アコチアミドはM1/M2受容体ではなく末梢AChEだけを選択的に阻害するため、中枢神経系への副作用がほぼ出ません。

機能性ディスペプシア(FD)は、胃十二指腸領域に器質的病変がないにもかかわらず、食後のもたれ感・早期満腹感・心窩部痛・心窩部灼熱感などの症状が持続する機能性消化管障害です。 FD患者では胃前庭部の運動低下や胃排出遅延が認められており、これが症状発現の主要な病態と考えられています。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679253093504?lang=en
2013年に承認されたアコチアミド(アコファイド®錠、ゼリア新薬工業)は、世界で初めてFDの適応を取得した消化管運動機能改善薬です。 それ以前は、H2受容体遮断薬・PPI・既存の消化管運動改善薬を症状に応じて組み合わせる対症療法が中心でした。 専用の適応をもつ薬剤がなかった点で、アコチアミドの登場は臨床上の大きなブレイクスルーです。
参考)機能性ディスペプシアの治療:アコチアミド、アコファイド、Ro…
Rome IVにも「アコチアミドは胃底部弛緩・運動促進作用を持つ新規化合物で、コリン作動性効果によりプラセボに比べ有意にディスペプシア症状を改善する」と明記されており、特にPDS(食後愁訴症候群)への有効性が評価されています。
参考)機能性ディスペプシアの治療:アコチアミド、アコファイド、Ro…
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消化管平滑筋は、副交感神経(コリン作動性神経)終末から遊離されたアセチルコリン(ACh)が胃平滑筋のムスカリン受容体(主にM3受容体)に結合することで収縮します。 AChは本来アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって速やかに分解されますが、アコチアミドはこのAChEを選択的に阻害します。
AChEが阻害されると→シナプス間隙のACh濃度が上昇→M3受容体への刺激が増強→胃前庭部および胃体部の収縮・運動が亢進、という流れです。 つまり「アクセルを踏む」のではなく、「ブレーキ(分解酵素)を外す」という機序です。これが革新的。
参考)https://www.miyabyo.jp/di_topics/docs/20130721_topics1.pdf
具体的には以下の3つの運動改善効果が確認されています。
動物実験では、アドレナリンα₂受容体作動薬(クロニジン)で惹起した胃運動低下モデルや胃排出遅延モデルに対し、アコチアミドは有意な改善効果を示しました。 これはイヌとラットの両モデルで再現されており、in vivoでの作用確認が臨床試験前に十分なされています。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679253093504?lang=en
CiNii(日本語)|アコチアミドの薬理・臨床プロファイル(フェーズⅢまでの総括)
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AChE阻害薬として有名なのは、アルツハイマー病治療薬のドネペジル(アリセプト®)やガランタミン(レミニール®)です。 これらとアコチアミドの最大の違いは、末梢への選択性にあります。
アコチアミドは中枢移行性が極めて低く、血液脳関門をほとんど通過しません。 そのため、ドネペジルで問題となる悪夢・失神・除脈などの中枢性・全身性副作用が臨床上ほぼ現れない設計になっています。これは使えそうです。
また、アコチアミドはムスカリン受容体やドパミン受容体への直接作用を持たない点も特徴です。 モサプリドのような5-HT4受容体刺激を介した機序とも異なるため、QT延長リスクを伴わず、心疾患合併例でも比較的使いやすい薬剤です。
副作用プロファイルとして主なものは下表の通りです。
| 副作用 | 頻度の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 下痢 | 比較的多い | AChE阻害による腸蠕動亢進 |
| 肝機能異常(AST/ALT上昇) | まれ | 定期的な肝機能チェックが推奨 |
| 過敏症(発疹など) | まれ | 発現時は投与中止 |
| 中枢神経系症状 | ほぼなし | 末梢選択性による |
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臨床第II相試験でFD患者を対象に検討した結果、1回100mg群はプラセボ群に比べて被験者の印象における改善率が最も高く、50mg群・300mg群を上回りました。 この結果を受け、1回100mg・1日3回が推奨用量として選定されています。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679253093504?lang=en
臨床第III相試験では、食後の膨満感・上腹部膨満感・早期満腹感を有するFD患者を対象に有効性を検討しました。 主要評価項目である「被験者の印象の改善率」と「3症状(食後膨満感・上腹部膨満感・早期満腹感)消失率」の両方で、100mg群はプラセボ群より有意に高い値を示しました。 結論は有効性の明確な確認です。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679253093504?lang=en
重要な知見として、休薬後も改善効果が維持されること、さらに長期投与後の休薬後に症状再燃が生じた場合でも、耐性形成なく再投与で再度の改善が得られることが示されています。 耐性が生じない点は長期管理において大きなメリットです。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679253093504?lang=en
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用法は「1回100mg・1日3回・食前投与」が原則です。 空腹時や食後に服用すると最高血中濃度(Cmax)が約4割低下します。 4割の低下というのは、ほぼ別の薬と思っていいレベルです。
参考)https://www.miyabyo.jp/di_topics/docs/20130721_topics1.pdf
これは薬物動態上、食事による消化管内環境の変化が吸収に影響するためです。食前に確実に服用させることが薬効発揮の条件であり、患者への服用指導でこの点を強調することが重要です。
EPSとPDSではアコチアミドの有効性に差がある可能性が示唆されています。 PDSへの有効性がより強いとされる一方、臨床経験ではEPSにも一定の効果が報告されており、症状パターンによる使い分けを意識した処方戦略が望まれます。
参考)機能性ディスペプシアの治療:アコチアミド、アコファイド、Ro…
また、FDに対する薬物療法は単剤では不十分なケースが多く、PPI・六君子湯・消化管蠕動賦活薬との組み合わせで症状が改善するケースが大半です。 アコチアミドはこれらとの併用に適した薬剤であり、特に六君子湯との相互作用や競合機序がない点で併用しやすい特性を持っています。
参考)機能性ディスペプシアの治療:アコチアミド、アコファイド、Ro…
富久クリニック|Rome IVとアコチアミドの位置づけ・臨床での使用経験(実地医家の視点)
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アコチアミドの効果は機能性ディスペプシアにとどまらない可能性が示唆されています。日本医科大学の研究では、アコチアミドが食道胃接合部(EGJ)圧を有意に増加させることが確認されました。 意外ですね。
参考)https://www.nms.ac.jp/var/rev0/0022/8645/hoshino_shinsa.pdf
さらに食道蠕動異常(small break)を有する症例では、正常蠕動波の比率が有意に増加したことも報告されています。 この知見は、LES圧低下を伴う逆流性食道炎や、軽度食道蠕動異常を有するGERD患者への応用可能性を示すものです。
参考)https://www.nms.ac.jp/var/rev0/0022/8645/hoshino_shinsa.pdf
実臨床での応用はまだ限定的ですが、FDとGERDの合併例(いわゆるoverlap syndrome)に対してアコチアミドを処方することで、上部消化管全体の運動機能を底上げできる可能性があります。これはFD治療薬というイメージを超えた視点です。
日本医科大学|アコチアミドの食道運動改善効果に関する論文審査要旨
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