イグラチモド錠を「比較的おとなしい抗リウマチ薬」と思い込んでいると、ワルファリン併用による死亡例を見逃すリスクがあります。

イグラチモド錠(ケアラム®・ブルーレックス®)は2012年に国内で承認された、経口投与の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)です。作用機序はB細胞からの自己抗体産生抑制、TNFα・IL-6などの炎症性サイトカイン抑制、さらにRANKLを介した骨破壊抑制の3点に及びます。
「免疫調整薬」として分類されるため「免疫抑制薬より安全」というイメージを持たれがちですが、添付文書に記載された重大な副作用は5項目あります。まず重要なのはその頻度感覚を正確につかむことです。
| 重大な副作用 | 頻度 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 肝機能障害・黄疸 | 0.5% / 0.1% | 全身倦怠感、食欲不振、黄染 |
| 汎血球減少症・白血球減少 | 各0.1% | 発熱、のどの痛み、鼻出血、歯肉出血 |
| 無顆粒球症 | 頻度不明 | 高熱、著明な倦怠感 |
| 消化性潰瘍 | 0.7% | 吐き気、腹痛、下血 |
| 間質性肺炎 | 0.3% | 発熱、乾性咳嗽、呼吸困難 |
| 感染症(敗血症・膿胸) | 0.2% | 発熱、悪寒、関節痛 |
消化性潰瘍の頻度0.7%は重大な副作用の中では最も高い数値です。つまり消化性潰瘍に注意が必要、ということですね。これはイグラチモドがシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用を持つことと無関係ではなく、もともとNSAIDsの開発過程から生まれた薬剤という背景に由来します。そのため、消化性潰瘍のある患者は禁忌、既往歴のある患者は慎重投与が原則です。
なお、2017年1月にはPMDAより「重大な副作用」の「汎血球減少症・白血球減少」の項目に「無顆粒球症」が追記されています。頻度不明とされているため、数字だけで過小評価しないよう注意が必要です。
参考:PMDAによるイグラチモドの「使用上の注意」改訂について(無顆粒球症の追記内容)
https://www.pmda.go.jp/files/000215786.pdf
臨床試験において、AST増加・ALT増加の発現率は10〜20%未満と報告されており、これはイグラチモドの副作用の中で最も頻度が高い部類に入ります。定期採血が基本です。
添付文書では、投与前に必ず肝機能検査を実施し、開始後最初の2ヶ月間は2週に1回、以降は月に1回を目安に検査を継続するよう定められています。これは東京ドーム約1個分の大きさを毎月確認するように、細かく継続的に追うイメージです。
また、1日50mgから開始した場合、1日25mgから開始した場合と比べてAST・ALT増加の発現率が有意に高かったことが臨床試験で示されています。そのため開始から4週間は必ず1日25mg(朝食後1回)に限定することが用法上のルールとなっています。
重篤な肝障害は少ないながらも、日常臨床では「軽度の数値上昇だから様子を見よう」と継続した結果、重篤化するケースがあります。ALT正常上限2倍を超えたら一旦中止、回復後に25mg/日から再導入を検討するのが安全上の基本です。
参考:KEGGデータベースによるイグラチモドの添付文書(重要な基本的注意・副作用の詳細)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070072
イグラチモドの副作用対策において、もっとも重篤なリスクの一つがワルファリンとの相互作用です。これは看過できません。
2012年12月、ワルファリン投与中の患者にイグラチモドを追加した症例で重篤な出血(穿刺部位出血、結膜出血)が3例報告されました。さらに2013年5月には、相互作用によると疑われる肺胞出血による死亡例が発生し、PMDAからブルーレター(安全性速報)が発出されました。この経緯を受けてワルファリンとの併用は現在の添付文書で「禁忌(2.5項)」に明記されています。
機序は「不明」とされていますが、イグラチモドがワルファリンの抗凝固作用を増強し、PT-INRが急激に上昇するパターンが報告されています。意外ですね。患者が服用する全薬剤のリストを処方時に確認することと、患者本人にも「他院で血液をサラサラにする薬(ワーファリン)を処方されていませんか」と直接確認する習慣が、最大の防御策となります。
参考:厚生労働省・PMDAによる安全性速報(ブルーレター)——イグラチモドとワルファリンとの相互作用
https://www.pmda.go.jp/files/000147651.pdf
参考:厚生労働省による医薬品安全性情報——イグラチモドとワルファリンの相互作用症例
https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/302-1.pdf
重大な副作用に次いで、臨床現場で見落とされやすい「その他の副作用」についても理解しておく必要があります。頻度が低いからといって油断は禁物です。
まず注目したいのが光線過敏性反応(頻度0.5%未満)です。イグラチモドはもともとCOX阻害作用を持つ化合物から開発されたという経緯があり、モルモットを用いた光毒性試験でも3.75mg/kg以上の単回経口投与で光毒性が確認されています。夏季に外出機会の多い患者や、日光暴露が多い職業の患者には、処方時に「日焼け止めの使用」「紫外線を避ける工夫」を説明しておくと安心です。
次に、低体重患者(体重40kg未満)への注意です。単独投与の臨床試験では、40kg未満の患者で副作用発現率が有意に高かったことが添付文書に明記されています。体重40kgは、おおよそ身長155cm程度の小柄な女性でイメージできる体格感です。関節リウマチは女性に多い疾患であるため、このリスクグループに該当する患者が現れる可能性は決して低くありません。
その他の副作用では、1~10%未満の頻度で腹痛・口内炎・悪心・発疹・そう痒症・鼻咽頭炎・ヘモグロビン減少・リンパ球減少なども報告されています。消化器症状の対策として「食後服用の徹底」は患者指導の最初のステップです。
なお、帯状疱疹(頻度0.5%未満)も見落とされがちな副作用です。他の免疫関連薬と比較すると感染症リスクは低めとされますが、高齢患者では帯状疱疹を発症する頻度がやや高くなるとの報告もあります。これは使えそうな情報です。高齢者への処方時には帯状疱疹ワクチン(シングリックス等)の接種状況確認を検討する価値があります。
参考:沢井製薬によるイグラチモド錠の添付文書(患者向け服薬指導用資料)
https://med.sawai.co.jp/file/pr42_4753.pdf
副作用管理において、短期フォローと長期フォローは別物として捉える必要があります。結論は「長期投与ほど累積リスクの管理が必要」です。
臨床試験の長期安全性データによれば、イグラチモド単独投与群における52週後の副作用発現率(臨床検査値異常を含む)は61.6%(237/385例)にのぼります。主な内訳はALT増加18.4%・AST増加16.9%・γ-GTP増加16.6%・Al-P増加13.5%などです。52週という期間は約1年間、つまり通常外来で年に数回の採血を行う一般的な管理では、変化を見逃す可能性があるということです。
特に注目したいのは、シメチジン(H2ブロッカー)との相互作用です。シメチジンはイグラチモドの代謝を抑制し、血漿中濃度を上昇させることが確認されています。消化性潰瘍や胃炎の既往がある患者に対して「胃薬」として安易にシメチジンが追加されると、イグラチモドの血中濃度が予想外に上昇し副作用リスクが高まります。胃腸障害の対処のために処方された薬剤が逆効果になる、というのは現場でありえるシナリオです。
この場合、胃粘膜保護にはH2ブロッカー(シメチジン)ではなく、プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはプロスタグランジン製剤の使用を検討するほうが安全性の面で合理的です。
また、フェノバルビタール(抗てんかん薬)との相互作用にも要注意です。フェノバルビタールはイグラチモドの代謝を促進し、血漿中濃度を低下させる可能性があります。てんかんを合併したリウマチ患者では、思うようにイグラチモドの治療効果が得られない場合に、この相互作用の可能性も念頭に置く必要があります。
副作用管理の全体方針として「ワルファリン禁忌・投与前検査・2週ごとの初期モニタリング・長期での累積リスク意識・相互作用の網羅的確認」の5点セットを体系化して運用することで、安全性の高い処方管理が実現できます。これが長期投与の基本です。
参考:リウマチ専門医によるケアラム®の効果・副作用・相互作用の詳細解説
https://rheumatology.co.jp/drug/iguratimod/
参考:日本ケミファのイグラチモド医薬品インタビューフォーム(臨床試験データの詳細・52週安全性情報)
https://www.nc-medical.com/product/doc/iguratimod_t25_if.pdf