ソリタT3とT1は「どちらも維持液だから同じでしょ」と思って選んでいると、患者さんの電解質バランスが崩れるリスクがあります。
ソリタ輸液(正式名称:ソリタ-T)は、大塚製薬工場が製造する維持・補正用の電解質輸液シリーズです。T1からT4まで4種類が存在し、それぞれの電解質組成・糖質濃度・浸透圧比が異なります。
まず全体像を整理しましょう。
| 製剤名 | Na (mEq/L) | K (mEq/L) | Cl (mEq/L) | ブドウ糖 (%) | 浸透圧比 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ソリタT1 | 90 | 0 | 70 | 2.6 | 約1 | 開始液・細胞外液補充 |
| ソリタT2 | 84 | 20 | 66 | 3.2 | 約1 | 移行液・術後初期 |
| ソリタT3 | 35 | 20 | 35 | 4.3 | 約1 | 維持液・長期補液 |
| ソリタT4 | 30 | 8 | 20 | 4.3 | 約1 | 維持液・低K管理時 |
T1のNa濃度は90mEq/Lと比較的高く、細胞外液の補充を目的とした「開始液」として位置づけられています。一方T3はNa濃度35mEq/Lと低く、長期的な水・電解質の維持に向いています。
つまり、T番号が大きくなるほどNa濃度が下がり、維持補液向きになる、というのが基本の流れです。
ただし、T4はT3よりK濃度が低い(8mEq/L)ため、高K血症リスクがある患者や腎機能低下例で使われる場面があります。これは意外と見落とされがちな点です。
T2はT1とT3の中間的な電解質組成を持ち、「移行液」として術後数時間から翌日にかけて用いられることが多いです。T1→T2→T3という段階的な移行が、術後輸液の標準的な流れとして教科書にも記載されています。
現場での混乱が最も多いのが、T1とT3の選択です。
T1のNa濃度は90mEq/Lで、これは細胞外液(生理食塩水:154mEq/L)の約58%に相当します。細胞外液を補充したい場面、たとえば嘔吐・下痢・発熱による脱水の初期対応には、T1が適しています。
対してT3のNa濃度は35mEq/Lで、これは細胞外液の約23%にすぎません。T3を大量に投与すると希釈性低Na血症を招くリスクがあります。
これが原則です。
糖質についても差があります。T1は2.6%、T3は4.3%のブドウ糖を含有しています。糖尿病患者や術後インスリン管理が必要な場面では、T3の糖濃度が高血糖の一因になる可能性があります。
「T3のほうがよく使うから、とりあえずT3」という習慣は見直す必要があります。
参考として、輸液製剤の選択に関する基礎知識は日本臨床栄養代謝学会のガイドラインにも整理されています。
日本臨床栄養代謝学会 ガイドライン一覧(jspen.or.jp)
ソリタT3には「ソリタT3号」と「ソリタT3号G(グルコース追加)」が存在し、電子カルテや処方箋での表記ミスによるインシデント報告が実際にあります。
ソリタT3号Gは、T3号にブドウ糖を追加した製剤で、糖濃度が高くなっています。投与量によっては1日あたりのブドウ糖摂取量が想定以上になり、特に糖尿病患者では血糖コントロールが乱れる原因になります。
意外ですね。
両者の見た目はほぼ同じで、ラベルの「G」の1文字が唯一の違いです。点滴バッグを棚から取り出す際に誤選択が起きやすく、在庫管理や払い出し確認の場面で注意が必要です。
このリスクを防ぐために、「G」の有無を処方時と払い出し時の2段階で確認するダブルチェック体制を整えておくのが現実的な対策です。
施設によってはT3号GをT3号と同じ棚に保管しているケースがあり、これは配置の見直しを検討すべき状況です。
輸液を選ぶ際、浸透圧比は見落とされやすい指標です。
ソリタTシリーズはいずれも浸透圧比が約1(血漿と等張)に設定されています。これにより、末梢静脈からの投与が可能になっています。浸透圧比が2以上になると末梢血管への刺激が強くなり、静脈炎リスクが上がります。
等張であることが、末梢投与可能の条件です。
電解質の観点では、各製剤に含まれるラクテート(乳酸)やアセテート(酢酸)などのアルカリ化剤も重要です。ソリタT3号はラクテート20mEq/Lを含有しており、代謝性アシドーシスの軽度補正に働きます。ただし肝機能障害患者ではラクテートの代謝が遅れるため、アセテート含有製剤への変更を検討する場面があります。
また、ソリタ各製剤はCa²⁺やMg²⁺を含まない点も特徴の一つです。長期投与の際はCa・Mg補充を別途考慮する必要があります。これは教科書にはサラッとしか書かれていない盲点です。
電解質補正の具体的な計算方法については、日本集中治療医学会の教育資材が参考になります。
成人に問題なく使えるT3を、小児や高齢者にそのまま適用すると低Na血症が起きやすいことは、意外と共有されていない知識です。
小児では腎臓のNa保持能力が成人より低く、低張液(T3など)を大量投与すると血清Na濃度が急速に低下するリスクがあります。2015年以降、国際的なガイドラインでは小児の維持輸液に等張液(生理食塩水ベース)を推奨する方向にシフトしており、T3のような低張維持液の小児への使用は再検討が進んでいます。
これは知っておくべき情報です。
実際、英国では2018年にNICEガイドラインが改訂され、小児入院患者への低張維持液の使用を原則禁止に近い形で制限しました。日本では明確な禁止規定はありませんが、日本小児科学会も低張液による医原性低Na血症への注意喚起を行っています。
術後の抗利尿ホルモン(ADH)分泌亢進状態では、T3のような低張液でも想定以上の水分貯留が起きることがあります。浮腫や低Na血症が術後に進行する一因となり得るため、術後の輸液選択は「維持液だからT3で」という固定観念を持たないことが大切です。
この観点は検索上位の記事ではほとんど取り上げられていない独自視点ですが、臨床的に非常に重要です。
日本小児科学会の関連情報も確認しておくと、より正確な判断基準が得られます。
日本小児科学会 小児輸液に関する提言(jpeds.or.jp)