トランスグルタミナーゼ(TG)は、タンパク質中のグルタミン残基とリジン残基の間でイソペプチド結合を形成する酵素です 。この酵素は元来ヒト体内にも存在し、皮膚のバリア機能や血液凝固反応に重要な役割を果たしています 。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20240827fscamp;fileId=100
食品安全委員会の評価書によると、Streptomyces mobaraensis TTG-1株を利用して生産されたトランスグルタミナーゼについて、「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物の安全性評価基準」に基づく詳細な検討が行われています 。この評価では、挿入遺伝子の安全性、タンパク質の毒性、アレルギー誘発性について確認され、従来の添加物と比較して新たに安全性を損なうおそれのある要因は認められないと結論されています 。
微生物由来のトランスグルタミナーゼ(mTG)は、ヒト体内のTGとは異なり、反応にカルシウムイオンを必要としない特徴があります 。この特性により、食品加工における利便性が大幅に向上し、世界50か国以上で80種類以上のTG製剤が販売されています 。
参考)https://glutenfree.empacede.co.jp/tg/
食品加工分野において、トランスグルタミナーゼはタンパク質の接着剤として機能し、多様な製品に利用されています 。
食肉加工では以下の用途があります:
水産加工品では、高級すり身の代替として安価なすり身を使用してもかまぼこの品質を維持できる技術として活用されています 。さらに、パンの弾力性確保、ヨーグルトの分離防止、チーズの収量増加、豆腐の硬化促進など、幅広い食品カテゴリーで応用されています 。
味の素は2003年から「アクティバ®」TG製剤を発売し、水産加工品用、畜肉加工品用、製麺・製粉用など用途別の製剤を開発しています 。製造過程で加熱処理により酵素が失活するため、最終製品には残存せず、食品表示においても「酵素」という一括名での表示が可能です 。
近年、微生物トランスグルタミナーゼ(mTG)の安全性について医学界で議論が続いています。特に注目されているのが、セリアック病患者数の増加との関連性です 。
2015年に発表された仮説によると、mTGがグルテンタンパク質に作用することで以下の影響が指摘されています:
免疫系への影響 📊
消化管への影響 🫁
ただし、酵素メーカー側は製造過程での加熱により酵素活性が失われるため安全性に問題はないとしています 。一方で、mTGによるタンパク質構造変化は加熱前に既に起こっているという指摘もあります 。
EUでは2009年の規制1332/2008により食品酵素の使用が制限され、現在EFSA(欧州食品安全機関)で評価が進行中です 。この慎重な姿勢は、医療従事者にとって重要な参考情報となります。
食品安全委員会の詳細な検討において、改変トランスグルタミナーゼ(TTG)の生体内での挙動について重要な知見が得られています 。
消化器官での分解特性 🔬
これらの特性は、摂取後の体内動態を理解する上で医療従事者にとって重要な情報です 。胃酸による迅速な消化は安全性の指標となる一方、腸液中での残存は長期的影響を検討する必要性を示唆しています。
アレルギー誘発性に関する検討では、既知のアレルゲンデータベースとの相同性検索が実施されました 。連続する80アミノ酸配列で35%以上の相同性を示す既知アレルゲンは検出されず、連続する8アミノ酸配列が完全一致するアレルゲンも認められませんでした 。
推定一日摂取量は28.3±6.38 µg TOS/kg体重/日と算出されており、この数値は医療従事者が患者指導を行う際の重要な参考値となります 。
医療従事者が知るべき食品安全管理の観点から、トランスグルタミナーゼには特殊な課題があります。成形肉製造における細菌汚染リスクの増大が指摘されています 。
細菌汚染リスクの特徴 ⚠️
これらのリスクは、免疫抑制患者や高齢者など感染症に脆弱な患者群において特に重要な考慮事項となります。医療従事者は患者の食事指導において、成形肉製品の十分な加熱調理の重要性を強調する必要があります。
日本では食品衛生法に基づく成分規格とJECFA規格を満たした製品のみが承認されており、適切な製造管理下で安全性は確保されています 。しかし、患者の免疫状態や基礎疾患を考慮した個別の食事指導が求められる場面もあります。
長崎女子短期大学の研究では、クジラ肉ソーセージ製造におけるTGaseの効果が報告されており、新しい食品開発技術としての可能性も示されています 。このような技術革新は、医療食品の開発にも応用される可能性があり、医療従事者にとって将来的な治療選択肢の拡大につながる可能性があります。
参考)https://www3.nagasaki-joshi.ac.jp/disclosure/article/ar41/ar41-01.pdf