ノルウェーの先進医療制度と健康福祉政策への医療従事者の学び

ノルウェーの革新的な医療制度は医療従事者にとって多くの示唆を与えてくれます。デジタルヘルス、ユニバーサルヘルスケア、予防医療の先進的な取り組みから、日本の医療現場に活かせる要素は何でしょうか?

ノルウェーの医療制度から学ぶ医療従事者の知見

ノルウェー医療制度の特徴
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ユニバーサルヘルスケア

税収を原資とする全国民への医療保障制度

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デジタルヘルス先進国

健康ポータル「ヘルスノルゲ」による統合的医療情報管理

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予防医療重視

サプリメント摂取文化と早期疾病予防への国家的取り組み

ノルウェーのユニバーサルヘルスケア制度の仕組み

ノルウェーの医療制度は、主に一般税収を原資とするユニバーサルヘルスケアシステムを基盤としています 。この制度では、すべての居住者が自動的かつ普遍的に医療保険の適用を受けることができ、国民一人あたりの保健支出はOECD各国において米国に次いで高い水準を保っています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%8C%BB%E7%99%82

 

医療制度は一次医療と二次医療が明確に分担されており、一次医療は主に市が、二次医療は国が所管しています 。一次医療では登録された総合診療医(GP)によるプライマリケアが提供され、GP一人あたりおおよそ1500人の市民を受け持つ仕組みとなっています 。
公立病院は国家予算を原資とする公費負担医療を提供しており、全ての市民は公立病院にて無料の医療を受けることができます 。ノルウェー保健福祉省配下の4つの地域保険機構によって運営され、北部、中部、西部、南東部の各地域に分かれて効率的な医療サービスを提供しています 。

ノルウェーのデジタルヘルス先進技術「ヘルスノルゲ」システム

ノルウェーでは、国民と医療機関間の効率的なコミュニケーションを実現する健康ポータル「Helsenorge.no(ヘルスノルゲ)」が2011年から運用されています 。このシステムは2022年時点で520万人のユーザー数を誇り、これはノルウェーの総人口の約90%に相当する驚異的な普及率を達成しています 。
参考)https://www.dlri.co.jp/files/ld/275327.pdf

 

ヘルスノルゲの特徴は、患者の医療情報の電子化と集約されたデータベース化にあります 。このシステムにより、患者は自身の健康情報に簡単にアクセスでき、医師や看護師も情報を速やかに共有して診断や治療に活用することが可能です 。
ノルウェー政府はデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に関する資金を計画的に配分し、国民すべてが医療情報電子化の利点を享受できる環境を構築しています 。この結果、ノルウェーは医療情報活用に関するDXのロールモデルとして、全世界から注目を集めています 。

ノルウェーの予防医療とサプリメント文化の先進的アプローチ

ノルウェーでは小さい頃からサプリメントを摂取することが一般的で、特にビタミンAやビタミンDを豊富に含む肝油は国民食として親しまれています 。現在では「Vitaminbjørner(くまちゃんグミ)」が一家に1ボトルは必ず置かれ、不足しがちなビタミン類をより手軽に補給する習慣が定着しています 。
参考)https://sikksakk.jp/blogs/journal/minicolumn-001

 

この背景には、ノルウェーが冬の長い期間、日中でも薄明か太陽が沈んだ状態が続く「極夜」を迎え、世界的にも日照時間が短い国であることが関係しています 。2010-2011年の調査では、15-18歳の男女の60%以上がビタミンD欠乏症の状態であることが示されており、国家レベルでの栄養対策が必要とされています 。
ノルウェーは福祉国家として医療費負担を軽減するため、国として予防医学分野へ力を入れており、様々な形で民間ヘルスケア分野への研究開発サポートを行っています 。特に骨の健康については、20歳頃までに骨量がピークを迎えることから、子どもの時期にしっかりと栄養素を摂取することで将来的な骨粗鬆症リスクを軽減する取り組みが注目されています 。

ノルウェーの遠隔医療とテレメディシンの活用状況

ノルウェーは遠隔医療分野でも先進的な取り組みを見せており、WHO欧州地域においてテレラジオロジー、遠隔医療、テレサイキアトリーが2022年に最も一般的に使用されている遠隔医療サービスとなっています 。遠隔医療による受診は2021年3月には英国やドイツ、フランス、ノルウェーなどの国々でも本格的に開始されました 。
参考)http://www.natureasia.com/ja-jp/nm/27/7/s41591-021-01447-x/%E9%81%A0%E9%9A%94%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%8C%E6%9D%A5%E3%81%9F

 

ノルウェーの遠隔医療システムは、医師不足の解消や感染症予防、病院の業務効率化といった多くのメリットを提供しています 。特に地理的に孤立した地域や移動が困難な患者に対して有効な医療手段として活用されており、ビデオ通話やチャット機能を通じて診察、処方箋の発行、治療計画の立案などが行われています 。
参考)https://md.reserva.be/dx-knowledge/telemedicine/

 

テレメディシンの導入により、予約から診察、処方、決済まで全てをオンラインで完結できるため、通院の手間を大幅に軽減し、患者にとって医療を受けやすい環境を整備しています 。

ノルウェーの医師教育制度と国際的な医療従事者受け入れ

ノルウェーの医師教育制度は、日本とは異なる特色を持っています。日本の看護師免許保持者がノルウェーで承認を受けるには、保健局(Helsedirektoratet)を通じた2段階の承認プロセスが必要です 。まず日本の看護教育がノルウェーの教育と同等かどうかの審査を申請し、この最初の審査には平均11か月を要します 。
参考)https://takamayuge.wordpress.com/2023/01/04/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%B8%AB%E5%85%8D%E8%A8%B1%E3%81%A7%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%81%A7%E5%83%8D%E3%81%8F%E3%81%AB%E3%81%AF/

 

教育が同等であると評価された場合、次の段階としてノルウェー語能力(B2レベル)、nasjonale fagのコース修了、legemiddelhåndteringのコース修了、fagprøveのコース修了といった要件を満たす必要があります 。これらのコースや試験を個人で取得する場合、2022年のデータでは総額410,500クローネ(約554,000円)の費用がかかります 。
ノルウェーで看護師として認められれば仕事はすぐに見つかり労働ビザも取得できますが、承認までの道のりは険しく、実際にはノルウェーの看護学部(3年)に入学するのが最も確実な近道とされています 。

ノルウェーの医療費制度と患者負担の実際

ノルウェーの医療費は完全無料ではなく、年間の医療自己負担金額が設定されています 。2020年の年間医療費自己負担金額は2,460ノルウェークローネ(約31,980円)で、この上限を超える分については無料となります 。
参考)https://sekai-ju.com/life/nor/life/norway-medical/

 

日常的な診察では、かかりつけ医(ファストレーゲ)にかかる度に150-250クローネ(約1,950円-3,250円)が診察代として必要で、薬代は別途追加でかかります 。病院での入院や手術、高額な検査や薬が必要な場合には、超過分の医療費は国が負担するという安心感があります 。
ただし、歯科治療はこの制度に含まれないため完全自己負担となり、そのためノルウェー人はデンタルケアに特に力を入れる傾向があります 。国民保険制度を通じて無料の医療サービスが提供されているため、すべての市民が経済的な負担なく必要な医療を受けることができる仕組みが確立されています 。
参考)https://teamwada.net/blog/area02/9510/