髄膜炎菌ワクチン いつから接種対象年齢と推奨時期について

髄膜炎菌ワクチンはいつから接種可能で、どのような人に推奨されるのでしょうか?この記事では対象年齢や接種スケジュール、効果的な接種タイミングについて医療従事者の視点から解説します。あなたやご家族に必要なワクチンなのでしょうか?

髄膜炎菌ワクチン いつから接種すべきか

髄膜炎菌ワクチンの基本情報
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対象年齢

2歳以上が基本、特定条件では2歳未満でも検討可

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接種回数

基本1回、2~6歳は3年後追加接種、7歳以上は5年後追加接種

最適接種時期

集団生活開始前、海外渡航前、3~5歳または11歳頃

髄膜炎菌ワクチンの対象年齢と接種回数について

髄膜炎菌ワクチンは基本的に2歳以上を対象としています。日本で承認されている4価結合型髄膜炎菌ワクチン「メンクアッドフィ」は、2歳以上55歳以下の方に接種可能です。このワクチンは髄膜炎菌の血清型A、C、Y、W-135の4種類に対して効果があります。

 

接種回数については、基本的には1回の接種で免疫が獲得できますが、年齢によって追加接種の推奨時期が異なります。2~6歳で初回接種を受けた場合は3年後に追加接種が推奨され、7歳以上で接種した場合は5年後に追加接種が推奨されています。特に免疫不全や無脾症などの特定の疾患を持つ方では、8週間以上の間隔をあけて2回の接種が勧められることもあります。

 

接種方法は0.5mlを筋肉内注射で行います。接種後の効果は約80~95%と高い有効性を示していますが、時間の経過とともに効果は徐々に減弱するため、継続的な感染リスクがある場合は定期的な追加接種が必要です。

 

なお、髄膜炎菌ワクチンの副反応としては、接種部位の疼痛や発赤、頭痛、疲労感などが報告されていますが、アナフィラキシーなどの全身性の副反応は稀です。

 

原則として2歳未満の方には接種しませんが、特別なリスク要因がある場合は医師に相談することが推奨されています。接種前には、破傷風トキソイドに対するアレルギー歴やギラン・バレー症候群の既往などについても確認が必要です。

 

髄膜炎菌ワクチン接種の最適な時期と機会

髄膜炎菌ワクチンを接種する最適な時期については、いくつかの重要なポイントがあります。髄膜炎菌感染症は0~4歳の乳幼児と10代後半の思春期に感染リスクが高いことが知られています。そのため、日本脳炎ワクチンの標準的な定期接種時期である3~5歳頃(追加接種は9歳頃)に合わせて髄膜炎菌ワクチンの接種を検討することが一つの目安となります。

 

また、思春期のお子さんについては、DT(二種混合)ワクチンを接種する11歳頃に髄膜炎菌ワクチンも接種することが推奨されています。これはアメリカでの定期接種スケジュールとも一致しており、11~12歳で初回接種、その5年後に2回目の接種を行うという方法が採用されています。

 

特に以下の機会に接種を検討するのが効果的です。

  1. 春休みや新学期、寮生活など新しい集団生活が始まる前
  2. 外出や集団での活動機会が増える夏休み前
  3. 海外渡航や留学前(特に欧米やアフリカなどの流行地域へ行く場合)
  4. イスラム教のメッカ巡礼でサウジアラビアへ渡航する場合(この場合は接種が義務付けられています)
  5. 大規模なイベントやコンサート、スポーツ観戦など大勢の人が集まる場所へ行く前

季節的には、新学期前の春休みや、活動が活発になる夏休み前に接種することで、集団感染のリスクが高まる時期に備えることができます。また、海外留学や渡航を計画している場合は、出発の少なくとも2週間前までに接種を完了させることが望ましいでしょう。

 

予防接種のスケジュールを考える際には、他のワクチンとの接種間隔にも注意が必要です。基本的に、不活化ワクチンである髄膜炎菌ワクチンは他のワクチンと同時接種が可能ですが、医師と相談の上で最適なスケジュールを立てることをお勧めします。

 

髄膜炎菌感染症のリスクが高い集団と接種推奨

髄膜炎菌感染症は、特定の集団や状況において感染リスクが高まることが知られています。以下のような方々は特に髄膜炎菌ワクチンの接種を検討すべきです。

  1. 高校や大学の寮で集団生活を送る学生
    • 集団生活ではキャリア(保菌者)との接触機会が増加します
    • アメリカの調査では、寮生活を送る場合の感染リスクは2~4倍になるとされています
  2. 海外留学予定者(特にアメリカなど)
    • 多くの国では大学入学時に髄膜炎菌ワクチン接種が義務付けられています
    • アメリカの多くの州では、大学の寮に入居する学生に対して髄膜炎菌ワクチンの接種証明を求めています
  3. アフリカの「髄膜炎ベルト」地域への渡航者
    • この地域では年間数万人の発症例があり、特にA群が流行しています
  4. 特定の基礎疾患を持つ方
    • HIV感染者
    • 無脾症(脾臓がない、または機能していない状態)
    • 補体機能不全などの免疫不全を有する方
    • これらの方々は8週間以上の間隔で2回の接種が推奨されています
  5. 特定の職業に就く方
    • 警視庁の警察学校に入校する方(義務)
    • 一部の自衛隊隊員(推奨)
    • 検査室や研究室で髄膜炎菌を扱う可能性がある臨床検査技師や微生物研究者

日本国内では2011年に宮崎県の高校男子寮で集団発生があり、1名の生徒が死亡した事例があります。このような集団生活環境では、髄膜炎菌のキャリアとの接触による感染リスクが高まるため、予防接種を検討する価値があります。

 

また、特定の薬剤(エクリズマブ、ラブリズマブ、スチムリマブ、ペグセタコプラン、ジルコプランナトリウム、ダニコパン、クロバリマブなど)の投与を受けている患者さんは、髄膜炎菌ワクチンの接種が保険適用となりますので、主治医に相談することをお勧めします。

 

髄膜炎菌ワクチンの種類と日本での承認状況

髄膜炎菌ワクチンには複数の種類があり、それぞれ対応する血清型が異なります。髄膜炎菌には主要な血清型としてA、B、C、Y、W-135などがありますが、地域によって流行する血清型に違いがあります。

 

現在、日本で承認されているワクチンは以下の通りです。
1. メンクアッドフィ(4価髄膜炎菌ワクチン)

  • 2歳以上が対象
  • 髄膜炎菌血清型A、C、Y、W-135に効果あり
  • 2024年3月31日に販売終了となったメナクトラの後継品
  • 有効成分が4μgから10μgへ増量
  • 結合タンパクがジフテリアトキソイドから破傷風トキソイドへ変更
  • 高齢者への接種データもあり、幅広い年齢層に使用可能

かつては「メナクトラ」という製品名で販売されていましたが、現在は「メンクアッドフィ」に切り替わっています。メンクアッドフィはメナクトラと比較して有効成分の量が増加し、結合タンパクが変更されたことで、より高い予防効果が期待されています。

 

日本国内では、B型髄膜炎菌による感染が10~20%を占めていますが、これに対応するワクチンとして以下の輸入ワクチンが使用可能です。
2. 輸入ワクチン

  • Bexsero(GSK社):10~25歳が対象、1ヶ月以上開けて2回接種
  • Trumenba(Pfizer社):10~25歳が対象、1-2ヶ月の間隔で2回目、初回から6ヶ月後に3回目
  • Menveo(2歳以上が対象):髄膜炎菌血清型A、C、Y、W-135に効果あり

世界的には、髄膜炎菌ワクチンは1970年代に開発され、現在では世界保健機関の必須医薬品リストに記載されています。世界55の国と地域で4価結合体髄膜炎菌ワクチンの接種が行われており、WHOは感染リスクが中度から高度の地域での定期的予防接種を推奨しています。

 

流行する血清型は地域によって異なり、アフリカの髄膜炎ベルトではA群、ヨーロッパではB群、アメリカやヨーロッパの一部ではC群、サウジアラビアのメッカ巡礼ではW-135群が主流となっています。

 

なお、輸入ワクチンについては、国内承認ワクチンに適用される「予防接種健康被害救済制度」や「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となり、代わりに輸入代理店等による「輸入ワクチン副作用被害補償制度」が適用されます。

 

これらのワクチンの接種費用は1回あたり約19,000~25,000円となっており、基本的に任意接種となります。ただし、エクリズマブなどの特定の薬剤を投与している患者さんについては保険適用となる場合があります。

 

髄膜炎菌ワクチン接種後の免疫持続期間と医療現場での実践

髄膜炎菌ワクチンを接種した後の免疫持続期間は、年齢や個人差によって異なりますが、一般的には約4~5年とされています。そのため、継続的な感染リスクがある場合は、定期的な追加接種が必要です。

 

医療現場における実践として、以下のポイントが重要です。

  1. 年齢別の追加接種スケジュール
    • 2~6歳で接種した場合:3年後に追加接種
    • 7歳以上で接種した場合:5年後に追加接種
    • ハイリスク患者(補体欠損症など):8週間以上の間隔で2回接種が推奨
  2. 接種効果のモニタリング
    • 接種から短くても2年間は85~100%の効果があるとされています
    • ワクチンが広く使用されている地域では、髄膜炎や敗血症の発症率が減少しています
  3. 医療従事者自身の接種判断
    • 無脾症または持続性の補体欠損症を持つ医療関係者
    • 侵襲性髄膜炎菌感染症の発症頻度の高い地区へ訪れる医療関係者
    • 検査室や研究室で髄膜炎菌を扱う可能性がある臨床検査技師や微生物研究者
  4. 副反応への対応
    • 一般的な副反応:接種部位の痛み、発赤、頭痛、疲労感
    • 全身性の副反応(アナフィラキシーなど)は稀
    • メンクアッドフィの場合、破傷風トキソイドに対して強いアレルギー症状を起こしたことがある方は禁忌
    • ギラン・バレー症候群の既往がある方は接種要注意

医療現場では、髄膜炎菌に曝露した可能性がある場合の対応も重要です。髄膜炎菌は容易にヒト-ヒト伝播をきたすため、医療施設では曝露後予防投与の対応に追われることもあります。そのため、特にハイリスク環境で働く医療従事者自身の予防接種も検討すべきでしょう。

 

侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は発症初期には一般的な風邪症状と区別が難しく、急速に進行して24~48時間で5~10%が死亡する可能性があります。また、生存しても難聴や神経障害、四肢切断などの重篤な後遺症を残すことがあります。このような重篤な疾患に対する予防策として、適切なタイミングでのワクチン接種は非常に重要です。

 

また、妊婦や授乳中の女性への接種については、有効性および安全性が確立されていないため、リスクとベネフィットを考慮した上で判断する必要があります。有益性が上回ると判断される場合には接種が検討されます。

 

医療従事者として、患者さんの生活環境やリスク要因を考慮した上で、適切な接種タイミングを提案することが重要です。特に高リスク集団に属する方や、今後そのような環境に入る予定の方には、早めの情報提供と接種の検討を促すことが望ましいでしょう。

 

以上、髄膜炎菌ワクチンの接種開始年齢や最適な接種タイミング、対象者について解説しました。ワクチン接種の判断に迷った際は、かかりつけ医に相談し、個々の状況に応じた適切な判断をすることをお勧めします。

 

髄膜炎菌ワクチンの基本情報と接種スケジュールに関する国立感染症研究所の詳細情報
髄膜炎菌ワクチン接種の推奨タイミングについての詳細情報