日本人の約8割はビタミンD不足で、サプリを飲んでも骨折リスクが下がらないことがある。
エルゴカルシフェロール(Ergocalciferol)の化学式は C₂₈H₄₄O、分子量は 396.65 g/mol です。融点は114〜118℃で、白色〜淡黄色の結晶性粉末として知られています。IUPAC名は (3β,5Z,7E,22E)-9,10-セコエルゴスタ-5,7,10(19),22-テトラエン-3-オール であり、この長い名前の中にこそ構造的な特徴がぎゅっと詰まっています。
構造を理解する上でまず押さえたいのが、「セコステロイド(Secosteroid)」という分類です。通常のステロイドは3つの六員環と1つの五員環が縮合した4環構造を持ちますが、セコステロイドはそのうちの1つの環が切断されています。エルゴカルシフェロールの場合、B環の9位と10位の炭素間の結合が開裂しており、これを「9,10-セコ構造」と呼びます。つまり完全な4環型ではない、という点が最大の特徴です。
名称内の「テトラエン(tetraen)」は4つの二重結合が存在することを示しています。具体的には5位、7位、10(19)位、22位の4箇所に二重結合があり、それぞれの配置は5Z、7E、22Eと規定されています。
3β位のヒドロキシル基(OH基)はステロイド化合物に共通する置換基であり、受容体への結合に重要な役割を果たします。これがエルゴカルシフェロールのOH1個を表す「O」です。
IUPAC-IUBの推奨描画法では、A環を裏返し、開裂したB環を縦方向に伸ばした形で構造式を描くことが推奨されています。これにより、タキステロールなど他のビタミンD誘導体とも統一した表現が可能になります。
参考:ビタミンD群の命名法(セコステロイド命名規則)について詳しく解説されています。
ビタミンD群の命名規則(IUPAC-IUB)- nomenclator.la.coocan.jp
エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)とコレカルシフェロール(ビタミンD3)を比較すると、ステロイド骨格部分はほぼ同一です。側鎖の構造だけが異なっています。これが原則です。
D3の側鎖はコレスタン由来で、22位以降に二重結合もメチル分岐もありません。一方、D2の側鎖はエルゴスタン由来で、22(23)位にE配置のトランス二重結合があり、さらに24位にR配置のメチル基が付加されています。エルゴカルシフェロールの分子量(396.65)がコレカルシフェロール(384.64)より若干大きいのも、この炭素数の差(C28対C27)によるものです。
構造が似ているのに、体内での挙動は一部異なります。意外ですね。研究では、ビタミンDの血中濃度(25(OH)D濃度)を上昇させる効果はD3のほうがD2より高いと報告されており、D2はD3に比べてやや効率が低いとされています。ただし、厚生労働省eJIM(米国NIH資料の日本語版)では「D2もD3も腸でよく吸収される」と記載されており、どちらの形態も食品やサプリとして有効です。
D2が主に含まれる食品はキノコ類です。干ししいたけや、UV照射処理されたマッシュルームはD2の良い供給源で、1/2カップ(約120ml)のUV処理マッシュルームには最大9.2μg(366IU)もの量が含まれます。これはタラ肝油の約1/4に相当します。
| 項目 | エルゴカルシフェロール(D2) | コレカルシフェロール(D3) |
|---|---|---|
| 化学式 | C₂₈H₄₄O | |
| 分子量 | 396.65 | 384.64 |
| 側鎖由来 | エルゴスタン(植物・菌類) | コレスタン(動物) |
| 二重結合数 | 4(テトラエン) | 3(トリエン) |
| 主な食品源 | キノコ類、酵母 | 脂肪性魚、卵黄、乳製品 |
| 血中D濃度上昇効果 | やや低い | やや高い |
エルゴカルシフェロールは人工合成品ではありません。植物や酵母・キノコ類に天然に存在するエルゴステロールという前駆体(プロビタミンD2)が、紫外線(UV)を受けることで生成される物質です。これは一種の光化学反応です。
エルゴステロールに波長290〜320nmのUVB光が照射されると、B環の9位と10位の炭素間の結合が光開裂します。これによって、まずプレビタミンD2という中間体が形成されます。このプレビタミンD2は熱異性化によってエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)へと転換されます。この流れがエルゴカルシフェロール生合成の核心です。
工業的なビタミンD2製造もこの原理を利用しています。酵母中のエルゴステロールにUV照射を行い、エルゴカルシフェロールへ変換する方法が広く使われています。研究によると、変換効率は照射波長に依存し、主波長254nmの殺菌灯よりも295nm前後の紫外線のほうがD2への変換率が高いとされています。
身近な例で言えば、干ししいたけの「ひだ」の部分を上にして30分ほど日光に当てると、エルゴステロールがD2へ変換され、ビタミンD量が大幅に増えることが知られています。スーパーで手に入る普通の干ししいたけでも、日光浴させてから食べるだけで摂取効率が変わります。これは使えそうです。
なお、紫外線でできるビタミンD2は脂溶性であるため、油や脂肪と一緒に摂取することで吸収率が高まります。食べ方の工夫も重要です。
参考:キノコのエルゴステロールとUV照射による変換に関する食品安全委員会資料です。
エルゴステロール・ビタミンD2変換(食品安全委員会)- fsc.go.jp
食事やサプリから摂取したエルゴカルシフェロールは、そのままでは生物学的に不活性です。体内で2段階の水酸化(ヒドロキシル化)を経てはじめて活性型になります。これが条件です。
第1段階:肝臓での水酸化
エルゴカルシフェロールは小腸で吸収された後、血流に乗り肝臓へ運ばれます。肝臓では25位の炭素が水酸化され、25-ヒドロキシエルゴカルシフェロール(25(OH)D2)、別名「カルシジオール様物質」が生成されます。この物質の血中半減期は約15日と長く、血中ビタミンD濃度の指標として測定されます。
第2段階:腎臓での水酸化
25(OH)D2はさらに腎臓でCYP27B1酵素によって1α位が水酸化され、1α,25-ジヒドロキシエルゴカルシフェロール(1,25(OH)₂D2)、つまりエルゴカルシフェロール由来の活性型ビタミンDとなります。この化合物がビタミンD受容体(VDR)に結合し、腸管でのカルシウム吸収促進、骨のリモデリング、腎臓でのカルシウム再吸収といった生理作用を発揮します。
D3の活性型(カルシトリオール)に比べ、D2由来の活性型は半減期がやや短いとされます。厳しいところですね。これが「D2はD3より血中濃度維持能が低い」と言われる一因です。
なお、腎機能が低下している方では第2段階の水酸化が正常に行われないため、活性型ビタミンDの産生が低下します。高齢者や腎疾患を持つ方がビタミンD不足になりやすい大きな理由の一つがこれです。腎機能が気になる方は、活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドールなど)が処方される場合があり、主治医への相談が有効です。
参考:ビタミンDの肝・腎での活性化と血中25(OH)D濃度に関する詳細な解説が掲載されています。
ビタミンD(厚生労働省 eJIM 医療者向けファクトシート)- ejim.mhlw.go.jp
日本人の約8割がビタミンD不足であるという報告があります(慈恵医大葛飾医療センター)。さらに2023年の島津製作所の調査では、調査対象5,518人の98%がビタミンD不足に該当したという結果も出ています。現代の日本人にとって、ビタミンD不足は決して他人事ではありません。
ビタミンDの不足は構造式の話とは無関係に聞こえるかもしれませんが、実はつながっています。エルゴカルシフェロール(D2)のような前駆体ビタミンD構造は、それ自体が不活性であることを示しており、摂取しても「どれだけ活性型に変換されるか」が鍵です。つまり摂取量だけでなく、体内の変換能力(肝臓・腎臓の機能)が重要になります。
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、ビタミンDの推奨摂取量は18歳以上の男女ともに8.5μg/日(340IU/日)、上限量は100μg/日(4,000IU/日)と設定されています。令和元年の国民健康・栄養調査によると、日本人の平均摂取量は6.9μg/日であり、目安量をわずかに下回っています。
サプリメントで補いたい場合、市販のビタミンDサプリにはD2(エルゴカルシフェロール)またはD3(コレカルシフェロール)が使用されます。植物性・ヴィーガン対応製品にはD2が使われることが多く、ラベル確認が重要です。血中25(OH)D濃度を50nmol/L(20ng/mL)以上に維持することが、骨と全身の健康に十分とされています。
ただし、ビタミンDは脂溶性ビタミンであるため過剰摂取による蓄積リスクがあります。上限量である100μg/日(4,000IU/日)を超えると、高カルシウム血症や腎臓へのカルシウム沈着など有害事象のリスクが上昇します。上限量以内が基本です。自己判断での大量摂取は避け、血中濃度を検査で確認しながら摂取量を調整することが望ましいです。
参考:ビタミンD不足の現状と判定基準について、日本骨代謝学会の指針が参照できます。
ビタミンD不足・欠乏の判定指針(日本骨代謝学会)- jsbmr.umin.jp
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