デスモグレイン(desmoglein、Dsg)は、デスモソーム(接着斑)を構成する主要な膜貫通タンパク質の一つで、カドヘリンファミリーに属する糖タンパク質です 。デスモグレインには4つのアイソフォーム(Dsg1、Dsg2、Dsg3、Dsg4)が存在し、これらの遺伝子は18番染色体にクラスター状に配置されています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3
デスモグレインの基本構造は、N末端の細胞外ドメインとC末端の細胞内ドメインから構成されており、細胞膜を貫通する膜貫通ドメインを有しています 。細胞外ドメインには5つのカドヘリンリピート構造があり、これらが同親性結合(ホモフィリック結合)による細胞間接着を担っています 。
参考)https://www.funakoshi.co.jp/contents/69111
デスモグレインの分子量は、SDS電気泳動では160kDa(150kDa)として検出されますが、cDNA配列から推定される実際の分子量は約102kDaであり、差分は糖鎖修飾によるものです 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B31
デスモグレインは表皮のケラチノサイト(角化細胞)だけでなく、小腸、乳腺、気管、膀胱、肝臓、心臓、胸腺などの多様な臓器にも発現しており、各組織における細胞接着の維持に重要な役割を果たしています 。
デスモソームは、細胞間の強固な接着を担う複雑な分子複合体です 。この構造は大きく3つの区画に分けられます:①デスモグレインとデスモコリンを含む細胞外領域、②デスモグレインとデスモコリンの細胞内末端とデスモプラキン、プラコグロビンおよびプラコフィリンのN末端側を含む細胞外側密着板(ODP)、③デスモプラキンのC末端と中間径フィラメントとの接着を含む細胞内側密着板(IDP)です 。
参考)https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/1113
デスモソームの基本構成単位は、デスモソームカドヘリン(デスモグレインおよびデスモコリン)-プラコグロビン-デスモプラーキンの三者複合体と考えられています 。デスモグレインの細胞質側末端には、アルマジロファミリーのタンパク質であるプラコグロビンがN末端部分を介して結合します 。
参考)https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-03-04.pdf
デスモプラーキンはホモの平行二量体を形成し、N末端側でプラコグロビンのアルマジロリピートを含む中央部分と結合し、C末端側で中間径フィラメント(ケラチンフィラメント)と結合することで、細胞膜の接着装置と細胞骨格を連結しています 。
参考)https://www.doctors-organic.com/cyukan/index.html
この複合体構造により、デスモソームは細胞間の機械的な結合を提供するだけでなく、外的な物理的ストレスに対する抵抗性も付与しています 。
デスモグレインの4つのアイソフォーム(Dsg1-4)は、それぞれ異なる組織分布と発現パターンを示します。デスモグレイン1(Dsg1)は主に表皮の上層(顆粒層から角質層)に発現し、皮膚のバリア機能維持に重要な役割を担っています 。デスモグレイン3(Dsg3)は表皮の下層(基底層から有棘層)および粘膜上皮に強く発現しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/22/4/22_4_424/_pdf
デスモグレイン2(Dsg2)は心筋や単層上皮に発現し、デスモグレイン4(Dsg4)は主に内毛根鞘および毛包を形成する角化細胞に強く発現し、毛髪の形成および維持に重要な役割を持っています 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17790783/
表皮における Dsg1 と Dsg3 の発現パターンは、デスモグレイン代償説(desmoglein compensation theory)で説明される現象の基礎となっています 。正常な表皮では、基底層から有棘層では主に Dsg3 が発現し、顆粒層から角質層では Dsg1 が優位に発現します 。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/1372913421_1.pdf
この組織特異的な発現パターンは、各アイソフォームの機能的な役割分担を反映しており、異なる組織や細胞層における接着の必要性に対応した適応的な機構と考えられています 。
デスモグレインによる細胞間接着は、カルシウム依存性の機構により制御されています 。デスモグレインの細胞外ドメインに存在するカドヘリンリピート構造は、カルシウムイオンの存在下でコンフォメーション変化を起こし、同親性結合(ホモフィリック結合)を可能にします 。
この同親性結合では、隣接する細胞のデスモグレイン分子同士がカルシウム依存性にホモダイマー(二量体)を形成し、細胞間の物理的な接着を確立します 。この接着機構は可逆的であり、カルシウム濃度の変化や細胞内シグナルにより調節されます。
カルシウム依存性接着の調節は、細胞の分化、増殖、移動などの生理的プロセスにおいて重要な役割を果たしています 。例えば、表皮の角化過程では、デスモグレインの発現パターンの変化と共に、カルシウム勾配に沿った接着の強度変化が観察されます。
また、病的状態においては、カルシウムイオンの不足や各種キナーゼを介した細胞内シグナル伝達の異常により、デスモグレインの接着機能が阻害され、細胞間接着の破綻が生じる可能性があります 。
デスモグレイン機能の異常は、様々な分子レベルの病理学的変化を引き起こします。最も顕著な変化の一つは、デスモグレインの細胞膜上からの消失または減少です 。これは自己抗体の結合によるエンドサイトーシスの促進、プロテアーゼによる分解、または転写・翻訳レベルでの発現低下により生じます。
デスモグレイン機能異常の分子機序として、直接的な機能阻害と間接的なシグナル伝達異常の2つの経路が提案されています 。直接的阻害では、自己抗体や阻害因子がデスモグレインの接着ドメインに結合し、物理的に同親性結合を阻害します。間接的異常では、自己抗体結合後にカルシウムイオンや各種キナーゼを介した細胞内シグナル伝達が誘導され、デスモグレインまたは裏打ちタンパク質のリン酸化を介して細胞膜上から細胞内に引き込まれます 。
さらに、デスモグレイン機能異常は中間径フィラメント(ケラチンフィラメント)との結合異常も引き起こし、細胞骨格の構造的破綻にも波及します 。これにより、細胞の機械的強度の低下、細胞形態の異常、さらには組織レベルでの構造破綻が生じる可能性があります。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.2425905421