乳酸ピルビン酸比とミトコンドリア機能の臨床的意義を解説

乳酸ピルビン酸比(L/P比)はミトコンドリア機能評価の重要指標ですが、正常値でもミトコンドリア病を否定できないケースが約20%存在します。現場で見落としやすいポイントとは?

乳酸ピルビン酸比とミトコンドリア機能の関係と臨床応用

⚠️ L/P比が正常値でも、ミトコンドリア病の約20%は血中乳酸値が正常範囲のまま診断が遅れています。


🔬 この記事の3つのポイント
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L/P比の基準値と意味

正常なL/P比は7〜20(モル比)。20以上でミトコンドリア呼吸鎖異常を示唆するが、正常値だからといって安心はできない。

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NADH/NAD⁺比との直接連動

L/P比は細胞内のNADH/NAD⁺比を忠実に反映する。ミトコンドリア電子伝達系の異常を間接的にリアルタイムで映し出す鏡。

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見落とし防止の鑑別ポイント

PDHC欠損症ではL/P比が正常〜低値になるため、L/P比上昇「なし」でミトコンドリア病を除外するのは危険。髄液値も必ずセットで確認。


乳酸ピルビン酸比(L/P比)の基本概念とミトコンドリアの役割



乳酸とピルビン酸は、エネルギー代謝の流れの中で表裏一体の関係にあります。ピルビン酸は解糖系の最終産物であり、正常なミトコンドリア機能があれば速やかにTCA回路へ流入してATP産生に使われます。しかし、ミトコンドリアの電子伝達系が障害されると、ピルビン酸はミトコンドリアに入れず、細胞質で乳酸脱水素酵素(LDH)によって乳酸へ変換される量が増加します。


関連)http://aki-chan.cocolog-nifty.com/myblog/2015/01/lp-4077.html


つまり、L/P比が上昇するということですね。


L/P比(乳酸/ピルビン酸比)は重量比ではなくモル比(mol/mol)で算出します。 乳酸とピルビン酸の分子量はほぼ等しいため実質的に重量比≒モル比ですが、代謝評価では分子数が本質であることを忘れてはいけません。健常者の血中L/P比は7〜20が正常範囲とされており、臨床的な異常判定ラインは20以上です。


関連)https://jsimd.net/documents/GuidelinesInClinicalGenetics/sentenseikounyusankessyousyoukougun.pdf


L/P比の真の意義は「ミトコンドリアの酸化還元状態の窓」という点にあります。細胞内のNADH/NAD⁺比が上昇すると、LDH反応の平衡がピルビン酸→乳酸方向にシフトするため、血中L/P比が上昇します。 ミトコンドリア呼吸鎖が障害されてNADHが酸化されにくくなると、まさにこの状態が起きます。言い換えれば、L/P比は細胞の「還元ストレス度」を血液1本で評価できる指標です。


関連)http://mito-green.club/blog/?m=20210621


指標 正常値 異常の目安
血清乳酸 <2.1 mM(19 mg/dL) 2.1 mM以上で高乳酸血症
髄液乳酸 <1.8 mM(16 mg/dL) 1.8 mM以上で異常
L/P比(血清・髄液) 7〜20 20以上でミトコンドリア呼吸鎖異常を示唆


参考:ミトコンドリア病の診断基準・バイオマーカーに関する詳細な解説
シスメックス プライマリケア:ミトコンドリア病の検査基準値と診断


乳酸ピルビン酸比の上昇メカニズム:ミトコンドリア呼吸鎖との連動

ミトコンドリア呼吸鎖(電子伝達系)は複合体Ⅰ〜Ⅳから構成され、NADHを酸化しながらプロトン勾配を形成してATPを産生します。この経路が障害されると、NADHが蓄積してNADH/NAD⁺比が上昇します。 LDH反応の平衡定数が一定であることから、NADH/NAD⁺比の上昇は直接L/P比の上昇に直結します。これは「代謝障害によるピルビン酸蓄積よりも、NADH酸化障害によるNADH蓄積の方が影響が大きい」ためです。


関連)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/043041/200400431B/200400431B0008.pdf


呼吸鎖異常の場合、L/P比は20を超えることが多い。


一方で、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症の場合はメカニズムが異なります。PDHCはピルビン酸をアセチルCoAに変換する酵素であり、これが欠損するとピルビン酸が細胞質に蓄積します。ピルビン酸が増えると、LDH反応によって乳酸も増えますが、両者がほぼ等比率で増加するためL/P比はほぼ正常〜低値を示します。 MSDマニュアルにも「酸化的リン酸化障害ではL/P比が上昇し、PDHC欠損症ではL/P比が正常を維持する」と明記されており、L/P比は両者を鑑別する上で本質的な情報を与えます。


関連)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%9A%84%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8C%96%E9%9A%9C%E5%AE%B3?ruleredirectid=465


この鑑別は治療方針に直結するため、臨床的に重要です。


  • 🔴 L/P比 ≥ 20:ミトコンドリア呼吸鎖(複合体Ⅰ〜Ⅳ)障害を示唆 → 電子伝達系の機能評価へ
  • 🟡 L/P比 正常〜低値 + 高乳酸血症:PDHC欠損症・ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症などを考慮
  • 🟢 L/P比 正常 + 乳酸正常:二次性高乳酸血症(循環不全・低酸素など)の関与を優先評価


参考:L/P比の生化学的根拠と計算式の詳細解説
あきちゃんの雑記帳:L/P比とNADH/NAD⁺比の関係(生化学的考察)


乳酸ピルビン酸比が正常でも否定できないミトコンドリア病の落とし穴

多くの医療従事者は「乳酸・L/P比が正常ならミトコンドリア病は除外できる」と考えがちです。これが現場での最大の落とし穴です。


実際、ミトコンドリア病の約20%の症例では血中乳酸値が正常範囲を示すことが報告されています。 仙台市立病院での症例報告では、乳酸/ピルビン酸比が18.2と基準値(20)をわずかに下回りながらも確定診断に至った例が記録されており、「数値ギリギリで除外判断した結果、診断が遅延する」リスクが実在します。


関連)https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p041-045%2036.pdf


数値1つで除外するのは危険ということですね。


さらに、採血時の条件が数値に大きく影響します。食事・運動・泣き声・採血時の処置時間などによって乳酸値は容易に変動します。 安静・空腹状態で採血し、検体を速やかに除タンパク処理しないと、偽高値や偽低値が生じます。とくに小児では「泣いた直後の採血 → 乳酸偽高値」が起きやすく、L/P比の判断をゆがめます。


関連)https://jsimd.net/documents/GuidelinesInClinicalGenetics/sentenseikounyusankessyousyoukougun.pdf


  • 採血は安静・空腹状態で実施する
  • 検体はすぐに氷冷し、除タンパク処理(過塩素酸など)を行う
  • 血清値だけでなく髄液乳酸・髄液L/P比も合わせて評価する
  • 1回の正常値で除外せず、症状と合わせた総合評価を行う


東京都神経病院の解説でも「乳酸・ピルビン酸値が上がらないミトコンドリア病の患者さんも存在する」と明記されており、検査値だけに頼らない臨床判断の必要性が強調されています。


関連)https://www.tmhp.jp/shinkei/section/medical-department/child-neurology/child-neurology-disease/mitochondrial.html


参考:ミトコンドリア病の診断プロセスと臨床症候の総合的解説
東京都神経病院:ミトコンドリア病の診断と検査


ミトコンドリア病の主要病型とL/P比の使い分け:MELAS・MERRF・PDHC欠損症

ミトコンドリア病は単一疾患ではなく、多様な病型の総称です。代表的な病型ごとにL/P比の示す意味と有用性が異なるため、病型を意識した解釈が求められます。


MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作) は最も頻度の高い病型の一つです。原因の80%以上はmtDNA m.3243A>G変異であり、安静時から乳酸・ピルビン酸が上昇し、軽度運動後には過剰上昇を示します。 L/P比は典型例で20以上を示し、バイオマーカーとして有用です。


関連)https://grj.umin.jp/grj/melas.htm


これは使えそうです。


MERRF(ミオクローヌスてんかん・赤色ぼろ線維) は、約80%がmtDNA 8344番の点変異で生じます。 全身性のミオクローヌスてんかん・小脳性運動失調を特徴とし、L/P比上昇を伴うことが多いですが、筋生検でのragged red fiber(赤色ぼろ線維)確認が診断の柱となります。


関連)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2&pk=312


Leigh症候群(亜急性壊死性脳脊髄症) では、mtDNA 8993番・9176番・13513番変異や核遺伝子変異など多様な原因が存在します。 半数以上が1歳以内に発症し、L/P比は著明高値を示すことが多いですが、成人発症例もあり見落としに注意が必要です。


関連)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2&pk=312


病型 主な原因変異 L/P比の傾向 特徴的所見
MELAS m.3243A>G(80%以上) 上昇(≥20) 脳卒中様発作、乳酸アシドーシス
MERRF mt8344変異(約80%) 上昇 ミオクローヌスてんかん、RRF
Leigh症候群 多様(8993、核遺伝子等) 著明上昇 脳幹・基底核の壊死性病変
PDHC欠損症 PDHA1遺伝子等 正常〜低値 高乳酸血症あり、L/P比は上昇しない
ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症 PC遺伝子 正常維持 高アンモニア血症を合併しやすい


参考:主要なミトコンドリア病の病型・遺伝子変異・診断に関する網羅的情報
難病情報センター準拠:MELAS診断基準と乳酸アシドーシスの評価


乳酸ピルビン酸比を活かした臨床現場での評価フローと治療への応用

L/P比の測定値を正確に解釈するためには、測定前の条件管理から始める必要があります。先天性高乳酸血症症候群のガイドラインでは、健常児でも食前・食後でL/P比はほぼ不変であることが示されており、食事の影響は乳酸値より少ないとされています。 一方で、運動・啼泣・低酸素などの二次的要因は乳酸値を強く押し上げるため、これらを除外した状態での測定が基本です。


関連)https://jsimd.net/documents/GuidelinesInClinicalGenetics/sentenseikounyusankessyousyoukougun.pdf


前処理の徹底が条件です。


ミトコンドリア病の治療分野では、ピルビン酸ナトリウムの内服投与が注目されています。ピルビン酸ナトリウムはNADドナーとして機能し、枯渇しているNADを細胞内に補充することでミトコンドリア病による細胞死を防ぐ効果があることが示されています。 理論的には、L/P比高値=NADH過剰状態の是正手段として、NAD⁺を補充するアプローチが代謝改善に直結します。


関連)https://www.raddarj.org/registry/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%97%85%E3%81%AB%E5%90%88%E4%BD%B5%E3%81%99%E3%82%8B%E9%AB%98%E4%B9%B3%E9%85%B8%E8%A1%80%E7%97%87%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B/


実際の評価フローとして以下の手順が推奨されます。


  1. 問診・身体所見の確認:多臓器症状(心筋症・難聴・眼症状・成長障害など)を列挙し、単一疾患で説明できない場合はミトコンドリア病を念頭に置く
  2. 採血・髄液検査の実施:安静・空腹下で採血。血清乳酸・ピルビン酸・L/P比を測定。可能であれば髄液乳酸・髄液L/P比も取得する
  3. L/P比の解釈:20以上→呼吸鎖異常を優先考慮。正常値でもミトコンドリア病を完全除外しない
  4. 筋生検・遺伝子検査:mtDNA変異スクリーニング(非侵襲的)が確定診断に有用。 ragged red fiberの確認は特異度が高い

  5. 関連)https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p041-045%2036.pdf

  6. 頭部MRI・電気生理検査:Leigh症候群では基底核・脳幹のT2高信号が特徴的。MELASでは拡散強調像で血管支配域に一致しない梗塞様病変を確認する


臨床的に原因不明の高乳酸血症や、単一疾患で説明できない多臓器症状を持つ患者では、L/P比の測定とともにmtDNA変異スクリーニングを早期に検討することが診断遅延の回避につながります。


関連)https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p041-045%2036.pdf


参考:先天性高乳酸血症症候群の診断基準・検査値評価の詳細ガイドライン
日本先天代謝異常学会:先天性高乳酸血症症候群の診断ガイドライン(PDF)


参考:ミトコンドリア病の診断学・L/P比の臨床的判断基準に関する専門的解説
厚生労働科学研究:ミトコンドリア病(狭義)診断学(PDF)

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