妊娠中の75gOGTTは「全員に空腹時絶食が必要」と思っていませんか?スクリーニングの種類によって前処置が異なり、知らないと患者説明でトラブルになります。
妊娠中のグルコース負荷試験は、時期と対象によって使用する検査が異なります。まず押さえておきたいのは、「スクリーニング」と「確定診断」の2段階構造です。
妊娠初期(〜妊娠13週)には随時血糖値を測定し、カットオフ値95〜100 mg/dLを超えた場合に75gOGTTへ進みます。 妊娠中期(24〜28週)には全妊婦を対象に50gグルコースチャレンジテスト(GCT)または随時血糖測定を行い、50gGCTで140mg/dL以上が陽性となります。tglc+2
重要なのは、GDMハイリスク妊婦であっても、スクリーニングを省略して直接75gOGTTを行うことは2011年以降の産婦人科診療ガイドラインで削除されている点です。 高血糖を招くリスクがあるため、ハイリスクであってもスクリーニングから進める必要があります。これは原則です。
参考)耐糖能検査
ハイリスクの目安としては、以下のような患者が該当します。
これらに当てはまる場合でも、50gGCTや随時血糖から始める手順が基本です。
参考)妊娠糖尿病と診断される数値はどのくらい?検査をおこなうタイミ…
75gOGTTの診断基準は、非妊娠時の糖尿病診断基準とは別物です。意外ですね。
妊娠糖尿病(GDM)の診断に用いる基準値は次のとおりです。ubie+1
| 測定タイミング | 診断閾値 |
|---|---|
| 空腹時血糖値 | 92 mg/dL以上 |
| 負荷1時間後血糖値 | 180 mg/dL以上 |
| 負荷2時間後血糖値 | 153 mg/dL以上 |
一方、随時血糖値≧200 mg/dLまたは75gOGTTで2時間値≧200 mg/dLの場合は、GDMではなく「妊娠中の明らかな糖尿病」を念頭に置く必要があります。 この場合はさらに空腹時血糖値≧126 mg/dLまたはHbA1c≧6.5%の確認が必要です。
つまり「GDM」と「妊娠中の明らかな糖尿病」は別カテゴリです。臨床現場では見落としやすいポイントです。
妊娠中の基準値は非妊娠時より低く設定されていることも注意が必要です。例えば空腹時92 mg/dLは非妊娠者では正常値ですが、妊娠中はGDMと診断されます。 これを患者に説明しないまま検査結果を伝えると、「なぜ正常値なのに糖尿病なんですか?」という混乱が生じます。説明の準備が必須です。
参考)https://dmic.jihs.go.jp/content/080_030_13.pdf
参考:日本糖尿病学会ガイドライン(妊婦の糖代謝異常)
日本糖尿病学会 診療ガイドライン2024 第17章 妊婦の糖代謝異常(PDF)
検査前の絶食が不要と思い込んでいる医療スタッフは少なくありません。これは危険な思い込みです。
50gGCT(スクリーニング)は食事時間に関係なく実施できます。 しかし確定診断に用いる75gOGTTでは、10〜14時間の前日絶食が必須です。この違いを説明せずに検査案内を渡すと、絶食なしで75gOGTTを受けた患者の結果が偽高値になり、不必要な管理介入につながります。
患者への事前説明で伝えるべき主要ポイントは以下のとおりです。
「検査前に3日間は極端な糖質制限をしない」という点は特に重要です。 糖質を急減すると耐糖能が一時的に低下し、本来なら正常な妊婦でも陽性が出るケースがあります。患者が自己判断でダイエットしている場合も想定して、必ず確認する習慣が必要です。
参考)妊娠糖尿病にひっかからないために気を付けるべき生活習慣 |【…
検査中に気分不良を訴える妊婦への対応も準備しておく必要があります。75gのブドウ糖液(甘さが強い)を短時間で飲む負担から、悪心・嘔吐が起こることがあります。 嘔吐した場合は検査を中断し、日程を組み直す対応が一般的です。
参考)糖負荷試験とは?検査の流れから注意点まで糖尿病専門医が詳しく…
スクリーニングが「陰性」でも妊娠糖尿病を見逃すことがあります。これは知っておかないと損します。
50gGCTのカットオフ値140 mg/dLを採用した場合、感度は約70〜80%とされており、約20〜30%のGDM症例がスクリーニングをすり抜けます。 感度と特異度のトレードオフであり、すべての検査に限界があるという認識が重要です。kango-roo+1
そのため、スクリーニング陰性であっても以下の場合は追加検討が必要です。
これらの所見がある場合、スクリーニング陰性であっても担当医と協議のうえ75gOGTTを追加実施することがあります。 つまり、1回の陰性で「問題なし」と判断するのは危険なケースがあります。ymc-kachidoki+1
また、妊娠後半期ほどインスリン抵抗性が増大するため、妊娠初期に正常だった妊婦が妊娠後期に血糖値が上昇するケースも珍しくありません。 24〜28週のスクリーニングが最重要とされているのはこのためです。見逃しリスクを下げるためには検査タイミングの理解が鍵です。
参考:妊娠糖尿病の診断基準と管理(国立成育医療研究センター)
国立成育医療研究センター:妊娠糖尿病といわれた方は(PDF)
妊娠糖尿病と診断された後の管理は、母児双方にとって大きな分岐点です。結論は「分娩後も管理を継続することが必須」です。
胎児への影響として代表的なものは巨大児(4000g超)・新生児低血糖・肩甲難産・特発性呼吸促迫症候群などがあります。 特に巨大児は分娩時の鎖骨骨折や上腕神経麻痺のリスクを伴い、管理の遅れが直接的な有害事象に直結します。適切な血糖コントロールが前提となります。fuelcells+1
治療の第一選択は食事療法と運動療法です。目標血糖値は空腹時95 mg/dL未満・食後2時間値120 mg/dL未満が一般的な目安とされています。これで管理できない場合にインスリン療法を検討します。
参考)妊娠糖尿病・妊婦糖尿病(GDM Gestational di…
産後フォローについて、特に強調したいのが分娩後1〜3ヶ月での75gOGTT再検です。 GDM既往女性は将来の2型糖尿病リスクが正常妊婦の7〜10倍とも報告されており、産後の検査を怠ると2型糖尿病への移行を見逃します。痛いですね。
参考)https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/jyosei/naika/josei-leaf13.pdf
産後フォローとして医療従事者が押さえるべきポイントは以下のとおりです。
患者が「出産で治った」と思い込むケースは非常に多いです。 産後の外来受診率が低い現実に対し、退院前から産後75gOGTTの重要性を繰り返し伝えることが医療従事者としての重要な役割です。
参考:日本内分泌学会 妊娠糖尿病の解説(一般向け)
日本内分泌学会:妊娠糖尿病について(患者向け解説)