コレラ 症状と治療方法:急性感染症の診断と輸液対応

コレラの症状と治療方法について医療従事者向けに詳細に解説。水様性下痢や脱水症状の対処法から最新の治療アプローチまで、臨床現場で役立つ知識を網羅。あなたの診療に必要な知識は十分ですか?

コレラの症状と治療方法

コレラ 症状と治療方法:急性感染症の診断と輸液対応
🔬
急性感染症

コレラは毒素産生性コレラ菌による急性細菌性腸感染症

💧
特徴的症状

米のとぎ汁様の水様性下痢と急激な脱水症状

💉
治療の中心

迅速な輸液療法による水分・電解質の補給

コレラ感染症の病態と特徴的症状

コレラは毒素産生性のコレラ菌(Vibrio cholerae O1およびO139)によって引き起こされる急性細菌性腸感染症です。日本では感染症法で3類感染症に分類されており、コレラ菌に汚染された水や食物の経口摂取により感染します。

 

コレラの潜伏期間は数時間から5日間で、感染後に無症状期間を経て症状が出現します。重要な点として、大半の感染者では症状がまったく現れないことが多いですが、症状が発現する場合の特徴は以下の通りです。

  • 水様性下痢:最も特徴的な症状で、「コメのとぎ汁様の水様性便」が特徴です。重症例では1日10リットルから数十リットルもの大量の下痢が排出されることがあります。
  • 嘔吐:下痢と同時に嘔吐が起こることが多く、これによりさらに脱水症状が進行します。
  • 脱水症状:急速に進行する脱水により、以下の症状が現れます。
  • 強いのどの渇き
  • 強い痛みを伴う筋肉のけいれん
  • 筋力低下
  • 眼球の陥凹
  • 皮膚弾力性の消失(指の皮膚がシワシワになる)
  • 乏尿または無尿

特筆すべき点として、コレラでは通常、発熱はみられません。また、重症例では「コレラ顔貌」と呼ばれる特徴的な顔貌や、「洗濯婦の手(washwoman's hand)」、「スキン・テンティング(skin tenting)」といった特徴的な所見が認められます。

 

脱水症状を放置すると、水分と塩分の喪失によって腎不全やショック状態、昏睡が生じ、死に至ることもあります。しかし、適切な治療を受けた患者では、症状は通常3~6日で治まります。

 

コレラの診断方法と初期対応

コレラの確定診断には、患者便からコレラ毒素を産生するO1またはO139血清型のコレラ菌を検出することが必要です。診断の流れと初期対応について詳細に説明します。

 

検査による診断:

  • 便検査:新鮮な下痢便を検査材料とし、コレラ菌の分離・同定を行います。
  • 毒素検出:コレラ毒素の検出方法として、以下の手法があります。
  • 逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)
  • ELISA法
  • DNAプローブ法
  • PCR法(コレラ毒素遺伝子の検出)

臨床診断:
コレラの典型的な臨床像は、突然始まる無痛性の水様性下痢と嘔吐です。特に「米のとぎ汁様」と表現される特徴的な白色ないし灰白色の水様便が認められる場合は、コレラを強く疑います。

 

初期対応の重要ポイント:

  1. 脱水の評価:成人で感染症が重症の場合、下痢によって1時間に1リットル以上の水分と塩分が失われます。脱水の程度を以下の臨床所見から評価します。
    • 皮膚のツルゴール
    • 眼球の陥凹状態
    • 血圧・心拍数
    • 意識レベル
  2. 隔離と感染対策:コレラは感染力が強いため、標準予防策に加えて接触予防策を実施します。患者の排泄物は適切に処理する必要があります。
  3. 検体採取と届出:日本では感染症法に基づき、コレラは診断後直ちに保健所への届出が義務付けられています。
  4. 迅速な治療開始:診断確定を待たずに、臨床所見から強く疑われる場合は速やかに治療を開始します。治療の遅れは致命的となる可能性があります。

初期対応の原則は「失われた水分と塩分を速やかに補う」ことで、これが命を救うことにつながります。治療開始のタイミングが予後を左右する重要な因子となります。

 

コレラ治療の核となる輸液療法

コレラ治療の最も重要な柱は、失われた水分と電解質の迅速な補充です。患者の脱水状態の重症度に応じて、経口補水療法または静脈内輸液療法、あるいはその併用が選択されます。

 

1. 経口補水療法(ORT):
軽度から中等度の脱水症例では、経口補水液(Oral Rehydration Solution: ORS)が第一選択となります。WHOが推奨するORSの組成は以下の通りです。

  • 塩化ナトリウム: 3.5g
  • 塩化カリウム: 1.5g
  • グルコース: 20g
  • 重炭酸ナトリウム: 2.5g

    これらを1リットルの水に溶かして使用します。

     

経口補水療法の利点は、特に開発途上国の現場では以下の点が挙げられます。

  • 滅菌が不要
  • 大量に運搬可能
  • 安価
  • 治療効果が良好

2. 静脈内輸液療法:
以下の場合には静脈内輸液が必要です。

  • 重度の脱水
  • 口から水分を摂取できない患者
  • 嘔吐が止まらない場合
  • 大量の下痢がある場合

静脈内輸液の選択肢

  • リンゲル乳酸液(第一選択)
  • 生理食塩水(0.9% NaCl)

輸液管理のポイント:
重度の脱水状態にある患者に対する輸液スケジュールは、迅速な初期補充と継続的な維持補充が重要です。一般的なアプローチとして。

  1. 初期輸液(急速補充):最初の数時間で失われた体液量を補充
  2. 維持輸液:継続する下痢や嘔吐による喪失分を補充

患者の状態を頻回に評価し、輸液速度を調整することが重要です。評価ポイントには以下が含まれます。

  • 皮膚のツルゴール
  • 眼球の陥凹状態
  • 脈拍
  • 血圧
  • 尿量

3. 電解質異常の管理:
コレラでは特に低カリウム血症が問題となり、筋力低下や不整脈などの症状を引き起こ