アトピー性眼症とは、アトピー性皮膚炎に伴って発症する目の合併症の総称です。アトピー性皮膚炎は自然環境やストレスの多い生活変化に伴い、思春期以降に悪化するタイプが増加傾向にあります。特に10~30歳台のアトピー性皮膚炎患者に目の合併症が多く見られ、医療専門家の間では「アトピー性皮膚炎患者の5~7割に何らかの目の合併症がある」と考えられています。
アトピー性眼症に含まれる主な疾患は以下の通りです。
これらの眼合併症は、アトピー性皮膚炎による顔面の皮膚炎が重症化し、かゆみのために目をこすったり叩いたりする行為が繰り返されることで発症・悪化します。特に注意すべき点は、これらの合併症が気づかないうちに進行していることがあり、定期的な眼科検査が必要だということです。
アトピー性角結膜炎(Atopic Keratoconjunctivitis, AKC)は、アトピー性皮膚炎の症状が目にも現れる形で発症する眼科疾患です。主な症状には以下のようなものがあります。
アトピー性角結膜炎の病型は重症度により以下のように分類されます。
病型 | 症状の特徴 |
---|---|
軽度 | かゆみや充血が現れる初期段階 |
中等度 | まぶたの裏の隆起(乳頭)や白目の腫脹が見られる |
重度 | 角膜(黒目の部分)に影響が及ぶ |
特に重症の場合、まぶたの裏側に「巨大乳頭」と呼ばれる大きなぶつぶつが形成されることがあります。これが角膜をこすり続けると角膜潰瘍を形成し、難治性となる場合があります。また、アトピー性結膜炎の特徴として、下まぶたの浮腫と蒼白化(全体が腫れていて白っぽい状態)が見られます。
角膜炎は主に表在性点状角膜炎の形態をとることが多く、痛み(コロコロ、チクチク、ヒリヒリ感)、充血、かすみ(霧視)、流涙(涙が出る)などの症状を引き起こします。
アトピー性皮膚炎患者は、一般人口と比較して白内障や網膜剥離の発症リスクが高いとされています。これらの重篤な合併症は、適切な治療を受けなければ失明にもつながりかねません。
アトピー性白内障の特徴:
アトピー白内障の水晶体混濁は、前囊下のヒトデ状混濁が特徴的ですが、後囊下混濁が見られる場合もあります。水晶体混濁の進行とともに、羞明感(まぶしさ)、霧視、視力低下などの自覚症状が増強します。
アトピー性白内障の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。
網膜剥離の症状と危険性:
アトピー性網膜剥離の症状は、程度によって異なります。初期には飛蚊症(目の前に虫や糸くずのようなものが飛んで見える)が現れ、進行すると霧視や視野欠損が生じます。重症化すると高度の視力低下をもたらします。
アトピー素因がある患者は網膜が生まれつき脆い可能性があり、目をこする・叩くなどの行為によって外傷的な要因で網膜裂孔(網膜の裂け目)が生じ、それが網膜剥離へと進行することがあります。
早期発見のポイント:
これらの合併症は初期には自覚症状がないことが多いため、定期的な眼科検診が重要です。特に以下の症状がある場合は早急に眼科を受診しましょう。
アトピー性皮膚炎患者は、症状がなくても年に1〜2回の眼科検診を受けることをお勧めします。
アトピー性眼症の治療は、疾患の種類や重症度によって異なりますが、基本的には点眼薬治療と皮膚炎のコントロールが中心となります。ここでは各合併症に対する効果的な治療法を詳しく解説します。
アトピー性角結膜炎の治療:
アトピー性角結膜炎の治療には、主に以下の点眼薬が使用されます。
点眼薬の種類 | 代表的な成分名 | 効果 |
---|---|---|
抗アレルギー点眼薬 | オロパタジン、レボカバスチン、ケトチフェン、エピナスチン | アレルギー反応を抑制 |
ステロイド点眼薬 | フルオロメトロン、プレドニゾロン、ベタメタゾン | 炎症を抑制 |
免疫抑制点眼薬 | シクロスポリン、タクロリムス | 免疫反応を調節 |
重症例では、これらの点眼薬に加えて抗アレルギー薬や抗炎症薬の内服薬を併用することもあります。巨大乳頭が形成されている場合は、眼瞼結膜に対して抗炎症薬を注射することもあります。
アトピー性眼瞼炎の治療:
眼瞼炎の軽症例に対しては、アトピー性皮膚炎に準じる洗顔とスキンケアが推奨されます。具体的には。
重症例に対しては、スキンケアに加えて副腎皮質ステロイド軟膏や免疫抑制剤軟膏を使用します。
アトピー性白内障の治療:
アトピー白内障に対しては、他の白内障と同様に水晶体吸引術あるいは超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術が選択されます。ただし、アトピー性の場合は合併症の関係で手術が難しいケースもあります。眼底の状態によっては、網膜剥離を防止する目的で輪状締結術が併用されることもあります。
網膜剥離の治療:
アトピー性網膜剥離に対しては、剥がれた網膜を元に戻す手術や、硝子体が網膜を引っ張る状態を解消する手術を行います。白内障と合併している場合は、両者の同時手術を行うこともあります。
円錐角膜の治療:
円錐角膜は一般的にハードコンタクトレンズによる矯正治療が行われますが、アトピー性皮膚炎を伴う場合は合併症などの関係でこの治療が困難なケースもあります。その場合は角膜の移植手術に切り替えたり、治療の阻害要因を先に治療したりします。
アトピー性眼症の予防と管理において、日常生活での対策は非常に重要です。特に目のこすり癖や皮膚ケアは合併症の発症・進行に大きく影響します。
目のこすり・叩き癖の改善:
アトピー性眼症の多くは、かゆみによる目のこすりや叩きが原因で発症・悪化します。これらの習慣を改善するためのポイントは。
特に子供の頃からある場合、目をこすったり叩いたりする行為がクセになっていることが多いため、家族の協力を得ながら習慣を改善していくことが大切です。
効果的なスキンケア:
目の周りの皮膚炎をコントロールすることで、かゆみを軽減し、こすりの衝動を減らすことができます。
生活環境の整備:
アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる環境因子をコントロールすることも重要です。
定期的な眼科受診:
目の症状は早期には気づきにくいことがあります。視力低下などの自覚症状がなくても、定期的に眼科を受診し、合併症がないかをチェックしてもらうことが重要です。特にアトピー性皮膚炎が重症の場合や、顔面に症状がある場合は、より頻繁な検診が推奨されます。
医療連携の重要性:
アトピー性眼症の管理には、皮膚科と眼科の連携が不可欠です。皮膚科での適切なアトピー性皮膚炎の治療と、眼科での定期検診を平行して受けることで、眼合併症のリスクを大幅に減らすことができます。皮膚治療を中断している症例も散見されますが、継続的な治療が重要です。
子どもの場合の特別な配慮:
未成年の場合はスキンケアをきちんと行えるよう、家族の協力が必要です。また、子どものアトピー性皮膚炎の場合、目をこする習慣が定着しないよう早期から注意することが大切です。
アトピー性眼症は適切な予防と早期治療によって、重篤な視力障害のリスクを大幅に減らすことができます。日々の生活習慣の改善と定期的な医療機関の受診を心がけましょう。