デスモゾーム扁平上皮における細胞接着構造と機能異常

デスモゾームは扁平上皮細胞の強固な接着を担う重要な構造体です。その構成成分や機能異常、癌化における役割について、医療従事者が知るべき基礎から臨床まで詳しく解説します。デスモゾーム異常と疾患の関係性を理解できますか?

デスモゾーム扁平上皮の細胞接着機構

デスモゾーム扁平上皮の基本構造
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細胞間接着装置

直径約0.5ミクロンの円盤状構造で強固な細胞接着を実現

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分子構成成分

デスモグレイン、デスモコリン、デスモプラキンなどの蛋白複合体

機能的重要性

細胞骨格との結合による組織の機械的強度維持

デスモゾーム扁平上皮における基本構造と分子組成

デスモゾームは重層扁平上皮において最も重要な細胞間接着装置の一つです 。電子顕微鏡で観察すると、直径約0.5ミクロンの円盤状構造として認識でき、細胞質側には緻密な電子密度の高い裏打ち構造が観察されます 。
参考)https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/2710/1/112_80.pdf

 

デスモゾームを構成する主要な分子成分には、膜貫通蛋白であるデスモグレイン(Dsg)とデスモコリン、細胞内裏打ち蛋白であるデスモプラキン、プラコグロビン、プラコフィリンがあります 。これらの蛋白は大まかに3つの区画に分けられます:


  • 細胞外領域: デスモグレインとデスモコリンのカルシウム結合部位を含む

  • 外側緻密板(ODP): デスモグレインとデスモコリンの細胞内末端とデスモプラキンのN末端側

  • 内側緻密板(IDP): デスモプラキンのC末端と中間径フィラメントとの接着部位

デスモゾーム扁平上皮での細胞間橋形成メカニズム

重層扁平上皮の有棘層では、光学顕微鏡観察で隣接する上皮細胞が細い細胞間突起によって結合している様子が観察されます 。この構造は細胞間橋と呼ばれ、その中央部分に点状の橋結節が認められます 。
参考)https://www.doctors-organic.com/yukyoku/index.html

 

電子顕微鏡レベルでの詳細な観察により、この橋結節がデスモゾーム構造に相当することが明らかになっています 。デスモゾームでは、隣り合った癌細胞がトノフィラメント(中間径フィラメント)により細胞相互にデスモゾーム結合していることが確認されます 。
参考)http://www.yanchers.jp/thoraco/homework/homework03.html

 

摩擦や圧力が絶えず加わる部位(例えば足底)の表皮では、中間径フィラメントやデスモソームがより豊富に分布し、よく発達した厚い有棘層を形成します 。このような部位では、ケラチン5・14に代わってケラチン1(タイプⅡ)とケラチン10(タイプⅠ)が発現し、より強固な細胞接着を実現しています 。

デスモゾーム構成蛋白デスモグレインの機能と種類

デスモグレインは、デスモソームの細胞接着分子として機能するカルシウム結合性の膜貫通タンパク質です 。カドヘリン様配列を持つため、接着斑カドヘリンとも呼ばれ、カドヘリンファミリーの糖タンパク質に分類されます 。
デスモグレインには4つのアイソフォームが存在し、対応する4つの遺伝子は18番染色体に位置しています :


  • デスモグレイン1(Dsg1): 表皮全層に発現し、上層ほど発現が強い

  • デスモグレイン2(Dsg2): 心筋や各種上皮に広く分布

  • デスモグレイン3(Dsg3): 表皮下層(基底層・傍基底層)に強く発現

  • デスモグレイン4(Dsg4): 毛包に特異的に発現

これらは主に表皮を材料に研究されていますが、小腸、乳腺、気管、膀胱、肝臓、心臓、胸腺などの臓器にも存在することが確認されています 。

デスモゾーム扁平上皮癌における構造異常と病理学的意義

扁平上皮癌においてデスモゾーム構造には特徴的な異常が観察されます。免疫組織化学染色では、一部の扁平上皮癌組織でデスモグレインが特異な染色パターンを示します 。本来は存在しない核周囲に局在するパターンで、リング状ないし円盤状の形態を持つことが多く、比較的高分化型の扁平上皮癌で特徴的に見られます 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09771492/

 

詳細な電子顕微鏡解析により、この抗原は主として核膜のうち外膜上に集中して存在することが判明しています 。これらの癌細胞では形態的に不完全ながらもデスモソーム様の構造が観察されますが、そこにはデスモグレインが見られないという重要な所見があります 。
食道扁平上皮癌の研究では、デスモゾーム関連分子periplakin(PPL)のDNAメチル化異常による発現低下が初めて見出されています 。PPL発現により形成されたデスモソームが細胞の重層および増殖の足場として機能していることが明らかになり、デスモソーム異常と癌化の密接な関係が示されています 。
参考)https://www.ncgm.go.jp/100/010/020/report_2016/26s117.pdf

 

デスモゾーム関連疾患の臨床診断と治療応用

デスモゾーム異常は多くの疾患の原因となります。最も代表的なものが天疱瘡で、デスモグレインに対する自己抗体を病因とする自己免疫水疱症です 。天疱瘡では表皮細胞間接着構造デスモゾームの接着分子であるデスモグレインに対する自己抗体により、表皮細胞間接着が失われ水疱が形成されます 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/tenpou3.pdf

 

診断には以下の検査法が確立されています:


  • 組織学的検査: 表皮基底層直上の表皮細胞間に裂隙形成、棘融解細胞の観察

  • 蛍光抗体直接法: 表皮細胞間のIgG沈着確認

  • ELISA法: デスモグレイン特異的自己抗体の定量測定

  • 免疫ブロット法・免疫沈降法: より精密な抗体同定

天疱瘡の病態生理は「デスモグレイン代償説」により説明されます 。同じ細胞に2種類以上のデスモグレインアイソフォームが発現し、細胞間接着機能を補い合うという理論で、表皮でのDsg3は下層に、Dsg1は全層に発現し上層ほど強くなる分布パターンが重要です 。
血清学的診断では、病勢とELISA index値が平行して推移するため、治療効果判定や予後評価に有用です 。ステロイド減量の目安としてELISA index値の減少を参考にし、値の上昇時には注意深い経過観察が必要となります 。
厚生労働省の天疱瘡診断ガイドライン - 天疱瘡の診断基準と治療法の詳細
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