Grade3以上の高血圧がある患者にそのまま降圧薬を追加し続けると、レンバチニブの休薬タイミングを逃して治療が中断されるリスクがあります。
レンバチニブ(一般名:レンバチニブメシル酸塩、製品名:レンビマ®)は、VEGFR・FGFR・PDGFRαなど複数の受容体チロシンキナーゼを同時に阻害するマルチキナーゼ阻害薬です。根治切除不能な甲状腺癌、切除不能な肝細胞癌、子宮体癌(ペムブロリズマブとの併用)などに用いられ、経口投与で治療できる点が特徴です。
ただし、作用機序が広範なため副作用の種類も多く、管理の難しさがあります。国際共同第Ⅲ相試験(REFLECT試験)で確認された主な有害事象の発現率は以下のとおりです。
| 副作用 | 全Grade発現率 | Grade3以上 |
|---|---|---|
| 高血圧 | 49.4% | 32.1% |
| 食欲減退 | 48.1% | 7.4% |
| 手掌・足底発赤知覚不全症候群 | 51.9% | 7.4% |
| 蛋白尿 | 45.7% | 8.6% |
| 下痢 | 37.0% | 3.7% |
| 血小板数減少 | 28.4% | 7.4% |
数字を見ると、高血圧は約2人に1人、手足症候群も半数以上に発現します。Grade3以上の高血圧に至っては32.1%と、約3人に1人が重篤な血圧上昇を経験していることになります。これは野球の打率で言えば「3割超え」に相当するほど高い数字です。
副作用の多さそのものより深刻なのは、副作用を早期に発見・対処できないことが治療中断に直結するという点です。日本人集団を対象とした解析では、投与開始6サイクル(約168日)までに約半数が有害事象による休薬を経験しているという報告もあります。副作用管理が治療継続の可否を左右するということですね。
甲状腺癌患者を対象とした国内データでは、有害事象出現率がほぼ100%に達するとも言われており、すべての患者に何らかの副作用対策が必要と考えるのが原則です。副作用ゼロを目指すより、重症化させないマネジメントが求められます。
参考:レンビマ®(レンバチニブ)適正使用ガイド(PMDA)
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/170033/3744027a-2e69-402b-b16a-72dd0c97c865/170033_4291039M1020_01_003RMPm.pdf
高血圧はレンバチニブ投与中に最も注意が必要な副作用の一つです。Grade3以上(収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上)の発現率が32.1%と高く、無症状のままコントロール不良に陥るケースが少なくありません。
血圧測定は毎日自宅でも行うよう患者に指導することが基本です。特に高齢者や既往に高血圧・心疾患がある患者では、投与開始直後から慎重な観察が必要になります。
高血圧に対する対応の流れは以下のとおりです。
ここで医療従事者が見落としやすいポイントがあります。降圧薬を追加し続けてGrade3の高血圧を「何とか下げよう」とする対応は、休薬の判断を遅らせるリスクがあるということです。電子添文の基準では、降圧治療にもかかわらず血圧が閾値を超えている場合には速やかな休薬が原則とされています。降圧薬の追加だけでコントロールできないと判断したら、休薬が正しい判断です。
降圧薬の選択については日本高血圧学会のガイドラインに準じますが、VEGF阻害に関連した高血圧にはACE阻害薬やARB、Ca拮抗薬が広く使われています。腎機能への影響も考慮し、NSAIDsとの併用には注意が必要です。
治療開始15日以内に収縮期血圧が160mmHgを超えた場合を「早期高血圧発現」と定義した観察研究では、その後の蛋白尿(UPCR≥3.5g/gCre相当)のリスクが高まることも報告されています。高血圧の管理は腎障害予防にもつながるということですね。
参考:エーザイ医療関係者向けFAQ「レンビマの高血圧の副作用について」
https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/18770?category_id=203&site_domain=faq
手足症候群(手掌・足底発赤知覚不全症候群:PPES)は発現率51.9%と高く、治療継続に影響する副作用のひとつです。手や足の繰り返し物理的刺激が加わる部位に起こりやすく、初期には「しびれ」「ヒリヒリ感」「皮膚知覚過敏」が現れ、進行すると水疱形成・びらん・疼痛が生じます。
重要なのは、手足症候群は症状が出てから対処するのでは遅い、という点です。内服開始「前」からの積極的なスキンケア介入が、重症化を抑制する鍵になります。つまり先手が条件です。
予防・管理の具体的なポイントは次のとおりです。
Grade判定と対応の目安として、日常生活に制限がない状態(Grade1)では予防的スキンケアを継続しながら慎重に観察します。日常生活に制限が出る(Grade2)場合、または痛みが強く患者が忍容できないGrade3では、休薬して症状がGrade1以下に軽快した後に1段階減量して再開します。
あまり知られていない点として、レンバチニブはソラフェニブと比べて手足症候群の重症化が少ないとされています。意外ですね。ただし手足症候群が相対的に軽いぶん、食欲不振・倦怠感が先に出やすいという特徴があり、見逃しに注意が必要です。
兵庫医科大学のデータでは、皮膚障害予防開始として投与前からのヘパリン類似物質製剤の使用が重症化リスクを下げることが示されています。患者が自宅でも適切に保湿できているかを外来ごとに確認することが重要です。
参考:厚生労働省「薬局における疾患別対応マニュアル」手足症候群の項
https://www.mhlw.go.jp/content/001457009.pdf
蛋白尿はレンバチニブの注意すべき副作用のひとつで、全Grade発現率45.7%、Grade3以上が8.6%となっています。腎機能に悪影響を及ぼすため、定期的な尿検査による早期発見が欠かせません。
レンバチニブにおける蛋白尿の休薬基準は「尿蛋白3.5g/日(UPCR≥3.5g/gCr相当)」です。これは他の分子標的薬と比べてやや高めに設定されています。
ここで注意が必要な点があります。レンバチニブから他のレジメンへ逐次治療を変更する際、他のレジメンの休薬基準は尿蛋白2.0g/日と設定されているものが多く、閾値が異なります。レンバチニブで「まだ休薬基準に達していない」と判断していた蛋白尿の程度が、次のレジメンでは最初から休薬が必要なレベルである可能性があるわけです。逐次治療を見据えた管理が条件です。
実際のモニタリングとしては、尿検査でタンパク定性(+)が確認された場合は24時間蓄尿またはスポット尿でのUPCR測定に進みます。以下のフローが目安になります。
また、浮腫や体液貯留、クレアチニン上昇を伴う患者では、Grade1〜2の段階でも休薬を考慮するよう電子添文では注意喚起されています。腎障害既往のある患者では特に重症化しやすいため、投与前から腎機能を丁寧に把握しておく必要があります。
三重大学の後ろ向きコホート研究(2026年1月報告)では、肝細胞癌56例のうち21%(12例)がレンバチニブ治療中にGrade2以上の甲状腺機能低下症を発症し、初期用量20mg以上と治療開始後のGrade3以上の高血圧が重度蛋白尿のリスク因子となることが明らかになりました。高血圧管理が蛋白尿予防にも直結しているということです。
参考:エーザイ医療関係者向けFAQ「腎障害及び蛋白尿の副作用について」
https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/18261?category_id=203&site_domain=faq
食欲不振(発現率48.1%)と倦怠感・疲労(発現率30.6%)は、レンバチニブの治療中断につながりやすい副作用として特に臨床上問題になっています。これらは投与開始後の早期から現れやすく、REFLECT試験でも初期から高頻度に確認されています。
実臨床では「疲労・倦怠感」が治験時よりも高頻度に現れるとの報告があります。疲労・倦怠感に伴う減量・休薬が治療継続の障害になることが明らかになってきており、単なる「様子見」では不十分な状況が多いです。
食欲不振への基本対応は次のとおりです。
薬剤師の観点からは、食欲不振・倦怠感が悪化しているケースに対して、経腸栄養剤やステロイドの処方提案が有効な手段のひとつとして位置付けられています。つまり支持療法の引き出しが重要です。
また、倦怠感の増悪要因として見落とされやすいのが甲状腺機能低下症の合併です。甲状腺機能低下症自体の発現率はREFLECT試験で日本人集団でも高く(肝細胞癌ではある程度低いが、甲状腺癌ではさらに高頻度)、「なんとなく元気がない」「いつも眠い」「寒がり」「便秘」などの症状が続く場合は、TSH・FT4の測定を行うことが必要です。甲状腺機能低下症が確認されればレボチロキシンの補充療法で多くの場合はコントロール可能で、レンバチニブを継続しながら症状を改善できます。
参考:レンバチニブ投与患者の疲労に対する多職種連携マネジメント(J-STAGE)
レンバチニブは外来で継続される経口抗がん剤であるため、入院管理のような密なモニタリングが難しいという背景があります。患者は「このくらいの副作用なら大丈夫だろう」「どのタイミングで連絡すればいいかわからなかった」と感じながら自己判断で飲み続けるケースも少なくありません。
これが、早期中断という最悪の事態につながるリスクを生みます。
そのため、外来での薬剤師による積極的な介入が治療継続率向上に貢献することが示されてきています。札幌厚生病院の研究(医療薬学誌、2021年)では、レンバチニブ投与患者92例を対象に、薬剤師介入群(45例)と未介入群(47例)を比較しました。結果は以下のとおりでした。
介入群での提案内訳は高血圧25件、下痢18件、手足症候群17件、食欲不振15件の順に多く、薬剤師が患者の訴えをアセスメントし医師へ橋渡しすることで、副作用のGrade改善に繋がったことが確認されています。
外来での薬剤師介入が奏功したからといって、病院薬剤師だけで担うことには限界があります。退院後は調剤薬局薬剤師が週1回の電話フォローアップを行い、情報共有シートを病院へFAXする「薬薬連携」の体制が、香川大学医学部附属病院の取り組みとして報告されています。これは使えそうです。チェックリスト型の共有シートを活用することで、高血圧・下痢・手足症候群・食欲不振などの重症度を定量的に把握し、医師への迅速な連絡が可能になります。
医療従事者として重要なのは、副作用管理は「出てから対処」だけでなく「出る前の予防指導」「出始めた時の早期介入」「重篤化前の休薬判断」という3段階のアプローチを意識することです。この流れが基本です。
参考:香川大学医学部附属病院薬剤部「Lenvatinibの副作用管理と薬薬連携」(2019年)
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~yakuzaib/medical/document/yakuyaku_190806_lenvima.pdf
参考:HOKUTO医師向け適正使用ガイド「Lenvatinib(レンビマ®)レジメン」
https://hokuto.app/regimen/IL09H4ELTvp49ktZyXZS