日本脳炎ワクチンの標準的な接種スケジュールは、厚生労働省によって明確に定められています。現在の標準接種スケジュールでは、以下のように設定されています。
第1期(3回接種)
第2期(1回接種)
このスケジュールに従って接種することで、日本脳炎に対する十分な免疫を獲得することができます。第1期の3回と第2期の1回、合計4回の接種が標準的な接種回数となっています。
日本脳炎ワクチンは定期接種に位置づけられており、公費での接種が可能です。自治体から送られてくる案内に従って、適切な時期に接種を受けることが推奨されています。
接種量についても年齢によって異なり、3歳未満では0.25mL、3歳以上では0.5mLとなっているため、医療機関でも年齢に応じた適切な量が接種されるよう管理されています。
実は、日本脳炎ワクチンは標準接種年齢の3歳を待たずとも、生後6ヶ月から接種が可能です。この事実はあまり広く知られていませんが、定期接種の制度上は生後6ヶ月から90ヶ月(7歳6ヶ月)までの間であれば、いつでも第1期の接種を開始することができます。
早期接種が特に推奨されるケースとしては、以下のような状況が挙げられます。
日本小児科学会も、これらのリスクが高い乳幼児に対しては、生後6ヶ月からの接種開始を推奨しています。
実際に、過去には生後11ヶ月の乳児が日本脳炎を発症した例が千葉県で報告されており(2015年)、また1歳児の発症例も沖縄県(2011年)や高知県(2009年)で報告されています。このような若年層での発症例からも、リスク地域では早期接種の検討が勧められています。
早期接種(3歳未満)の場合の接種スケジュールと用量は以下の通りです。
早期接種スケジュール(リスクの高い乳幼児向け)
なお、1期接種(初回と追加)をすべて0.25mLで済ませた場合でも、免疫原性に問題がないことが確認されているため、特別な追加接種は不要とされています。
日本脳炎ワクチンの接種時期を検討する際、お住まいの地域や渡航予定地域のリスク評価が重要です。日本国内でも、日本脳炎ウイルスの活動は地域によって差があります。
日本脳炎ウイルス活動の指標:ブタの抗体保有率
日本脳炎ウイルスは豚などの動物の体内で増殖し、そこから蚊を介して人に感染します。そのため、ブタの日本脳炎抗体保有率は、その地域でのウイルス活動の重要な指標となっています。
2022年の調査では、17県で感染した豚が認められ、そのうち抗体保有率が80%以上(ハイリスク)だった地域は以下の11県でした。
これらの地域に居住している、または渡航予定がある乳幼児は、標準接種年齢(3歳)を待たずに生後6ヶ月からの接種開始を検討するべきでしょう。
また、過去に日本脳炎患者が発生した地域も注意が必要です。近年の小児の日本脳炎発症例
これらの地域も早期接種を検討する指標となります。
国際的な視点:海外渡航時の注意
アジア地域、特に東南アジア・南アジアの多くの国々は日本脳炎の流行地域とされています。こうした地域への渡航を予定している場合、出発前に日本脳炎ワクチンの接種状況を確認し、必要に応じて早期接種を検討することが推奨されます。
日本脳炎の予防にはワクチン接種が最も効果的な手段ですが、蚊の対策など総合的な予防方法も重要です。
ワクチン接種による予防
日本脳炎ワクチンの接種により、日本脳炎の罹患リスクを75~95%減らすことができると報告されています。このように非常に高い予防効果があるため、定期接種スケジュールに従った接種が推奨されています。
ワクチン接種後の注意点
ワクチン接種後は以下の点に注意することが大切です。
蚊の対策による予防
日本脳炎ウイルスを媒介するのは主にコガタアカイエカという蚊です。この蚊は主に夏季に活発になり、夕方から夜間に活動します。以下の対策が効果的です。
これらの対策は特に、まだワクチン接種が完了していない乳幼児や、何らかの理由でワクチン接種ができない方に重要です。
ワクチン接種が受けられない場合
以下の場合は日本脳炎ワクチンの接種を受けることができないため、医師に相談が必要です。
日本脳炎ワクチンの歴史は日本の予防接種政策の変遷を反映しており、現在使用されているワクチンに至るまでにはいくつかの重要な変化がありました。
マウス脳由来ワクチンから細胞培養ワクチンへ
かつて日本では、マウス脳由来の日本脳炎ワクチンが使用されていましたが、2005年に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関連性が指摘され、積極的な接種推奨が差し控えられることになりました。
ADEMは、ワクチン接種後にまれに発症する可能性がある脳神経系の疾患で、後遺症が残ることもある深刻な症状です。この安全性への懸念から、新しいワクチンの開発が急務となりました。
2009年、より安全性の高い「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」が開発・承認され、接種推奨が再開されました。現在使用されているワクチンは以下の2種類です。
これらのワクチンは、日本脳炎ウイルスをVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で増殖させ、ホルマリンで不活化して製造されています。この製法変更により、マウス脳由来ワクチン使用時に懸念されていた安全性の問題は大幅に改善されました。
接種推奨の差し控え期間と救済措置
積極的な接種推奨が差し控えられていた2005年から2009年の間に、多くの子どもたちが予定通りのワクチン接種を受けられませんでした。このため、接種機会を逃した世代に対して、以下の救済措置が設けられています。
これらの特例措置についての詳細は、各自治体の保健センターやホームページで確認することができます。
世界的な取り組みと日本の貢献
日本で開発された日本脳炎ワクチンは、アジア各国でも広く使用されています。日本の研究者らによるワクチン開発と改良の取り組みは、国際的にも高く評価されています。
特に、細胞培養技術を用いた新しいワクチン製造法の確立は、より安全で効果的なワクチン供給を可能にし、世界の日本脳炎対策に大きく貢献しています。
国立感染症研究所の日本脳炎情報サイトでは最新の疫学情報が公開されています
日本脳炎ワクチンの副反応については、接種を検討する保護者にとって重要な情報です。現在使用されている乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンは、過去のマウス脳由来ワクチンと比較して安全性が向上しています。
一般的な副反応
日本脳炎ワクチン接種後に見られる主な副反応には以下のようなものがあります。
これらの症状のほとんどは軽度で、数日以内に自然に消失します。
稀な重篤な副反応
極めてまれに(0.001%未満)、以下のような重篤な副反応が報告されています。
これらの重篤な副反応は非常に稀ですが、接種後の経過観察は重要です。
事前に医師に相談すべきケース
以下のような場合は、接種前に医師への相談が推奨されています。
安全性向上の取り組み
現在の日本脳炎ワクチンは、製造工程や品質管理の改善により、安全性が大幅に向上しています。特に以前のマウス脳由来ワクチンで懸念されていたADEMのリスクは、現在の細胞培養ワクチンでは大きく低減されています。
また、接種後の副反応モニタリングシステムが強化され、万が一の健康被害に対しては「予防接種健康被害救済制度」が整備されています。この制度により、予防接種によって健康被害が生じた場合には、医療費や障害年金などの給付を受けることが可能です。
日本脳炎の発症リスクと予防接種による副反応リスクを比較すると、特に日本脳炎ウイルス活動が高い地域では、ワクチン接種のメリットが大きいと考えられています。ただし、個々の健康状態を考慮した上で、かかりつけ医と相談しながら接種を検討することが重要です。
日本脳炎ワクチンには、通常の接種スケジュールとは別に、特定の世代を対象とした特例措置が設けられています。これは、2005年から2009年にかけてのワクチン接種推奨の差し控え期間に、接種機会を逃した方々を救済するための制度です。
特例対象者
特例措置の対象となるのは、以下の方々です。
これらの方々は、通常の接種対象年齢を過ぎていても、定期接種として公費で日本脳炎ワクチンを接種することができます。
特例措置の背景
2005年に、それまで使用されていたマウス脳由来の日本脳炎ワクチンがADEM(急性散在性脳脊髄炎)を引き起こす可能性が指摘され、積極的な接種推奨が差し控えられました。その後、2009年に新しい細胞培養日本脳炎ワクチンが承認され、2010年から勧奨接種が再開されました。
この推奨差し控え期間中に、多くの子どもたちが予定通りのワクチン接種を受けられなかったため、接種率の低下が問題となりました。特例措置は、この「ワクチンギャップ世代」を保護するために設けられた制度です。
特例措置の利用方法
特例措置を利用するには、以下の手順を踏むことが一般的です。