ダナパロイドナトリウム(商品名:オルガラン)は、低分子量ヘパリノイドに分類される抗凝固薬で、分子量5,500の化合物です。その組成は、ヘパラン硫酸84%、デルマタン硫酸12%、コンドロイチン硫酸4%から構成されており、ヘパラン硫酸が主成分となっています。
本薬の抗凝固作用は、主にアンチトロンビンIIIによる第Xa因子の阻害作用を増強することで発揮されます。標準ヘパリンと比較すると、アンチトロンビンIIIによるトロンビンおよび第IXa因子の阻害作用の増強は1/10以下と弱く、これが出血リスクの軽減につながっています。
抗Xa/トロンビン活性比は22倍と非常に高く(標準ヘパリンは1倍)、この特性により選択的なXa阻害作用を示します。血中半減期は20時間と長期間持続し(標準ヘパリンは0.5~1時間)、これにより1日2回の投与で十分な効果が得られます。
実験的研究では、ラットの動静脈シャントモデルおよび静脈血栓モデルにおいて、ダナパロイドナトリウムが用量依存的に血栓形成を抑制することが確認されています。また、エンドトキシン誘発DICモデルにおいても、各種血液凝固および線溶機能検査値を改善し、腎糸球体のフィブリン血栓形成を抑制する効果が認められています。
ダナパロイドナトリウムの副作用発現率は、大規模な安全性解析において10.03%(339/3,368例)と報告されています。主な副作用として以下が挙げられます。
重篤な副作用(頻度不明)
その他の副作用
DIC患者における副作用発現率は16.4%と高く、重症度が高いほど副作用発現率が上昇する傾向があります。これは、DIC患者では腎機能障害を併発することが多く、腎代謝であるダナパロイドナトリウムのクリアランスが低下するためです。
高齢者では非高齢者と比較して副作用発現率が高く、特に肝機能異常、貧血、APTT延長の発現率が1.0%以上となっています。
ダナパロイドナトリウムとヘパリンの最も重要な違いは、作用機序と薬物動態にあります。
作用機序の違い
薬物動態の違い
臨床上の利点
ダナパロイドナトリウムは半減期が長いため、24時間持続点滴で患者を拘束する必要がなく、慢性DIC症例に最も良い適応となります。また、肝障害などの副作用がヘパリンより少ないことも臨床上の利点です。
注意すべき点
万一出血の副作用が発現した場合、半減期が長いことがデメリットとなり、薬剤を中和できない点が短所となります。また、腎機能障害のある症例や低体重の症例では減量が必要です。
標準投与法
ダナパロイドナトリウムの標準投与法は、成人に対して1回1,250抗第Xa因子活性単位を12時間ごとに静脈内注射し、1日量2,500抗第Xa因子活性単位とします。症状に応じて適宜減量が可能です。
投与上の注意点
本剤の抗第Xa因子活性単位は独自の標準品を用いて測定されており、ヘパリンや低分子ヘパリン類の抗第Xa因子活性単位と同一ではないことに注意が必要です。
効果判定
DIC治療における効果判定では、以下の検査値の改善を指標とします。
特殊な投与対象
腎機能障害患者では、血清クレアチニン値が1.5mg/dL以上の場合、クリアランスが25%減少するため、用量調整が必要です。小児に対する投与では、生後10ヵ月から9歳の症例で325~1,250抗第XaU/回を1~2回投与した報告があり、副作用発現率は6.7%でした。
日本における保険適応は播種性血管内凝固症候群(DIC)のみですが、欧州ではより幅広い適応で使用されています。
海外での適応
期待される適応拡大
抗リン脂質抗体症候群(APS)患者における習慣性流産に対する臨床試験が検討されており、将来的な適応拡大が期待されています。また、術後早期離床を促したい患者における術後DVT発症予防での有用性も注目されています。
特殊な病態への応用
腹部大動脈瘤や肝巨大血管腫に合併した線溶亢進型DIC(慢性経過)に対して、ダナパロイドナトリウムとトラネキサム酸の併用療法により、患者のADLを損なうことなく優れた効果を発揮した症例報告があります。
妊娠・授乳期での使用
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。授乳中の女性への投与は避けることが望ましいですが、やむを得ず投与する場合には、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮して授乳の継続または中止を検討する必要があります。
ダナパロイドナトリウムは、その独特な薬物動態と作用機序により、従来のヘパリン類では対応困難な症例に対する新たな治療選択肢として位置づけられています。今後の臨床研究により、さらなる適応拡大と最適な使用法の確立が期待されます。