医薬品医療機器総合機構(PMDA)による承認制度は、日本の医療現場で使用される医療機器の品質、有効性、安全性を科学的根拠に基づいて厳格に審査する制度です。PMDAは厚生労働大臣から委託を受け、承認審査の実務を担当しており、その判断は日本の医療安全の基盤となっています。
PMDA承認制度では、医療機器を新医療機器、改良医療機器(臨床ありとなし)、後発医療機器の3つの区分に分類し、それぞれ異なる審査プロセスを適用しています。新医療機器の審査期間は12ヶ月(優先審査品目は9ヶ月)、改良医療機器(臨床あり)は9ヶ月、改良医療機器(臨床なし)は6ヶ月と標準的な審査期間が設定されています。
審査プロセスでは、まず申請資料に基づく信頼性調査が実施され、続いて承認審査、さらにGMP/QMS/GCTP調査による製造能力の確認が行われます。この三段階の審査により、製品の科学的根拠から製造品質まで包括的な評価が実施されています。
特に注目すべきは、PMDA独自の「セイフティ・トライアングル」という考え方です。これは、健康被害救済、承認審査、安全対策の三つの業務を有機的に連携させることで、医療機器の生涯を通じた安全性確保を実現する仕組みです。
新医療機器の開発段階から、PMDAは「薬事戦略相談」制度を通じて開発企業との対話を重視しています。これは承認申請前の早期段階から、開発方針や評価方法について相談できる制度で、効率的な承認取得を支援しています。
革新的な医療機器については、「革新的医療機器条件付早期承認制度」が適用される場合があります。この制度は、従来の評価方法では判断が困難な革新的医療機器に対して、市販後の情報収集を条件として早期承認を可能にする制度です。2020年9月には法制化され、より明確な運用基準が設けられました。
また、海外での臨床試験データの活用についても柔軟な対応が取られており、特に希少疾病等に用いる医薬品では、日本人データの基本的考え方が明示されています。これにより、グローバル開発戦略との整合性を保ちながら、日本での迅速な承認が可能となっています。
医療機器の製造販売承認申請において、生物学的安全性評価は極めて重要な要素となっています。特に体内に留置される医療機器や血液に接触する機器では、材料の生体適合性が厳格に評価されます。
PMDAでは、ISO10993シリーズに準拠した生物学的安全性試験の実施を求めており、細胞毒性、感作性、刺激性、急性全身毒性、亜慢性毒性、遺伝毒性、埋植、血液適合性等の項目について、機器の用途と接触期間に応じた評価が必要とされます。
これらの評価は、医療機器が患者に与える潜在的リスクを最小化し、安全な医療提供を確保するための重要な判断材料となっています。特に新素材を使用する革新的医療機器では、従来の評価手法では対応できない場合もあり、PMDAとの個別相談を通じて適切な評価方法が検討されます。
デジタルヘルスケアの進展に伴い、プログラム医療機器(SaMD: Software as Medical Device)の承認が急速に増加しています。PMDAでは2024年6月に「プログラム医療機器の特性を踏まえた適切かつ迅速な承認」に関する新しいガイダンスを発表しました。
プログラム医療機器の特徴的な承認手法として「二段階承認」制度があります。これは、第1段階で基本機能の承認を取得し、第2段階で機能拡張や性能向上を図る承認アプローチです。この制度により、AIを活用した診断支援システムや画像解析ソフトウェアなどの継続的改善が可能となっています。
興味深い点は、「追加的な侵襲・介入を伴わない既存の医用画像データ等を用いた診断用医療機器の性能評価試験」を活用した承認事例が増加していることです。これにより、新たな臨床試験を実施することなく、既存の画像データベースを活用した評価が可能となり、AI医療機器の迅速な実用化が促進されています。
家庭用プログラム医療機器についても、Apple社の心電図アプリケーションやHUAWEI社の心電図アプリケーション等、消費者向けデバイスの医療機器としての承認が相次いでおり、医療アクセスの向上に貢献しています。これらの機器では、使用者向けの適切な情報提供が承認条件として課されており、安全な使用環境の確保が図られています。
PMDA承認制度の特徴を理解するため、米国FDA、欧州CE markingとの比較検討が重要です。FDA、PMDA、CEマークは、それぞれ異なる規制哲学に基づいており、PMDAは特に日本人での安全性・有効性の確認を重視する独自のアプローチを取っています。
研究によると、AI/ML医療機器の承認において、FDAが45件、PMDAが12件の承認実績を有しており、米国に比べて日本での承認は慎重なアプローチが取られていることが分かります。しかし、これは必ずしも遅れを意味するものではなく、日本の医療環境に適した安全性重視の姿勢を反映しています。
特にPMDAの独自性として、「臨床評価報告書」による文献ベースの評価手法があります。これは、同等の機器に関する既存の臨床データを科学的に評価し、新たな臨床試験の実施を要せずに承認を可能とする制度です。この手法により、患者の治療機会の拡大と医療コスト削減の両立が図られています。
また、PMDAでは医師主導治験による実用化支援も積極的に行っており、アカデミア発の革新的医療技術の社会実装を促進しています。札幌医科大学での自家骨髄間葉系幹細胞を用いた脳梗塞治療の医師主導治験は、その代表的な成功事例として注目されています。