下痢を「様子見」で放置すると、日本人患者の約50%が1年以内に治療を中止します。

オフェブ(一般名:ニンテダニブ)を服用した患者の60〜70%に下痢が発現します。これはほぼ3人に2人という水準であり、「副作用が出るかもしれない」ではなく「出ることを前提に管理する」姿勢が必要です。
日本人IPF患者76例のデータでは、下痢は51例(67.1%)に認められました。下痢は服用開始の初期に多く集中する傾向があり、特に投与1〜4週目に最も注意が必要です。この初期フェーズを乗り越えられるかどうかが、長期的な治療継続を左右します。
下痢への対応フローは段階的です。まず最初に行うのは対症療法で、ロペラミド(市販名:ストッパなど)などの止瀉薬を投与します。食事面では、脂っこいもの・乳製品・カフェイン・アルコール・炭酸飲料を避けるよう患者に指導し、あっさりした食事(ご飯・めん類・バナナ・鶏肉など)へ切り替えることが重要です。また、脱水を防ぐため常温の水やスポーツ飲料による水分補給を徹底するよう伝えましょう。
対症療法を行っても下痢が持続する場合には、150mgから100mgへの減量を検討します。INPULSIS試験(下痢による中止率4.4%)やSENSCIS試験(同6.9%)では、減量によって下痢の発現率が37.1%から18.9%に低下したことが示されています。これは大幅な改善効果です。
重度の下痢が対症療法・減量にもかかわらず改善しない場合のみ、治療の中止を検討します。つまり、すぐに中止しないことが原則です。
下痢が続くときの対応が基本です。発熱・悪寒・嘔吐を伴う下痢は感染性腸炎の可能性があり、対応が異なるため注意が必要です。このような場合は感染症の鑑別を優先し、安易に止瀉薬を使用しないよう患者に指導しましょう。
オフェブでおこりやすい副作用(下痢・吐き気・肝機能障害)の対処法とセルフケアポイント|IPF.jp(患者・家族向け)
肝機能障害はオフェブの重大な副作用の一つです。重大な副作用としての肝機能障害の発現率は添付文書上では2.1%ですが、肝酵素上昇(AST・ALT・ALP・γ-GTP上昇など)という形での臨床検査値異常は、それをはるかに超えた頻度で現れます。
特に見過ごせないのが日本人への影響です。INPULSIS試験における日本人集団では、有害事象としての肝酵素上昇の発現率がオフェブ群で39.5%(30/76例)に達しました。これは全体集団(13.6%)の約3倍です。日本人患者に対してはより細かいモニタリングが必要だということです。
管理の基準はAST・ALTが基準値上限(ULN)の3倍超かどうかです。3倍超の場合は減量または投与中断を行い、5倍超では投与中断が原則となります。
| AST/ALT上昇レベル | 対応の目安 |
|---|---|
| 基準値上限の3倍以下 | 継続・慎重観察(検査頻度を上げる) |
| 基準値上限の3倍超〜5倍以下 | 150mg→100mgへの減量または中断を検討 |
| 基準値上限の5倍超 | 投与中断(再投与は100mgから再開) |
投与前の確認も欠かせません。軽度肝機能障害(Child Pugh A)の患者では、健康成人と比較してニンテダニブのCmaxが2.2倍、AUCが2.2倍に上昇します。中等度(Child Pugh B)では、CmaxはなんとR7.6倍、AUCは8.7倍にまで上昇するため、中等度・高度の肝機能障害患者への投与は治療上やむを得ない場合を除き避けることが推奨されます。
発現時期は特定の時点への集中傾向は認められず、投与期間を通じて出現しうります。定期的な肝機能検査(最低でも月1回)を継続することが条件です。
肝酵素上昇が発現した患者でも、INPULSIS試験の日本人集団では93.3%(28/30例)が治療継続可能でした。つまり肝機能障害が出ても、多くは適切な対処で継続できます。早期発見と適切な対処が、治療継続の可否を分けます。
オフェブ適正使用ガイド(ベーリンガーインゲルハイム)−肝機能障害の詳細な発現状況・転帰・対処フローを収録
オフェブに関する副作用として、医療従事者の間では下痢や肝機能障害に注目が集まりがちです。しかし実臨床で見落とされることがあるのが、VEGFR阻害作用に由来する「創傷治癒遅延」です。これは要注意の副作用です。
オフェブはもともと抗がん剤として開発された薬剤で、抗VEGF作用を軸に設計されています。VEGFは血管新生だけでなく創傷治癒においても重要な因子であるため、この作用が創傷治癒を遅延させるリスクを生じさせます。
全日本民医連医薬品評価作業委員会が2025年に報告した実症例では、70代男性がオフェブ服用中に右足外果(外くるぶし)に1円玉大の皮膚潰瘍を生じ、抗生物質や他剤による治療を続けても1年半以上にわたり完治しませんでした。新規配属の薬剤師がオフェブによる創傷治癒遅延の可能性を指摘し、中止を決定。中止後わずか約3ヶ月で潰瘍は完全に治癒したと報告されています。
この症例では、残薬があったために患者が服用を続けてしまい、中止がさらに遅れました。高額薬剤ゆえに患者が「もったいない」と思って飲み続けるリスクも、医療従事者が念頭に置くべき視点です。
周術期においても創傷治癒遅延のリスクを考慮し、術前の休薬を検討するよう弘前大学病院など複数の医療機関のガイドラインに記載されています。「血管新生阻害作用により創傷治癒遅延のため」という理由で、休薬の検討が必要な薬剤として分類されています。
オフェブ服用患者が手術を予定している場合や、治りにくい皮膚創傷・潰瘍がある場合には、オフェブとの因果関係を積極的に疑う姿勢が重要です。
副作用モニター情報〈634〉ニンテダニブ(オフェブ)による創傷治癒遅延の実症例報告|全日本民医連(2025年4月)
「オフェブはいったん副作用が出たら中止やむなし」と考えている医療従事者は、判断の見直しが必要かもしれません。
2023年にAdv Ther誌(2023年1月24日オンライン版)に報告された日本人IPF患者5,578例の市販後調査中間解析によれば、投与開始12カ月以内に50.1%(2,795例)が治療を中止していました。そのうち51.6%はADR(有害薬物反応)による中止で、主な原因は肝機能異常(18.8%)と下痢(13.2%)でした。
しかし重要なのはその先のデータです。治療継続群では12カ月時のFVC低下幅が−104.4±10.9mLだったのに対し、治療中止群では−311.2±29.2mLと、実に3倍もの差がありました。治療を続けることが、肺機能の保護につながるということです。
✅ さらに注目すべきは、減量による副作用軽減効果です。
| 副作用 | 減量前の発現率 | 減量後の発現率 |
|---|---|---|
| 肝機能異常 | 22.8% | 7.5% |
| 下痢 | 37.1% | 18.9% |
150mgを100mgへ減量するだけで、肝機能異常は約1/3、下痢は約半分に低下します。永続的な中止ではなく、まず減量または一時的な中断を試みることが治療成功への鍵です。
研究者らは「IPFの早期から投与開始し、副作用時は永続的中止でなく減量・一時的中断を優先するべき」と結論しています。肺機能悪化のリスクが高い患者(FVC70%未満、重症度分類Ⅲ〜Ⅳ度)では早期中止のリスクも高いことが示されており、こうした患者への積極的な副作用マネジメントが特に重要です。
オフェブの副作用対策を考えるうえで、服用方法に関する知識も重要です。知っているようで見落とされがちなポイントが複数あります。
まず服用タイミングです。オフェブは必ず食後に服用する必要があります。食後投与では空腹時投与と比較してCmaxが抑えられ、吸収のピークが遅くなります(空腹時:約2時間後 → 食後:約4時間後)。これにより吐き気などの消化器症状が軽減されると考えられています。空腹時に服用した場合、血中濃度が急峻に上昇し、消化器症状が増悪する可能性があります。食後服用は形式的な指示ではなく、薬物動態的な意味がある重要なルールです。
次にカプセルの取り扱いです。オフェブカプセルは吸湿性があります。そのため、服用直前にPTPシートから取り出すことが必要で、事前に出しておくことは推奨されません。また、カプセルを噛んだり割ったりしてはならず、必ずコップ一杯の水とともに丸ごと飲み込む必要があります。
飲み忘れへの対応もよく問われます。飲み忘れに気づいた際は、その回はスキップして次回の通常時間に1回分を服用します。2回分をまとめて飲むのは厳禁です。
また、薬価の高さも見落としてはならない観点です。オフェブカプセル150mgの薬価は1カプセル5,966.4円であり、1日2回(朝・夕)服用すると1日薬価だけで約11,932円になります。1カ月28日分で約33万円以上にのぼり、10割換算の医療費総額は40万円以上になることも少なくありません。これが「高額だからもったいない」という患者心理を生み、残薬服用による副作用遷延につながるケースも実報告で確認されています。
医療従事者として、患者の服薬行動の背景にある経済的な事情にも目を向けることが、副作用の早期対処につながります。難病医療費助成制度や高額療養費制度を活用した医療費シミュレーションを、ベーリンガーインゲルハイムが提供しています。患者への説明の際に活用することで、安心して治療を継続できる環境をサポートできます。
オフェブによる治療 医療費自己負担額計算ツール|ベーリンガープラス(医療関係者向け)