エルネオパNF1号を「高カロリー輸液だから十分」と思って使うと、1日1120kcalしか摂れず患者が栄養不足になります。

エルネオパNF1号輸液(以下、1号)は大塚製薬工場が製造する高カロリー輸液製剤です。正式には「高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素液」であり、TPNキット製剤の中でも最多室数となる4室バッグ構造を採用しています。
カロリー面では、1000mLあたりブドウ糖120g(糖濃度12%)・アミノ酸20g・総カロリー560kcal(うち非蛋白熱量480kcal)という組成です。これは同シリーズの2号と比較して糖濃度が低め(2号は17.5%)に設定されています。つまり1号は「控えめなカロリー設計」と覚えておいてください。
4室バッグの内訳を整理すると次のとおりです。
| 室 | 主な内容 |
|---|---|
| 上室液 | 糖・電解質・ビタミン(B1, B6等)・微量元素(一部) |
| 小室V液 | ビタミン液(リボフラビン、アスコルビン酸、ビタミンAなど) |
| 小室T液 | 微量元素液(鉄、マンガン、亜鉛、銅) |
| 下室液 | アミノ酸・電解質・ビタミン(葉酸、ニコチン酸アミドなど) |
混合後の組成(2000mL製剤)では、ブドウ糖240g、総遊離アミノ酸量40g、総熱量1120kcal、NPC/N比153となっています。微量元素として鉄(20μmol)、マンガン(1μmol)、亜鉛(60μmol)、銅(1μmol)、ヨウ素(1μmol)が1日量分含まれている点が他の3室製剤との大きな差別化点です。
ビタミン組成はFDA2000処方に準拠しており、従来製品(エルネオパ、AMA1975処方)よりもビタミンB1(3mg→6mg/日)・B6・C・葉酸が増量、ビタミンK(2000μg→150μg/日)が大幅に減量されました。ビタミンKの大幅減量が原則です。ワルファリン使用中の患者を管理する際にはこの点が重要です。
参考文書:エルネオパNF輸液 添付文書(2024年9月改訂第2版、大塚製薬工場)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066385.pdf
1号と2号の使い分けは、耐糖能の確認状況と患者の病態によって決まります。この判断を誤ると、適切なカロリー投与が行えないリスクがあります。
| 項目 | エルネオパNF1号 | エルネオパNF2号 |
|---|---|---|
| 糖濃度 | 12% | 17.5% |
| ブドウ糖量(1000mL) | 120g | 175g |
| アミノ酸量(1000mL) | 20g | 30g |
| 総カロリー(1000mL) | 560kcal | 820kcal |
| 総カロリー(2000mL/日) | 1120kcal | 1640kcal |
| 主な使用場面 | TPN開始時・侵襲期・耐糖能低下時 | 安定期・通常必要量の維持 |
1号の主な適応は「TPN開始時で耐糖能が不明な場合、または病態により耐糖能が低下している場合」です。糖濃度が低い分だけ血糖コントロールがしやすく、侵襲期の患者に対して開始液として選ばれます。一方、安定期で通常必要カロリー量の患者には2号が維持液として使われます。
ここで注意が必要なのが、1号を長期的にそのまま継続するケースです。成人の1日必要エネルギーは体重×25〜30kcal程度(体重60kgなら1500〜1800kcal)とされる一方、1号2000mLで得られる熱量は1120kcalにとどまります。不足分は1号の継続では補えない、というのが原則です。耐糖能が安定してきたら、速やかに2号への切り替えを検討することが栄養管理の基本です。
切り替えの判断基準としては血糖値のモニタリングが中心になります。添付文書では「高血糖、尿糖があらわれるおそれがあるので、ブドウ糖濃度の低い製剤から投与を開始し、徐々に高める」と明記されています。血糖管理の目安は100〜200mg/dLです。インスリンを適宜使用しながら管理するケースも多くあります。
また、侵襲期にはブドウ糖投与速度の上限が4mg/kg/minとされており、体重40kgの患者では1日230.4gが限界値です。1号であっても2000mLで240gになるため、体重40kgの侵襲期患者には2000mL投与ですでに上限を超えることがあります。これは見落とされやすいポイントです。
参考:TPN基本液とキット製剤の種類と特徴(NPO法人PDN)
https://www.peg.or.jp/lecture/parenteral_nutrition/02-08.html
4室バッグ製剤最大のリスクが「隔壁未開通のまま投与してしまう」事故です。驚くべき事実があります。
2020年〜2023年7月の約3年半で、バッグ型キット製剤の隔壁未開通による投与事例が全国で26件報告されています。つまりおよそ6〜7週ごとに1件のペースで発生しているというのが実態です。
実際の事例として、ICU入室中の70代女性患者に使用されたエルネオパNF1号液1000mLが、上室・下室の隔壁未開通かつ小室も未開封のまま投与されていたことが判明しています(公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業 報告事例ID:AAC8FF9066D3BDED2)。幸い電解質異常は認められませんでしたが、アミノ酸・ビタミン・微量元素が全く供給されていなかった状態で投与が進んでいたことになります。
隔壁開通が確認できるのが基本です。発覚の背景には「遮光袋がかかっていたためバッグを直接確認できなかった」という要因がありました。遮光対策と開通確認を両立する手順が、現場では求められています。
エルネオパNF1号の開通手順は次のとおりです。
開通後の液の色は「黄色澄明」が正常です。上室だけが開通している場合や小室が未開通の場合には色のムラが生じます。色の均一性を必ず確認することが条件です。また、エルネオパNF1号の下室にはK⁺が18mEq/L含まれており、未開通でフリーフォールが起きた場合の高カリウム血症リスクも懸念されます。
参考:医療事故情報収集等事業(公益財団法人日本医療機能評価機構)
https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_202.pdf
エルネオパNF1号の添付文書で「警告」欄(最重要の注意事項)に明記されている事項があります。それがビタミンB1欠乏に起因する乳酸アシドーシスです。
添付文書には「ビタミンB1欠乏症と思われる重篤なアシドーシスが発現した場合には、直ちに100〜400mgのビタミンB1製剤を急速静脈内投与すること」と記載されています。これは非常に重大です。
なぜビタミンB1欠乏が起きるのでしょうか? エルネオパNFは1日量である2000mL投与で1日のビタミン必要量を満たすよう設計されています。しかし1000mLや1500mLの投与にとどまると、当然ながらビタミン量は1/2または3/4にしか達しません。1日量以下の投与が続く場合はビタミン不足が条件です。さらに、高カロリー輸液療法でブドウ糖を大量に投与すると、その代謝にビタミンB1(チアミン)が消費されます。B1欠乏状態でブドウ糖負荷が続くと、ピルビン酸からTCA回路への代謝経路が障害され、乳酸の生成が亢進して致命的な乳酸アシドーシスに進展する危険があります。
ウェルニッケ脳症の発症リスクもこれと同様の機序です。長期TPNで食事からのビタミン摂取がゼロであることを考えると、少量投与が続く患者では必要に応じてマルタミン®などのビタミン製剤を追加することが推奨されます。エルネオパNF1号のビタミンB1含有量は2000mL中6mg(チアミンとして)であり、FDA2000処方に準拠した量です。ただし投与量が1000mLにとどまる場合は3mgにしかならないため、状況に応じた追補が必要になります。
また、アシドーシスの症状が現れた場合には高カロリー輸液療法を中断し、アルカリ化剤の投与などの処置を行うことも添付文書に規定されています。血液ガス分析でpHや乳酸値を定期的に確認する習慣が、このリスクを早期に発見するための有効な手段です。
参考:中心静脈栄養(TPN)とビタミン・微量元素(東邦大学)
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/eiyo_chiryo/guide/lt3f020000000038-att/center_010.pdf
エルネオパNF1号の管理において、隔壁開通や血糖管理と同じくらい重要でありながら、日常の業務の中で抜け落ちやすいのが「遮光」と「長期投与時のマンガン蓄積」への対応です。
まず遮光について確認します。添付文書には「ビタミンの光分解を防ぐため、遮光カバーを用いるなど十分に注意すること」と明記されています。エルネオパNF1号・2号に含まれるリボフラビン(ビタミンB2)などは光によって分解されやすく、遮光カバーなしに投与を続けるとビタミン濃度が低下します。遮光は必須です。ただし先述の医療事故事例で示したように、遮光袋が「開通確認を阻害する」という逆のリスクにもつながるため、投与開始前に必ず袋を外してバッグ状態を確認してから遮光袋をかけ直す運用が望ましいです。
次に、長期投与時のマンガン蓄積について説明します。これは意外と知られていないリスクです。エルネオパNF1号にはマンガンが1μmol/日(2000mL中)配合されています。この量はESPENガイドライン(0.2〜0.3mg/日)と比較するとやや多い設計になっています。添付文書では「本剤を長期連用する場合、マンガンについては、全血中濃度の上昇がみられたり、脳内蓄積によって脳MRI検査(T1強調画像)で高信号を示したり、パーキンソン様症状があらわれたとの報告がある」と記載されています。
副作用として頻度不明ながら「パーキンソン様症状」「血中マンガン上昇」が明記されているのは、臨床上軽視できません。長期TPN患者では必要に応じてマンガンの全血中濃度を定期測定し、黄疸や濃度上昇が認められた場合には他の製剤への切り替えを検討する必要があります。
また、胆道閉塞のある患者は禁忌(2.13)となっています。これは排泄障害によりマンガンや銅などの微量元素が蓄積するリスクが高いためです。胆道系の疾患を持つ患者への投与前には、禁忌事項の確認が必要です。
もう一点、長期投与に関連して注意すべきはセレンです。エルネオパNF1号にはセレンが含まれていません。ESPENガイドラインでは長期静脈栄養管理においてセレン欠乏症のリスクが指摘されており、長期TPN患者ではエレメンミック®などのセレン含有製剤の併用が検討対象となります。
長期投与では定期的なモニタリングが条件です。血液ガス、血糖、電解質に加え、微量元素の血中濃度(特にマンガン・銅・亜鉛)もフォローすることで、代謝合併症の早期発見につなげることができます。
参考:中心静脈栄養キット製剤のリスク・マネジメント(J-STAGE、外科と代謝・栄養51巻5号)