デュタステリドは5α-還元酵素阻害薬として男性型脱毛症(AGA)と前立腺肥大症の治療に使用されますが、特定の患者群に対しては絶対禁忌とされています。
絶対禁忌対象者
特に注意すべき点は、デュタステリドが皮膚から吸収される性質を持つことです。妊娠中の女性が薬剤に触れただけでも胎児の外生殖器の発達に悪影響を及ぼす可能性があるため、カプセルの取り扱いには細心の注意が必要です。万一薬剤内容物に触れた場合は、直ちに石鹸と流水で洗い流すことが重要です。
医療従事者は、患者の家族構成を必ず確認し、妊娠中の女性や小児がいる場合は薬剤の保管方法について詳細に指導する必要があります。また、デュタステリドの血中半減期は21-30日と長いため、投与中止後も6ヶ月間は献血ができません。
デュタステリドは5α-還元酵素のI型およびII型両方を阻害することで、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制します。これは同じ5α-還元酵素阻害薬であるフィナステリドがII型のみを阻害するのと比較して、より幅広い作用を示す重要な特徴です。
国内臨床試験データによる効果比較
血中濃度の推移について、デュタステリドは服用開始から4週間で91.8%の血中濃度に到達し、この時点で顕著な治療効果が発現します。特に朝食後30分以内の服用では、空腹時服用と比較して副作用の発現率が32.4%低下することが報告されており、服用タイミングの重要性が示されています。
国内で実施された長期投与試験では、デュタステリド投与120例中20例(16.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されています。主要な副作用として以下が挙げられます。
性機能関連副作用
その他の重要な副作用
興味深いことに、2023年8月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)が発表したWHOデータベース分析結果によると、フィナステリドでは「希死念慮を有するうつ病」や「自殺念慮」などの副作用報告数が予測値より高かったのに対し、デュタステリドでは予測値より低い結果となりました。これは投与対象疾患の分布の違いも影響していると考えられています。
デュタステリドには併用禁忌薬は存在しませんが、CYP3A4阻害薬との併用には注意が必要です。CYP3A4はデュタステリドの主要な代謝酵素であり、この酵素を阻害する薬剤との併用により血中濃度が上昇し、副作用リスクが増大する可能性があります。
主要なCYP3A4阻害薬
併用が必要な場合は、デュタステリドの血中濃度モニタリングを考慮し、副作用の発現に特に注意を払う必要があります。また、これらの薬剤の投与開始・中止時には、デュタステリドの効果や副作用に変化がないか慎重に観察することが重要です。
デュタステリドのAGA治療薬としての承認状況は国際的に大きく異なっており、これは医療従事者が理解しておくべき重要な事実です。現在、AGA治療薬としてデュタステリドが承認されているのは日本と韓国のみで、米国、英国、カナダではBPH(前立腺肥大症)治療薬としてのみ承認されています。
国際的な承認状況の背景
欧米諸国では、BPHに対してもデュタステリドより安全性が高く効果が証明されている治療薬が存在するため、デュタステリドが処方される機会は減少しています。この状況は、デュタステリドの副作用プロファイルに対する国際的な慎重な評価を反映しています。
日本皮膚科学会のガイドライン作成に関わった専門医は、「治療現場の感覚でいえば、長期で使うとデュタステリドとフィナステリドの効果に差はあまりない」「デュタステリドは性欲減退や勃起不全、射精障害といった性機能の低下がフィナステリドよりも起こりやすい」と指摘しています。
この専門医の見解は、デュタステリドの血中濃度半減期がフィナステリドより長いため、副作用が出た際に長引く傾向があることも含めて総合的な治療選択の重要性を示唆しています。
さらに、2021年に改定されたザガーロの使用上注意には、精神的・性的副作用の懸念が追加され、「投与中止後も持続したとの報告がある」という注釈まで記載されています。これは Post-Finasteride Syndrome(PFS)類似の持続性副作用への懸念を反映したものと考えられます。
医療従事者は、これらの国際的な状況と専門家の見解を踏まえ、患者の年齢、挙児希望の有無、既存の性機能状態、心理的素因などを総合的に評価して治療選択を行う必要があります。特に挙児希望がある患者に対しては、デュタステリドの長い半減期と性機能への影響を考慮し、フィナステリドを第一選択とすることも検討すべきでしょう。