ドラッグラグとは、海外で承認された新薬が日本で承認・使用可能になるまでの時間差を指します 。この問題は日本の医療制度における重大な課題として認識されており、患者の治療機会に直接影響を与えています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjhep/36/2/36_2024.10/_article/-char/ja
最新の統計によると、2020年までの直近5年間に欧米で承認された243品目の新薬のうち、実に 72%に相当する176品目 が日本国内で未承認の状態にあります 。これは2016年時点の56%から大幅に悪化しており、日本の医薬品アクセスの問題が深刻化していることを示しています 。
参考)https://www.innovation-for-newhope.com/contents/4
PMDA(医薬品医療機器総合機構)の最新調査では、令和5年度のドラッグ・ラグは約1.3年となっており、近年緩やかな改善傾向にあったものの再び拡大に転じています 。このドラッグ・ラグの拡大は、審査プロセスの遅延(審査ラグ)ではなく、主に開発段階での遅延(開発ラグ)が原因とされています 。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000273921.pdf
ドラッグラグは医療従事者と患者の双方に深刻な影響をもたらしています。特に希少疾患領域では、この問題がより顕著に現れています 。
参考)https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/202309051400/
治療選択肢の制限 📋
海外では標準的な治療として確立されている薬剤が国内で使用できないことで、医師の治療選択肢が大幅に制限されます。これにより、最適な治療を提供できない状況が生じています 。
参考)https://www.c-press.cmicgroup.com/healthcare/554/
患者の治療機会の逸失 ⚕️
進行の早い疾患や予後不良な疾患において、時間の遅延は患者の生存率や生活の質に直接影響します。特に小児用医薬品では、成長期における治療の遅れが長期的な影響を与える可能性があります 。
参考)https://gemmed.ghc-j.com/?p=57094
医療従事者の負担増加 💼
適応外使用や代替治療の検討が必要になることで、医師の診療負担が増加し、インフォームドコンセントの複雑化も問題となっています 。
参考)https://www.lifescience.co.jp/yk/jpt_online/review0906/index_review4.html
ドラッグラグと密接に関連する概念として「ドラッグロス」があります。ドラッグロスとは、海外で承認されている医薬品が日本では開発すら着手されていない状況を指します 。
参考)https://cra-bank.com/keijiban?gu=162
ドラッグロスの深刻な実態 📉
日本国内未承認薬の 69% が未開発の状態にあり、これは開発段階での問題が根本的な原因となっていることを示しています 。特に希少疾患領域では、スタートアップ企業による創薬が主流となっている米国との戦略的な違いが影響しています 。
疾患別の特徴 🧬
神経系疾患、稀少がん、先天性代謝異常症などの領域で特にドラッグラグ・ロスが深刻化しています 。これらの疾患では、日本での症例数の少なさや治験実施の困難さが開発を阻害する要因となっています 。
参考)https://research.jac-recruitment.jp/industry/10/
厚生労働省の調査では、2024年3月現在で82品目がドラッグロスの状態にあることが報告されており、わずかな改善は見られるものの依然として深刻な状況が続いています 。
参考)https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4523
日本政府と関連機関は、ドラッグラグ解消に向けて様々な取り組みを実施しています。これらの施策は医療従事者にとって重要な情報源となります。
PMDA審査体制の強化 🏛️
医薬品医療機器総合機構では、審査員の増員と審査プロセスの効率化を進めています 。2007年時点で1年程度あった審査ラグは大幅に短縮され、現在では審査期間の短縮が実現されています 。
先駆け審査指定制度の活用 ⚡
革新的な医薬品に対して優先的な審査を行う制度により、重要な新薬の早期承認が促進されています 。この制度は、治療選択肢の少ない疾患領域での新薬アクセスを改善する重要な役割を果たしています。
国際共同治験の推進 🌐
日本を含む多地域臨床試験(MRCT)の推進により、海外データの活用可能性が拡大しています 。2024年9月からは新薬申請時の英語による文書提出が試験的に認められ、海外企業の参入障壁が緩和されました 。
未承認薬・適応外薬検討会議の機能強化 📋
学会や患者団体からの要望を受けて、医療上の必要性が高い未承認薬について積極的な検討が行われています 。2025年度には86品目について国が能動的に検討を進める方針が示されています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001462594.pdf
医療従事者は、ドラッグラグ問題に対して積極的な役割を果たすことが期待されています。
情報収集と患者教育の重要性 📚
海外の最新治療情報を継続的に収集し、患者に対して適切な情報提供を行うことが重要です。治験情報や臨床研究への参加可能性について、患者と十分な議論を行う必要があります 。
参考)https://www.efpia.jp/link/241211_efpia-day_patient-forum_joint-statment_jp2.pdf
学会活動を通じた要望提出 🏥
各専門学会を通じて、臨床現場で必要とされる未承認薬について積極的に要望を提出することで、政策決定に影響を与えることができます 。医療従事者の現場の声は、薬事政策において重要な判断材料となります。
国際ネットワークの構築 🤝
海外の医療機関や研究者との連携を深めることで、最新の治療情報や研究成果を早期に入手できる体制を構築することが有効です 。
デジタルヘルスの活用 💻
医療DXの進展により、診断支援システムや治療選択支援ツールの活用が期待されています 。これらのツールは、限られた治療選択肢の中で最適な治療を選択する際の意思決定支援に役立ちます。
将来展望 🔮
厚生労働科学研究の成果を踏まえた薬価制度改革や、小児用医薬品開発の促進策が検討されています 。また、スタートアップ企業との早期パートナーシップや国内創薬エコシステムの強化により、将来的にはドラッグラグ・ロス問題の根本的解決が期待されています 。
PMDA公式サイト - 最新の承認情報と審査状況を確認
日本製薬工業協会 - ドラッグラグの統計データと業界動向