通常の塩素消毒では死滅しません。

ランブル鞭毛虫(ジアルジア・ランブリア)の感染経路は、主に3つの経路が知られています。最も一般的なのは汚染された水や食品からの経口感染で、感染者の糞便中に排出されるシスト(嚢子)を介して感染が広がります。このシストは短径5~8μm、長径8~12μmのラグビーボール型の形状をしており、環境中で高い抵抗性を示します。
関連)https://maruoka.or.jp/infection/infection-disease/giardiasis/
次に多いのが感染者との接触による人から人への直接感染です。保育園や学校での子供の集団感染、家族内感染が典型的な例として報告されています。手指を介した糞口感染が主な経路となり、特に小児では成人より感染を受けやすいとされています。
関連)https://dmu.repo.nii.ac.jp/record/906/files/KJ00006692719.pdf
動物から人への感染経路も存在します。汚染された水や土壌を介して、ペットなどの動物がシストを保有している場合、人への感染源となる可能性があります。
関連)https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/giardiasis/
世界中のほとんどの国で有病地を抱えており、熱帯・亜熱帯の衛生環境の悪い地域では感染率が10~20%、地域によっては40%前後に達します。つまり相当な感染者数です。
関連)https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_23.pdf
ランブル鞭毛虫のシストは塩素消毒に対して強い抵抗性を持っています。水道で用いられる通常の塩素濃度では不活化することができず、これが水系感染の主要な原因となっています。
関連)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/200404-1.pdf
具体的には、シストの99.9%を不活化するには遊離塩素のCT値が150~300程度必要とされます。たとえば遊離塩素1.0mg/Lの場合、150分から300分(2.5~5時間)の接触時間が必要です。これは通常の水道水処理では達成困難な条件ですね。
関連)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/09/dl/s0904-4e5.pdf
一方で、シストは熱には比較的弱く、60℃数分以上の加熱で死滅します。そのため流行地では生水や生野菜などに注意が必要です。
関連)https://www.kansensho.or.jp/ref/d27.html
また、2.5ppmや8ppmの次亜塩素酸ナトリウムへの60分間接触で死滅するとの報告もあります。医療機関での環境消毒には0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬が推奨されます。シストは湿った環境下で少なくとも2ヶ月は不活化せず、16日間は感染性が持続したという報告もあります。塩素消毒に頼れないということです。
関連)https://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/choose/microbe17/
日本国内でも水道水を原因としたランブル鞭毛虫の集団感染事例が報告されています。ある施設では、厨房蛇口より採水した飲料水から残留塩素が検出されず、大腸菌とジアルジアが検出されました。患者9名の検便検査の結果、4名からジアルジアが検出され、厨房蛇口の飲料水からもジアルジア(18個/20L)とクリプトスポリジウム(149個/20L)が検出されています。
関連)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/4867-dj4145.html
この事例では地下受水槽への給水を停止したにもかかわらず、3~6月の3カ月強で地下受水槽内の水位の上昇と汚濁が確認されました。地下受水槽の内部には接続先を確認できない複数の配管と、過去に使用していた配管周りのコンクリートに腐食が認められたことから、受水槽の管理不備が原因と推定されています。
関連)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/4867-dj4145.html
水系感染症の原因微生物は原虫が最も多く、その理由は原虫が消毒に強い抵抗性を持つためです。自治体の上水システムのろ過が不十分であった場合には感染が流行する一因になります。
貯水槽使用水(タンク水)や井戸水等を使用する施設では、定期的な水質検査が形式的になりがちですが、実際の感染リスクは高いといえます。受水槽の衛生管理を見直す際には、専門業者による配管の点検と清掃を定期的に実施することが重要です。
関連)http://www.saturn.dti.ne.jp/sasai/kikaisouti15.5.pdf
ランブル鞭毛虫はシストの経口摂取が本来の感染ルートですが、最近は男性ホモセクシャル間の性行為感染症(STD)として注目されつつあります。特に肛門と口唇が直接接触するような性行為(oral-anal sexual contact)がリスク因子とされています。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542912117
HIV感染合併例では、免疫能が低下した時に本原虫が著明に増加することが知られています。AIDS患者や免疫抑制剤投与を受けている患者では、無症状のシストキャリアから発症するリスクが高まります。
関連)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/4869-dj4147.html
性行為感染症としてのランブル鞭毛虫症を疑う場合、問診で性的接触の詳細を確認することが診断の手がかりになります。検便でランブル鞭毛虫の栄養体またはシスト(嚢子)を検出することで確定診断します。診断した医師は五類感染症(全数把握)として7日以内に最寄りの保健所へ届け出る必要があります。それが法的義務です。
関連)https://www.jspghan.org/idi/chapter2/2-04.html
ランブル鞭毛虫の感染は1~数個のシストの摂取により成立するものと考えられています。人での実験では10~25個という微量の摂取でも感染が成立したとの報告があります。この極めて低い感染成立量が、水系感染や接触感染を容易にしている要因です。
関連)https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa32.pdf
シストは経口摂取後、胃酸による刺激で脱嚢し、小腸上部で栄養体(増殖型)に変化します。栄養体は洋ナシ型で、長径10~15μm、短径6~10μm程度の大きさをしており、腸管上皮細胞上で増殖・寄生します。
ランブル鞭毛虫は毒素産生が知られておらず、細胞に侵入せず、無症状のシストキャリアにもなります。多くの場合は無害で、病原体としてはあまり問題にされていなかったかもしれません。報告されたジアルジア症の約2%が無症状であったとされています。
関連)http://congress.jamt.or.jp/kyushu52/pdf/general/0091.pdf
しかし免疫能が低下した時には症状が顕在化します。低γグロブリン血症、腸内分泌型IgAの低下、AIDS、免疫抑制剤投与などの免疫障害を持つ人では症状がより重大になります。成人よりも小児に多く見られ、乳児や小児は成人より感染を受けやすいとされています。
関連)https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_23.pdf
無症状キャリアを見逃さないためには、下痢症状がなくても感染リスクの高い環境にいる人への検便検査が有効です。保育園職員や給食従事者などハイリスク集団では、定期的なスクリーニング検査の実施を検討する価値があります。