでは、イグラチモドが関節リウマチだけでなくシェーグレン症候群においても有効性を示し、ESSPRI、ESSDAIスコアの低下、ESR、CRP、リウマトイド因子の減少、Schirmer試験スコアの改善が確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10740187/
国内第III相試験における副作用発現率(臨床検査値異常を含む)は、イグラチモド群49.6%(65/131例)、プラセボ群32.4%(22/68例)でした。主な副作用はALT増加22例(16.8%)、AST増加19例(14.5%)、γ-GTP増加17例(13.0%)、Al-P増加15例(11.5%)など肝機能数値の上昇が中心です。
参考)イグラチモド(ケアラムⓇ)にはどのような副作用がありますか?…
その他の一般的な副作用として、腹痛、口内炎、吐き気、発疹、かゆみ、鼻咽頭炎(いずれも1~10%未満)が報告されています。重大な副作用としては、肝機能障害(0.5%)、黄疸(0.1%)、汎血球減少症(0.1%)、無顆粒球症(頻度不明)、白血球減少(0.1%)、消化性潰瘍(0.7%)、間質性肺炎(0.3%)、感染症(0.2%)が挙げられます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=70651
サラゾスルファピリジン(SASP)との比較では、イグラチモド群の方が胃腸障害(上腹部痛、口内炎)、肝胆道系検査値異常および血中尿素増加が多く、皮膚炎および発熱が少ないという特徴があります。一般的に1日1回1錠から開始し、4週間後に腎機能・肝機能の血液検査で安全性を確認してから1日2回に増量する投与方法が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_pdf
イグラチモドはメトトレキサート(MTX)との併用により、それぞれ単剤で使用するよりも高い効果が期待できると報告されています。MTX不応例に対するアドオン療法として、イグラチモドは有意な臨床的改善をもたらすことが複数の研究で実証されています。
参考)他の抗リウマチ薬と免疫抑制薬|関節リウマチ
メトトレキサート+ヒドロキシクロロキン(HCQ)との比較試験では、イグラチモド+MTXの方がDAS28-ESRの改善において優れていることが示されました(MD −2.16、95%CI −2.53 to −1.79、p<0.00001)。また、メトトレキサート+トリプテリギウム配糖体(TGs)との比較でも、イグラチモド+MTXはDAS28-ESRの改善傾向を示しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9389904/
メトトレキサートとの併用療法に関する系統的レビューとメタアナリシスでは、イグラチモド単剤療法および併用療法の有効性と安全性が総合的に評価されており、治療選択の根拠として有用です。
重症副作用の発生率に関しては、併用療法と単独療法の間で有意差は示されておらず、併用療法の安全性プロファイルは良好であると考えられています。日本のリウマチ診療においてイグラチモドは、メトトレキサートと並んで最も使用されている合成抗リウマチ薬の一つとなっています。
参考)https://www.mdpi.com/2075-1729/11/5/457/pdf
イグラチモドは関節リウマチの炎症抑制だけでなく、骨代謝に対して特徴的な効果を持つことが近年明らかになっています。不動性骨粗鬆症モデルマウスを用いた研究では、イグラチモド投与により後肢免荷による大腿骨の骨量低下が抑制されることが示されました。
参考)1st Author href="http://www.jsbmr.jp/1st_author/issue500/557_miura.html" target="_blank">http://www.jsbmr.jp/1st_author/issue500/557_miura.htmlgt; 三浦 泰平
組織学的解析において、イグラチモドは破骨細胞分化を抑制しながらも骨芽細胞分化を促進し、さらに骨細胞からのスクレロスチン発現を抑制することが明らかとなりました。この作用メカニズムには、骨細胞のERK/EGR1/TNFα経路の抑制が関与しており、RANKLとスクレロスチンの産生阻害を介して骨量を維持すると考えられています。
参考)http://www.sugitani.u-toyama.ac.jp/sangaku/forum/forum/souyaku37/02.pdf
日本骨代謝学会での報告によれば、イグラチモドは骨細胞を標的とした不動性骨粗鬆症に対する新たな治療選択肢となる可能性が示されており、関節リウマチ患者における骨破壊進行の抑制が期待されます。
慢性関節炎モデルであるラットのアジュバント関節炎に対する試験では、イグラチモドの予防投与および治療投与により関節腫脹が軽減され、骨病変の進展が抑制されることが確認されています。BMP-2刺激による骨芽細胞の分化促進作用も認められており、骨形成と骨吸収の両面から骨代謝バランスを調整する薬剤として注目されています。
イグラチモドはサラゾスルファピリジン(SASP)と同等の効果があるとされており、比較的早期で軽症から中等症の関節リウマチ患者に有用性があります。臨床試験において、イグラチモドはプラセボに対して優越性を示し、SASPに対しては非劣性が証明されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7054862/
メトトレキサート(MTX)と比較した場合、イグラチモドは免疫抑制作用が比較的マイルドであり、腎機能や肺機能に問題がありMTXが使用できない患者、高齢者、強力な免疫抑制薬に対して不安のある患者などに選択されることが多いです。また、メトトレキサートのように曜日を気にせず毎日朝と夕に服用できるため、服薬コンプライアンスの面でも利点があります。
参考)リウマチの治療(飲み薬)
リウマトイド因子が高値の患者では、イグラチモドのより高い効果が期待できるという報告もあります。免疫パラメータのIgG、IgM、IgAおよびリウマトイド因子に関して、イグラチモドはプラセボ群より有意な改善作用を示し、特にIgMにおいてはSASP群より有意な改善作用を示すことから、免疫異常の改善作用が強いことが示されています。
参考)低分子抗リウマチ薬イグラチモド(コルベットhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/lt;suphref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/gt;href="https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/140/6/140_285/_article/-char/ja/amp;reg…
痛み止めから開発された経緯を持つイグラチモドは、疼痛コントロールにおいても一定の効果が期待できるとされています。生物学的製剤が費用面で困難な患者や、治療負荷の高い薬剤を避けたい患者にとって、イグラチモドは重要な治療選択肢となっています。
参考)抗リウマチ薬(DMARDs)について - 足立慶友整形外科
イグラチモドは関節リウマチだけでなく、原発性シェーグレン症候群(PSS)に対しても有効性が報告されています。初期のシェーグレン症候群患者27名を対象としたオープンラベルパイロット研究では、イグラチモド25mgを1日2回、24週間投与した結果、ESSDAI(Eular Sjögren's Syndrome Disease Activity Index)スコアが中央値で5から2へ有意に低下しました(p<0.01)。
参考)イグラチモド治療は、初期のシェーグレン症候群の初期の疾患活動…
免疫学的パラメータにおいても顕著な改善が認められ、IgGは中央値26.6から21.4 g/Lへ、リウマトイド因子は119.9から83.8 IU/mLへと有意に減少しました(いずれもp<0.01)。また、ESR、CRP、リウマトイド因子などの炎症マーカーの抑制に加えて、Schirmer試験スコアの改善も観察され、涙腺機能の改善が示唆されています。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2023.1189142/pdf?isPublishedV2=False
84件のランダム化比較試験を含むメタアナリシスでは、イグラチモド投与により他の治療との併用群でESSPRIスコアがWMD −1.71(−2.44, −0.98)、イグラチモド単独群でWMD −2.10(−2.40, −1.81)と有意に改善し、ESSDAIスコアも同様の改善が確認されました(いずれもp<0.00001)。
リウマチ性および自己免疫疾患に対するイグラチモドの効果に関する大規模メタアナリシスによれば、シェーグレン症候群におけるイグラチモドの副作用発現率はコントロール群よりも低く、安全性プロファイルも良好であることが示されています。
ただし、ESSPRI(患者報告指数)、唾液腺機能、疲労感、健康関連QOLについては治療中に有意な変化が認められなかったとする報告もあり、これらの症状に対する効果は限定的である可能性が示唆されています。重篤な副作用として1名に血小板減少症が観察されましたが、その他の深刻な有害事象は報告されておらず、シェーグレン症候群患者に対しても比較的安全に使用できると考えられています。