クラシエ漢方の市販薬(OTC)には、医療用と同量の満量処方があります。
「クラシエといえば病院で使う漢方薬」というイメージを持つ医療従事者は少なくありません。しかし実際のデータを見ると、少し異なる構造が見えてきます。
国内の医療用漢方薬市場でツムラは約83%のシェアを占め、厚生労働省が認可している148処方のうち129処方を製造しています。これに対してクラシエ薬品が医療用で製造・販売しているのは約60処方にとどまります。数でいえばツムラの半分以下です。
これだけ聞くと「クラシエは小さなメーカー」に聞こえるかもしれません。ところが、立場が逆転する領域があります。
一般用漢方製剤(OTC医薬品)の分野では、クラシエが国内シェア第1位。ドラッグストアや薬局で購入できる一般用漢方薬において、クラシエは70処方以上をカバーしており、ツムラの50処方以上を上回っています。つまり医療用はツムラが強く、OTC(市販)はクラシエが強いという、分野ごとにまったく異なる力学が働いているわけです。
これは実務上、見落とせない視点です。外来患者が「自分でクラシエの漢方を買って飲んでいる」と言った場合、それが市販品であっても決して「効果が弱い代替品」とは言い切れません。クラシエのOTC製品の一部には、医療用と同等の成分量(最大配合量)で作られた「満量処方」の製品が存在するからです。
「市販薬は医療用より効かない」が基本です。ただし満量処方ならその差はかなり縮まります。
患者が自己判断でクラシエのOTC漢方を服用中の場合、成分量や構成生薬の確認を怠ると、医療用との重複投与・成分過多という思わぬリスクにつながります。
クラシエ薬品の医療用漢方製剤については、医療関係者向け専門サイト「漢・方・優・美」で製品情報・勉強会情報・文献情報などを確認することができます。
「1番の漢方薬といえば葛根湯」。そう思い込んでいる医療従事者が現場では多いでしょう。葛根湯の「1番」はツムラの番号です。大前提として、医療用漢方製剤の番号はメーカーごとに異なります。
ツムラの番号は研究者の実験ノートの記載順が由来で、葛根湯は1番が割り当てられています。クラシエはツムラとおおむね共通の番号体系を持っていますが、一部は異なります。さらに別メーカーである東洋薬行では、葛根湯が13番に分類されており、1番は安中散料が当てられています。
番号の問題だけでなく、クラシエの医療用漢方には細粒と錠剤の2つの剤型があるという点も注意が必要です。ツムラが顆粒剤のみなのに対し、クラシエは細粒剤(粒が細かい粉末)と錠剤を製造しています。同じ処方名・同じメーカーでも剤型が違えば生薬の1回服用量・体への吸収感も異なります。
実際、薬局ヒヤリ・ハット事例の収集・分析事業(公益財団法人日本医療機能評価機構)には、漢方製剤に関する取り違え事例が多数収載されており、名称類似・番号類似の漢方薬の調剤ミスが繰り返し報告されています。
取り間違いのリスクが特に高いのは、名称が似た漢方薬の存在です。「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」と「苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)」などは名前が極めて類似しており、薬名・番号どちらを見ても混乱しやすいケースです。クラシエ製品に限らず漢方全体の問題ですが、クラシエの場合は「処方番号ではなく製品名で処方される」ケースも多く、名称確認の徹底が求められます。
調剤時のルールとして「処方番号と薬品名の両方を照合する」が原則です。
また、クラシエの処方名には末尾に「エキス細粒」または「エキス錠」がつきます。同じ処方でも錠剤と細粒では1日の服用タイミングが異なる場合があります(細粒には1日2回製品と1日3回製品が混在)。服薬指導の際は、必ず剤型と服用回数をセットで伝えることが安全管理の基本です。
薬局ヒヤリ・ハット事例(漢方製剤の調剤取り違え事例詳細)については下記の公式資料も参考になります。
薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 漢方製剤に関する事例(公益財団法人日本医療機能評価機構)
「同じ名前の漢方薬なら、ツムラとクラシエで同じ薬」と考えている医師・薬剤師は、現場では相当数います。これは半分正解で、半分は誤りです。
構成生薬の種類そのものが異なる処方が複数存在します。代表的なのが当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。
ツムラの当帰芍薬散には「ソウジュツ(蒼朮)」が使われているのに対し、クラシエの当帰芍薬散には「ビャクジュツ(白朮)」が配合されています。どちらも水分代謝の改善・胃腸機能の調整を担う生薬ですが、薬理作用に微妙な差があります。ソウジュツは「体表部の水分除去」に強く、ビャクジュツは「胃腸機能の改善」に向いているとされており、同じ生薬名カテゴリでも患者の体質・主訴によっては効き方が変わりえます。
同様に六君子湯(りっくんしとう)でも同じ差が生じています。ツムラはソウジュツ使用、クラシエはビャクジュツ使用です。
また、葛根湯では生薬のカッコン(葛根)の配合量がクラシエ細粒では8.0g(ツムラの顆粒は4.0g)と2倍になっており、製品形態によって配合量が大きく異なります。これはどちらが正しいというわけではなく、それぞれ承認された製法に基づいています。ただし、同じ「葛根湯を処方した」という認識のまま患者がメーカーを変更した場合、実質的な生薬摂取量が変動します。
つまり「メーカーの変更=単純な代替」ではないということですね。
特に月経困難・不妊・更年期など婦人科系疾患で当帰芍薬散を長期処方している場合、メーカーが変わった際に効果の変動を患者がなんとなく感じることがあります。患者から「薬を変えてから少し違う気がする」と言われたときは、メーカー変更がないかを確認することが的確な対応につながります。
ツムラとクラシエの生薬配合量・構成生薬の比較(医師監修)は下記記事が参考になります。
【医師監修】漢方薬ツムラとクラシエの違いは?メーカー別に効果や成分を解説(oitr.jp)
漢方薬には副作用がないと思っている患者は多く、医療従事者でもその認識が残っている場合があります。これは大きな誤解です。
クラシエ薬品の医療用漢方製剤を含め、多くの漢方処方には甘草(カンゾウ)が含まれています。甘草には炎症を抑えたり、諸生薬の調和を図ったりする役割があり、葛根湯・芍薬甘草湯・六君子湯など、頻繁に処方される漢方の多くに含まれています。問題は「複数の漢方薬を同時に服用した場合」に起きます。
一般に、甘草の1日量が2.5gを超えると偽アルドステロン症(グリチルリチン酸の作用によって引き起こされるミネラルコルチコイド過剰症状)の発症リスクが高まるとされています。たとえば芍薬甘草湯を医療用で服用する際の甘草の1日量は2.0gです。そこに葛根湯(甘草2.0g含有)を追加処方すると、甘草の1日合計量は4.0g、つまりリスク閾値の2.5gを大きく超えます。
🔺 偽アルドステロン症の主な初期症状。
- 手足のだるさ・力が入りにくい感じ
- 血圧の急上昇
- 浮腫(特に下肢)・体重増加
- 低カリウム血症(倦怠感・筋力低下)
これは見落とされやすいですね。
漢方薬を複数種類服用しているのに、それぞれが別々の診療科から処方されていて総合的な甘草量を誰も把握していないというケースは決してまれではありません。とりわけ高齢者・低体重の患者では、より少ない量でも偽アルドステロン症が発症しやすく注意が必要です。
服薬確認の際には「漢方は何種類飲んでいますか」と必ず聞くことが条件です。クラシエ製品の添付文書にも「他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること」と明記されており、これは重要な法的・臨床的根拠となります。
また、クラシエの漢方製剤の中には、小柴胡湯など間質性肺炎の発症が報告されているものもあります。初期症状は空咳・微熱・息切れと風邪症状に近いため、漢方服用中の患者でこれらの症状が出た場合には早急に服薬を中止し、胸部X線・CT等の確認が必要です。
甘草の重複・偽アルドステロン症についての公式情報は厚生労働省の資料で確認できます。
近年、医薬品の安定供給が揺らいでいる状況は、漢方薬の領域でも深刻です。クラシエ薬品は2022年11月、葛根湯エキス細粒・半夏厚朴湯エキス細粒を含む医療用漢方製剤23品目を限定出荷することを公表しました。防風通聖散については2023年1月より出荷停止が続き、2024年5月下旬から限定出荷で再開されるまでの期間、多くの医療機関で処方が困難になりました。
出荷調整や出荷停止の状況は、DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)でリアルタイムに確認できます。医療機関・薬局では定期的に確認する習慣が重要です。
出荷調整が起きたとき、実務上問題になるのは「代替薬をどう選ぶか」です。ここで知っておくべき重要なポイントがあります。
✅ クラシエ製品が出荷調整・停止中の場合の対応フロー。
| ステップ | 確認・対応内容 |
|---|---|
| ①DSJPを確認 | 出荷状況・再開見通しをリアルタイムで確認 |
| ②ツムラ・コタロー製品の確認 | 同じ処方名でも生薬構成の違いを把握してから切替 |
| ③生薬構成の差を患者に説明 | 例:当帰芍薬散のソウジュツ/ビャクジュツの違い |
| ④OTC製品の満量処方確認 | 同処方の市販満量処方品があれば患者に情報提供 |
| ⑤甘草量の再計算 | 代替薬への切替時に甘草1日量が2.5gを超えないか確認 |
出荷停止≠治療の中断、が基本です。
特にOTC(市販品)の満量処方を活用するという発想は、医療従事者の間ではまだ一般的ではありません。クラシエの一般用漢方には、医療用と同成分量の「満量処方」品が存在します。たとえば「葛根湯エキス顆粒Aクラシエ」は、医療用のクラシエ葛根湯エキス細粒と同量(成人1日量で葛根湯エキス5200mg)が配合されています(日経DI調べ)。
ただし、OTCは保険適用外であるため、患者の経済的負担について事前の説明が必要です。また「保険が使えないなら自分で買う」という選択肢を患者が知らないケースも多く、選択肢の提示は服薬継続率の向上にもつながります。
医薬品供給状況のリアルタイム確認はこちらから行えます。
西洋医学の薬と漢方薬のもっとも大きな違いの一つは、「証(しょう)」という概念の存在です。しかしクラシエ薬品の医療用漢方製剤において「証」の概念は添付文書にどのように反映されているのか、正確に把握している医療従事者は実は多くありません。
医療用漢方薬は厚生労働省の承認を受けており、その効能・効果は西洋医学的な「病名」または「症状」の形で記載されています。つまり保険請求のためには「保険病名」が必要であり、漢方医学的な「虚証・実証・中間証」といった概念は、添付文書の効能欄には直接的には記載されていません。
これが何を意味するかというと、「処方は保険病名ベース、選薬は証ベース」という二重構造があるということです。
たとえばクラシエ薬品の「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」の添付文書には「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症」として肥満症・高血圧・便秘などが列挙されています。これは「実証(体力のある人)向け」の方剤ですが、添付文書では「実証」とは書いていません。
体力が弱い「虚証」の患者に防風通聖散を処方した場合、著しい下痢・倦怠感などの副作用が出ることがあります。処方医が漢方の証を意識せず「肥満があるから」と安易に処方した場合に起こりうる副作用です。薬剤師が処方監査・服薬指導で補完的に確認する視点が特に求められます。
患者への服薬指導では、以下のポイントを確認するだけで副作用の早期発見につながります。
📋 クラシエ漢方の服薬指導チェックリスト(医療従事者用)。
- ✔️ 他の漢方薬(OTCを含む)を飲んでいないか(甘草の重複確認)
- ✔️ 服用後の体調変化(浮腫・血圧上昇・筋力低下)の有無
- ✔️ 体力・体質(実証/虚証)と処方の方向性が一致しているか
- ✔️ 剤型(細粒/錠剤)と服用回数・タイミングの理解
- ✔️ 改善が見られない場合の「続ける期間の目安」の伝達
「〇〇に効く漢方」という単純な説明は、時に患者の誤解を招きます。「この薬はあなたの今の体の状態に合わせて選んでいる」という説明の仕方が、患者の服薬継続率と満足度を高める実践的なアプローチです。これは使えそうです。
クラシエ薬品は医療関係者向けに漢方に関する教育コンテンツを提供しており、証の概念や処方の実践知識を学ぶリソースとして活用することができます。
漢・方・優・美 クラシエ薬品 医療関係者向けサイト(処方事例・勉強会情報あり)