エトドラクとロキソニンの違い

エトドラクとロキソニンは同じ非ステロイド性抗炎症薬ですが、作用機序や副作用プロファイルが異なります。医療現場での適切な使い分けのポイントとは?

エトドラクとロキソニンの違い

この記事のポイント
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作用機序の違い

エトドラクはCOX-2選択性が高く、ロキソニンはプロドラッグ型のNSAIDs

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胃腸障害リスク

エトドラクの方が胃腸障害が少なく、高齢者や胃潰瘍リスク患者に適する

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臨床での使い分け

症状、患者背景、リスク因子に応じた適切な選択が重要

エトドラクの作用機序と特徴

エトドラクはピラノ酢酸構造を有する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、シクロオキシゲナーゼ(COX)の中でも炎症部位に誘導されるCOX-2に対する選択性が高い薬剤です。COX-2選択的阻害作用により、プロスタグランジンE2の生合成を阻害し、多形核白血球機能を抑制することで抗炎症・鎮痛効果を発揮します。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr1_1321.pdf

エトドラクの鎮痛効果は、関節リウマチや変形性関節症患者においてインドメタシン75mg/日と同等であり、腰痛症や頸肩腕症候群患者ではジクロフェナク75mg/日と同程度の効果があると報告されています。COX-1と比較してCOX-2に対する阻害作用が強いため、抗炎症作用を示すとともに、胃腸障害が少ないとされています。
参考)https://anesth.or.jp/files/pdf/analgesics_and_antagonists_20190905.pdf

通常、成人にはエトドラクとして1日量400mgを朝・夕食後の2回に分けて経口投与しますが、高齢者では少量(例えば200mg/日)から投与を開始するなど、患者の状態を観察しながら慎重に投与する必要があります。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=1149032F1027

日本麻酔科学会による鎮痛薬・拮抗薬ガイドライン(エトドラクの薬理作用と臨床使用に関する詳細情報)

ロキソニンの作用機序とプロドラッグの特性

ロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニン)は、プロピオン酸系のNSAIDsで、プロドラッグという特徴的な性質を持ちます。プロドラッグとは、胃にある段階では薬として作用せず、腸から体内に吸収され、体内で代謝を受けて初めて活性体(trans-OH体)に変換され薬効を発揮する薬剤のことです。
参考)急性期治療(消炎鎮痛剤)

ロキソプロフェンは、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素の活性を抑制することで、プロスタグランジンの産生を阻害し、痛みや炎症を抑えます。胃の中では薬として作用しないプロドラッグであることで、胃腸障害の副作用を軽減できるという利点があります。
参考)痛みや熱を抑える ロキソプロフェンってどんな成分?

ロキソプロフェンは鎮痛・抗炎症・解熱作用をバランス良く持っており、鎮痛作用が特に強いのが特徴です。適応となる症状としては、頭痛、歯痛、抜歯後の疼痛、咽喉痛、耳痛、関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛、肩こり痛、打撲痛、骨折痛、ねんざ痛、月経痛(生理痛)、外傷痛などの鎮痛、および悪寒・発熱時の解熱などが挙げられます。
参考)ロキソプロフェンの効果とは?他の解熱鎮痛成分との違いも解説

エトドラクとロキソニンの胃腸障害リスク比較

エトドラクとロキソニンの最も重要な違いの一つが、胃腸障害のリスクです。エトドラクはCOX-2選択性が高いため、胃腸障害を起こす働き自体を抑えることができ、効果はロキソニンとほぼ同等と言われています。
参考)http://lowback.jp/treatment/NSAIDS.html

項目 エトドラク ロキソニン
COX選択性 COX-2選択的阻害 非選択的阻害(プロドラッグ)
胃腸障害リスク

少ない
参考)第106回薬剤師国家試験 問31 非ステロイド性抗炎症薬 -…

中等度(プロドラッグで軽減)​
抗炎症作用 強い​ バランス良い​
鎮痛効果 ロキソニンと同程度​ 特に強い​
投与回数 1日2回(朝・夕食後)​ 1日2〜3回

エトドラクやメロキシカムなどのCOX-2選択性が中程度のNSAIDsは、3年以上の長期投与においても、ナプロキセンやイブプロフェンに比べて消化管障害の増加が有意に少ないことが報告されています。これは医療従事者が長期処方を検討する際の重要な判断材料となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/10/100_2888/_pdf

ロキソプロフェンはプロドラッグのため胃腸障害が少ないと言われていますが、長期間の使用や過剰摂取により、胃の不快感、胃痛、嘔気、嘔吐、食欲不振などの消化器症状が現れ、そのまま服用し続けると胃潰瘍や十二指腸潰瘍を併発する可能性があります。
参考)ロキソニン毎日飲んでも大丈夫?副作用は?|交通事故 - メデ…

エトドラクとロキソニンの禁忌と適応の違い

両剤ともにNSAIDsとして共通の禁忌事項がありますが、使用上の注意点には違いがあります。エトドラクの禁忌として、消化性潰瘍のある患者、重篤な血液の異常のある患者、重篤な肝障害のある患者、重篤な腎障害のある患者が挙げられます。プロスタグランジン生合成阻害作用に基づき胃の血流量が減少するため、消化性潰瘍を悪化させることがあるからです。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/400813_1149032F1043_2_05.pdf

高齢者に対しては、エトドラクは少量(例えば200mg/日)から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与することが推奨されています。65歳未満群と比較して、副作用発現症例率に差がある可能性があるためです。​
ロキソニンも同様に、消化性潰瘍のある患者、重篤な心機能不全のある患者などに対しては禁忌となります。シクロオキシゲナーゼ(COX)の抑制を通じて腎臓への血流を低下させるため、長期間の服用や過剰に服用していると腎機能障害を併発する可能性があります。​

医療現場でのエトドラクとロキソニンの選択基準

臨床現場でエトドラクとロキソニンを使い分ける際の重要なポイントは、患者の背景因子とリスク評価です。炎症を伴う強い痛みにはロキソニン、軽い発熱や痛みにはカロナールというように、症状に応じた使い分けが基本となりますが、胃腸障害のリスクを考慮する必要があります。
参考)ロキソニンとカロナールの違い:適切な使い方を知ろう|赤垣クリ…

エトドラクは以下のような患者に特に適しています。

  • 胃腸障害のリスクが高い患者(高齢者、胃潰瘍の既往がある患者など)​
  • 長期投与が必要な慢性疾患患者(関節リウマチ、変形性関節症など)​
  • COX-1阻害による副作用を避けたい患者

    参考)薬剤師国家試験 第106回 問31 過去問解説

ロキソニンは以下のような場合に選択されることが多いです。

整形外科で処方される痛み止めランキングでは、ロキソニンが第2位(3,667例)、セレコックスが第3位(3,500例)となっており、臨床現場での使用頻度の高さがうかがえます。一方、エトドラクは胃腸障害が少ないという利点から、胃の弱い患者や長期投与が必要な患者に選択されることが多いです。
参考)整形外科医が選ぶ痛み止めランキング:安全で効果的な使い方ガイ…

潰瘍のリスクを有する患者に使用した場合、COX-2阻害薬の有効性はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と従来型NSAIDsの併用とほぼ同等であることが知られており、極めてリスクの高い患者にはCOX-2阻害薬とPPIの併用で再発リスクをゼロにできるとの報告もあります。​

エトドラクとロキソニンの鎮痛効果の強さランキングにおける位置づけ

痛み止めの強さランキングでは、第5位がカロナール、第4位がセレコックス、第3位がロキソニン、第2位がボルタレン、第1位がトラムセットとなっています。カロナールはアセトアミノフェンで鎮痛効果のみですが、セレコックス、ロキソニン、ボルタレンは非ステロイド系抗炎症薬で鎮痛効果と消炎効果と解熱効果があります。​
エトドラクの鎮痛効果は、関節リウマチや変形性関節症患者においてインドメタシン75mg/日と同等であり、外傷・手術後においてはエトドラク400mg/日の方がケトプロフェン150mg/dayよりも優れた鎮痛効果を示すという報告があります。​
興味深いことに、ロキソプロフェンはジクロフェナックに比べて、腰痛より肩こりに効くという臨床的な印象があるとの指摘もあります。これは薬剤の組織移行性や作用部位の違いによるものと考えられますが、医療従事者が症状に応じて薬剤を選択する際の経験的な知見として重要です。​
エトドラク200mgは術後疼痛に対して有用な鎮痛薬であり、その効果はパラセタモール(アセトアミノフェン)1000mgやセレコキシブ200mgと同程度とされています。より高用量では、イブプロフェン400mg、ナプロキセン500mg、ジクロフェナク50mgなどのより一般的に使用される薬剤と同等の鎮痛効果を提供する可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4164827/

日本内科学会雑誌「非ステロイド抗炎症薬(COX-2阻害薬)」(COX-2選択性薬の消化管障害に関する詳細データ)

エトドラクとロキソニンの副作用プロファイルと安全性

エトドラクとロキソニンは共にNSAIDsであり、基本的な副作用プロファイルは類似していますが、その発現頻度や重症度には違いがあります。

 

エトドラクの主な副作用として以下が報告されています。

ロキソニンの主な副作用として以下が報告されています。

  • 消化器症状(胃部不快感、腹痛、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢など):最も頻度が高い

    参考)ロキソニン®︎(ロキソプロフェン)の効果・副作用と効くメカニ…

  • 腎機能障害:COX抑制を通じた腎臓への血流低下​
  • アレルギー反応(皮膚疹、かゆみ、呼吸困難など):稀にStevens-Johnson症候群​
  • 血液障害(溶血性貧血、血小板減少、白血球減少、再生不良性貧血など):稀​

低用量アスピリン及び非ステロイド性消炎鎮痛薬による消化管障害の発現頻度を比較した研究では、アスピリン服用群における消化管障害の発現頻度は2.54%(28/1103)、NSAIDs服用群は0.27%(5/1856)であり、アスピリン服用群のほうが消化管障害の発現頻度は有意に高値を示しました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/131/7/131_7_1085/_pdf/-char/ja

エトドラクはCOX-2選択性が高いため、経口投与時の胃腸障害の発現頻度が低いとされていますが、それでも消化性潰瘍のある患者には禁忌とされています。一方で、エトドラクを経皮送達システム(リポソームやエトソームゲル)で投与することで、経口投与に伴う胃腸障害や消化管出血などの副作用を回避できる可能性も研究されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6154486/

エトドラクとロキソニンの投与設計と薬物動態の違い

エトドラクとロキソニンの薬物動態には重要な違いがあり、これが投与設計に影響します。

 

エトドラクの薬物動態は以下のとおりです。

  • 単回経口投与後、1.4時間でピークに達し、その後6時間の半減期で消失します​
  • ヒト血清における蛋白結合率は98.6〜98.9%と高い​
  • 肝臓において、CYP2C9とグルクロン酸転移酵素UGT1A9により、水酸化、グルクロン酸抱合され代謝されます​
  • 通常、成人には1日量400mgを朝・夕食後の2回に分けて経口投与します​

ロキソプロフェンの薬物動態は以下のとおりです。

  • プロドラッグとして、腸から体内に吸収され、体内で代謝を受けて活性体に変換されます​
  • 吸収されて血液に入った成分の拡散はスピーディで、他の成分の薬と比べても効き目は比較的速く実感できます​
  • 皮膚及び直下の筋肉中に局在するカルボニル還元酵素によりtrans-OH体(活性代謝物)に代謝され活性化します

    参考)ぬり薬の蘊蓄 第2章 主薬の特性と経皮吸収について:皮膚にお…

急性腰痛に対するNSAIDsの使用において、ハイペン(エトドラク)は1回200mg、1日2回、朝・夕食後の投与が推奨されており、12時間/6.03時間=1.99時間で定常状態に達する時間は、6.03時間×5=30.15時間とされています。​
高齢者に対しては、エトドラクは少量(例えば200mg/日)から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与することが推奨されており、65歳未満群と比較して副作用発現症例率に差がある可能性があるため注意が必要です。​
毎日痛み止めを飲むことは原則としてあまり推奨されません。痛みとなる原因の根本的な治療が重要であり、痛み止めはあくまで対処療法なので、継続的な痛みは専門医の診察を受けることをお勧めします。​