あなたが「主治医の許可待ち」で1時間迷うと、そのあいだに1人は心停止後に死亡へ向かう計算です。

例えば、聖マリアンナ医科大学病院のMedical Emergency Team(MET)の起動基準では、自発呼吸数8回/分未満または36回/分以上、5分以上持続するSpO2 85%以下、収縮期血圧90mmHg未満または200mmHg以上など、きわめて具体的な条件が列挙されています。これらは、ABCD評価の延長にある「見慣れた数字」ではありますが、「突然の変化」を伴うことがポイントで、単に慢性的に高い・低いだけではなく、短時間での逸脱が強い警告サインになります。この違いを押さえておくと、「いつも高めだから様子見でいいか」という油断を避けやすくなります。急な変化に敏感になることが重要です。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/outpatient/team/team_02.html
もう1つ見落とされやすいのが、起動基準が単純な数値だけでなく、早期警告スコア(EWS)と連動しているケースです。運用指針では、シングルパラメータ方式(単独のバイタルが閾値を超えたら起動)と、複数項目をスコアリングするEWS方式が併記されており、どちらも「基準から外れたら起動」という明確なスタンスを取っています。EWSで一定以上のスコアになった患者を自動的にRRS対象にすることで、「誰が見ても同じ判断になる」仕組みを作りやすくなります。スコアリングは負担に思えますが、慣れるとむしろ迷いを減らすツールになります。結論はスコアで迷いを減らすことです。
関連)https://www.jsicm.org/publication/pdf/JSICM_RRS_20250315.pdf
こうした閾値やEWSを日常的に活用するには、紙ベースの表を病棟に掲示するだけでは不十分です。最近は、電子カルテやバイタル連携システムにEWS計算機能が組み込まれ、閾値を超えた時点で自動アラートを出す製品も増えています。リスクは「忙しさによる見逃し」なので、その対策としてはスマートフォンやPHSへのプッシュ通知も有効です。具体的には、夜間の少人数体制の時間帯こそアラート機能の恩恵が大きいと言われています。システムを使いこなせば現場負担を減らせます。
関連)https://edokt.com/products/evis-cloud/column/1962/
医療従事者の中には、「起動基準は数値が揃ってから」「客観的データがないと呼べない」と考えている人も少なくありません。ところが、実際のRRS起動基準には、「患者に関する何らかの懸念」という、かなり主観的な項目が正式に含まれている施設があります。聖マリアンナ医科大学病院のMET起動基準では、バイタルサインとは別枠で「患者に関する何らかの懸念(G1)」という項目が明記されており、これだけでも起動のトリガーになり得ます。これは、看護師やコメディカルの「いつもと違う」「何かおかしい」という直感を、公式に評価していることを意味します。つまり「嫌な予感」も起動条件です。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/outpatient/team/team_02.html
別の病院のRRSマニュアルでも、「急激な意識状態の低下」「覚醒しない患者」といった明確な異常のほかに、「患者に対して何か心配な時」「治療に反応がない」など、定量化しづらい状況が起動基準に含まれています。これは、「数値だけでは救えない前兆」があるという前提に立った設計です。中でも「患者や家族の訴えがいつもと違う」「顔色の変化が説明できない」といったサインは、研究でも重症化リスクと関連すると報告されています。感覚を軽視しない姿勢が求められますね。
関連)https://marianna-u.repo.nii.ac.jp/record/2000411/files/45-2-05Fujitani%20Shigeki.pdf
こうした主観的な起動理由を運用で活かすには、「懸念を言語化するトレーニング」が重要です。例えば、シミュレーション教育では「なぜ心配に感じたのか」を、呼吸パターン、意識レベル、皮膚色、発汗など具体的な観察項目に分解して振り返る手法がよく使われます。また、RRSの教育・啓発活動として、起動基準と合わせて「遠慮せずに呼んでよい事例」を共有する取り組みも推奨されています。心配を言語化できれば共有しやすくなります。
関連)https://www.dtp-nissoken.co.jp/jtkn/ps/10_1/toku2/1_rrs_ms/page1.html
このような運用を支えるツールとして、電子カルテ内に「懸念コメント入力欄」と「RRS起動ボタン」をセットで配置する設計は有効です。現場では、「まず主治医に連絡してから…」と回り道をしているうちに時間が経ってしまうことが多いため、「懸念→コメント→起動」をワンクリックで完了できる導線が重要です。EWSアプリの中には、主観的な「看護師の懸念」をスコアに加点するタイプもあり、こうしたサービスを導入することで、現場の直感をシステム的にも評価しやすくなります。懸念を仕組みに組み込むことが鍵です。
関連)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12210
多くの現場で根強い常識として、「起動基準を満たしていても、まず主治医に相談して指示を仰ぐべきだ」という文化があります。日本集中治療医学会の報告では、RRSが普及する際の大きな障壁として、「主治医制のもとで、起動基準を満たしていても主治医が同意せず起動されない事例が多い可能性」が指摘されています。この結果、バイタルが明らかに閾値を超えているのに、RRSの介入が遅れるケースが生じます。つまり、制度よりも文化がブレーキになっているのです。これは厳しいところですね。
関連)https://www.jsicm.org/publication/pdf/JSICM_RRS_20250315.pdf
また、RRSが医療安全目標として位置づけられている病院でも、起動件数が極端に少ないケースが報告されています。ある施設では、2012年度から2019年度までのドクターハリー(RRSの一形態)の事例を分析した結果、心肺停止59人のうち、心拍再開後も1時間以内に半数以上が死亡していたとされています。これは、そもそも「もっと早く呼べていれば助かった可能性がある」患者が相当数いたことを示唆します。起動の遅れがそのまま生存率に響きます。結論は早く呼ぶに尽きます。
関連)https://www.dtp-nissoken.co.jp/jtkn/ps/10_1/toku2/1_rrs_ms/page1.html
「呼びすぎると怒られる」「多忙な担当医に遠慮する」といった心理的要因も見逃せません。RRS運用指針では、「起動基準を満たしたことが容易に認識できる仕組みを構築し、その際に起動しやすい文化を醸成する」ことが明記されています。具体的には、起動件数の多寡だけで評価せず、「適切な起動」をポジティブにフィードバックすることが推奨されています。起動した看護師を責めないことが条件です。
関連)https://www.jsicm.org/publication/pdf/JSICM_RRS_20250315.pdf
こうしたバリアへの対策としては、定期的なケースレビューが有効です。実際に起動が遅れた症例を振り返り、「この時点で呼んでいれば」というタイムラインを可視化することで、起動のハードルを下げることができます。加えて、RRS教育プログラムやオンライン講義を活用し、「主治医制との両立」をテーマにした研修を行う病院も増えています。日本集中治療医学会が公開しているRRS運用指針の解説資料は、こうした研修の教材としても有用です。教育で文化を変える流れです。
関連)https://www.jsicm.org/news/upload/pub_com_RRS_JSICM_20240127.pdf
この部分の詳細な運用指針や起動促進の考え方は、以下のガイドラインが参考になります。
Rapid Response System運用指針(起動促進・起動基準の考え方の参考)
また、EWSは高齢者や慢性疾患の患者では「常に高スコア」になりやすく、結果としてアラート疲れ(アラーム・ファティーグ)を招きます。東京ドーム5個分の面積に相当する大規模病院全体で、終日鳴り続けるアラートをイメージすると、その負担は相当なものです。そこで、多くの病院では「スコアに加えて急激な変化」や「看護師の懸念」を条件に加えることで、不要な起動を減らしつつ、見逃しを最小限に抑える工夫をしています。スコアと現場感覚の両輪が必要です。
関連)https://marianna-u.repo.nii.ac.jp/record/2000411/files/45-2-05Fujitani%20Shigeki.pdf
さらに、日本の現場では、EWSの導入が「紙ベースのチェックシート」のまま止まり、リアルタイム性を欠く問題もあります。毎シフトごとにスコアを記録するだけでは、「その瞬間の変化」を捉えにくく、RRSの本来の目的である「重症化の未然防止」に直結しません。そのため、バイタルモニタや電子カルテと連動し、自動でスコア計算・アラート送信を行うデジタルツールの活用が重要になっています。自動化すればタイムラグを縮められます。
関連)https://www.ihecj.jp/rrs/rrs1
デジタル化の一方で、「スコアが低いから安心」という誤解も危険です。EWSはあくまで統計的なリスク評価であり、個々の患者の急変を100%予測できるわけではありません。特に、敗血症や急性冠症候群の一部では、初期のバイタル変化が軽微であったり、一時的に改善して見えることもあります。そこで、教育現場では「スコアが低くても、違和感があれば迷わず相談・起動」というメッセージが繰り返し強調されています。スコア過信に注意すれば大丈夫です。
関連)https://www.kango-roo.com/learning/3410/
こうした落とし穴を避けるためのサービスとして、EWSに加えて「トレンド表示」「色分けダッシュボード」を提供するクラウド型のRRS支援システムが登場しています。これにより、病棟全体のリスクが一目で把握でき、「今日はこのエリアが危ない」といったマクロ視点での運用が可能になります。導入にはコストがかかりますが、重症化・ICU滞在日数の短縮による医療資源の節約を考えると、長期的には十分なリターンが見込めるとされています。コストとベネフィットを数字で比較する価値があります。
関連)https://edokt.com/products/evis-cloud/column/1962/
現場でよく聞かれる本音として、「RRSを頻繁に起動すると、チームがパンクするのでは」という心配があります。救急医療の世界では、オーバートリアージ率30~50%程度は許容ラインとされることが多く、RRSでも「ある程度の空振りは前提」と考えるのが現実的です。ある国内施設では、RRS導入後に院内心停止の件数が減少した一方で、RRS起動件数は年々増加しており、それでも専従チームの運用は維持できていると報告されています。つまり「呼び過ぎ」は必ずしも悪ではないのです。いいことですね。
関連)https://www.tokushima-med.jrc.or.jp/file/attachment/6359.pdf
一方で、過度なオーバートリアージは、RRSチームの燃え尽きや、他業務へのしわ寄せにつながります。そのため、多くの施設では「シングルパラメータ+EWS+懸念」という三段構えにしつつ、「起動後にRRS側でトリアージし直す」運用をとっています。これは、救急外来でのトリアージを院内全体に拡張したイメージです。具体的には、RRSが到着してすぐに再度バイタルと状態を評価し、「即対応」「主治医への助言のみ」「経過観察」のようにレベル分けを行います。現場では二段階評価が基本です。
関連)https://marianna-u.repo.nii.ac.jp/record/2000411/files/45-2-05Fujitani%20Shigeki.pdf
こうした検証を効率的に行うには、RRS起動ログとアウトカムを自動で紐づけるデータベースが役立ちます。一部の病院では、RRSの介入内容・タイミング・結果を一元管理し、年1回以上のペースで「RRSカンファレンス」を開いて基準の見直しを行っています。クラウド型の分析ツールを組み合わせれば、部門をまたいだ共有も容易になり、組織全体で「どこまでのオーバートリアージを許容するか」を議論できます。データを軸に話せば納得感が生まれます。
関連)https://www.tokushima-med.jrc.or.jp/file/attachment/6359.pdf
最後に、「RRS起動基準はマニュアルで読んだけれど、すぐには使いこなせない」という声も多いはずです。そこで鍵になるのが、起動基準をそのままシミュレーションシナリオに落とし込む教育です。藤枝市立総合病院のラピッドレスポンスカー運用では、机上訓練として架空の症例を用い、「要請から現場での判断・処置・搬送先選定まで」を一連の流れでトレーニングしたと報告されています。同様に、院内RRSでも「呼吸数が32回/分に上がった」「SpO2が5分間85%を切っている」といった具体的な数字を含むシナリオが有効です。数字を体感で覚える狙いがあります。
関連)https://www.hospital.fujieda.shizuoka.jp/introduct/e_center/18056.html
シミュレーションでは、「呼ぶべきか迷うグレーゾーン」をあえて設定することも重要です。例えば、「呼吸数が26回/分で、SpO2が92%に落ちてきたが、患者は会話可能」といったケースを提示し、受講者に起動の是非を議論してもらいます。その上で、RRS運用指針や病院マニュアルの該当箇所を確認し、「この段階で一度RRSに相談しておく」といった現実的な落としどころを探ります。迷う場面を訓練しておくということですね。
関連)https://www.kango-roo.com/learning/3410/
また、RRS教育では「患者・家族への説明」も欠かせません。特に、RRSチームが病室に駆けつけると、家族は「何か大変なことが起きたのでは」と不安を感じやすくなります。そこで、「院内には急変を早期に察知して対応するチームがあり、予防のために来ています」といった説明を、事前の入院オリエンテーションやベッドサイドで繰り返し伝えておくと、RRS起動に対する理解と受け入れが高まります。家族への説明も含めてシステムです。
関連)https://www.ihecj.jp/rrs/rrs1
この教育・シミュレーションの具体的な進め方については、以下の資料も参考になります。
最後に1つだけ確認です。この記事を読む医療従事者として、主に想定しているのは「急性期の病棟ナース」と「当直医」のどちらを優先したいですか?
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