ベレキシブル薬価と算定根拠・患者負担を徹底解説

ベレキシブル(チラブルチニブ)の薬価は1錠4,307円、1日6錠で約2.6万円にのぼります。算定方式・薬価推移・高額療養費の活用まで、医療従事者が知っておくべき情報とは?

ベレキシブルの薬価・算定根拠と患者負担を正しく理解する

高額療養費を使っても、ベレキシブルの月の薬剤費は80万円を超えることがある。


この記事の3ポイント要約
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現行薬価は1錠4,307.30円

2020年収載時の5,067.40円から薬価改定を経て引き下げられ、2025年4月以降も4,307.30円が維持されています。1日480mg(6錠)投与が標準用量で、1日薬価は約25,844円です。

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類似薬効比較方式(Ⅰ)で算定

イムブルビカ(イブルチニブ)カプセル140mgを最類似薬として算定されました。補正加算は適用されず、希少疾病ながらも純粋に類似薬との比較で薬価が決まった点が特徴です。

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高額療養費制度で患者負担は大幅に軽減

月の薬剤費が80万円超になっても、高額療養費制度を適用すると所得区分に応じた上限額(一般所得で月約8〜9万円程度)に抑えることができます。処方前に制度説明を行うことが重要です。


ベレキシブルの薬価の現状と収載からの推移

ベレキシブル錠80mg(一般名:チラブルチニブ塩酸塩)は、小野薬品工業が創製した国内初の中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)を適応とするBTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)阻害薬です。2020年3月25日に製造販売承認を取得し、同年5月20日に薬価基準へ収載されました。


収載当初の薬価は1錠あたり5,067.40円でした。その後の薬価改定を経て段階的に引き下げられ、2025年4月1日以降の現行薬価は1錠4,307.30円となっています。収載から約5年の間に、1錠あたり約760円(約15%)の引き下げが行われた計算です。


標準用量での1日薬価を計算すると、1日1回480mg(1錠80mgを6錠)の投与で1日薬価は約25,844円になります。これは1か月(30日)換算で約775,000円に相当します。金額のスケールとしては、月の薬剤費だけで一般的な勤労者の月収の10倍以上に達するケースもあります。


つまり高額な薬剤である、ということですね。


薬価推移をまとめると以下の通りです。


時期 薬価(1錠) 1日薬価(480mg/日)
2020年5月(収載時) 5,067.40円 約30,404円
2025年4月以降(現行) 4,307.30円 約25,844円


薬価改定のたびに引き下げ圧力がかかる構造は、ベレキシブルに限らず国内新薬全般に共通する課題です。特に抗悪性腫瘍薬は高薬価・高使用量という特性上、薬価改定の影響額が大きくなりやすい点を、処方設計や医療経済的評価の際に念頭に置く必要があります。


参考情報として、現行薬価や添付文書の最新情報は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品情報検索ページで随時確認することができます。


小野薬品工業 医療関係者向け情報「ベレキシブル」(製品基本情報・薬価)


ベレキシブルの薬価算定方式と類似薬の選定根拠

薬価算定の仕組みを正確に理解しておくことは、医療経済的な議論や薬剤適正使用の観点から医療従事者にとって重要な知識です。これは押さえておくべき基本です。


ベレキシブルの薬価は、類似薬効比較方式(Ⅰ)によって算定されました。中央社会保険医療協議会(中医協)総会(2020年5月13日開催、第458回)の審議記録によれば、薬理作用や投与経路等が類似するイムブルビカ(イブルチニブ)カプセル140mgを最類似薬として選定しています。


類似薬効比較方式(Ⅰ)とは、既収載品の中から効能・効果・薬理作用・投与経路が類似した薬剤(最類似薬)を1品目選び、その1日薬価に合わせて算定する方式です。新薬の1日用量と最類似薬の1日用量を換算したうえで、原則として同等の1日薬価に設定されます。


重要な点は、ベレキシブルの算定には補正加算(有用性加算・先駆け審査指定制度加算など)が適用されなかったことです。他の同時期収載薬(テプミトコやビルテプソなど)では有用性加算や先駆け審査指定制度加算が適用されていたのに対し、ベレキシブルはイムブルビカとのシンプルな薬価比較にとどまった形となりました。


同じBTK阻害薬であるイムブルビカとの関係を整理すると、以下のようになります。


薬剤名 一般名 主な適応 薬価(参考)
ベレキシブル錠80mg チラブルチニブ PCNSL、WM、LPL 4,307.30円/錠
イムブルビカカプセル140mg イブルチニブ CLL、MCLなど 類似薬として参照


イムブルビカはPCNSL・WM・LPLの適応を有しておらず、ベレキシブルは適応疾患において実質的に国内唯一の選択肢として位置づけられた時期があります。これは使えそうな情報ですね。


適応疾患が希少疾病でありながら補正加算が付かなかった背景には、薬価算定組織が「薬理作用類似薬との比較が適切」と判断したことがあります。医療従事者としては、薬価の高低だけでなく、「なぜその薬価になったか」という算定根拠を理解しておくことで、薬剤経済的な議論を適切に行えるようになります。


厚生労働省|中央社会保険医療協議会総会 第458回議事録(2020年5月13日)−ベレキシブルの薬価算定経緯が記載


ベレキシブルの用法・用量と薬価計算の実務的なポイント

実際の処方現場で薬剤費を試算する際、用法・用量の理解は不可欠です。ベレキシブルの標準用法・用量は以下のとおりです。


  • 用法・用量:通常、成人にはチラブルチニブとして1日1回480mgを空腹時に経口投与する(患者の状態に応じて適宜減量)
  • 1回服用錠数:1錠80mgのため、標準量では1日6錠を服用
  • 食事制限:食事と同時または食後ではなく、必ず空腹時の服用が必要(食事の影響で吸収が変動するため)


空腹時投与が必須である点は、患者指導において見落とされがちです。食後に服用してしまうと血中濃度が変動し、有効性が担保されないリスクがあります。これが原則です。


減量ステップについては、患者の状態(副作用の発現、肝機能、腎機能など)に応じて以下の段階で減量します。


  • 1段階目の減量:1日320mg(4錠)
  • 2段階目の減量:1日240mg(3錠)


薬剤費の試算例として、減量時の1日薬価を確認しておきましょう。


投与量(1日) 錠数 1日薬価(2025年4月以降) 月額薬剤費(30日)
480mg(標準量) 6錠 約25,844円 約775,000円
320mg(減量1) 4錠 約17,229円 約516,000円
240mg(減量2) 3錠 約12,922円 約388,000円


いずれの用量でも月額薬剤費は数十万円規模となります。


処方開始前には患者への医療費説明と高額療養費制度の案内が重要です。処方設計と同時に医療ソーシャルワーカー(MSW)との連携を図ることが、患者の治療継続を支える上で有効な手段となります。患者が費用負担を理由に自己中断するリスクを事前に下げる、これが重要な視点です。


新薬情報オンライン|ベレキシブル(チラブルチニブ)の作用機序・用法用量・薬価の詳細解説


ベレキシブルの薬価と患者の経済的負担:高額療養費制度の活用

月額75万円を超える薬剤費は、患者にとって大きな経済的負担になります。しかし、実際の窓口負担はそれほど高額にはなりません。


日本の公的医療保険には高額療養費制度があり、1か月の医療費(薬剤費を含む)の自己負担が所得区分に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻されます。ベレキシブルは保険適用薬ですので、この制度の対象となります。


所得区分ごとの月の自己負担上限額(70歳未満の場合・2024年8月現在)の概要は以下のとおりです。


所得区分(標準報酬月額) 自己負担上限額(月)の計算式
年収約1,160万円以上(83万円以上) 252,600円+(医療費−842,000円)×1%
年収約770万〜約1,160万円(53万〜83万円) 167,400円+(医療費−558,000円)×1%
年収約370万〜約770万円(28万〜53万円) 80,100円+(医療費−267,000円)×1%
年収約370万円以下(28万円未満) 57,600円
住民税非課税世帯 35,400円


たとえば、標準量480mg/日を30日間投与(薬剤費約775,000円)した場合、一般的な所得区分(標準報酬月額28万〜53万円)の患者では、3割負担の計算上の自己負担は23万円超になりますが、高額療養費制度を適用することで月の実質負担はおおよそ8〜9万円程度に抑えられます。


さらに、過去12か月以内に同一の高額療養費受給が3回以上あった月(多数回該当)は、4回目以降の上限額がさらに引き下げられます(一般所得区分で44,400円)。これはメリットが大きい制度です。


医療従事者としては、患者が高額療養費制度を自分で把握していないケースも多いという現実があります。特に初回処方時に、外来処方でも院内処方でも薬局での支払い時に適用できることを明確に伝えることが、患者の治療継続率を高める上で大きな意味を持ちます。


また、小野薬品工業のがん支援サイトでは高額療養費制度のわかりやすい解説が提供されており、患者さんへの説明補助として活用できます。


小野薬品工業 がん情報(一般向け)|高額療養費制度の仕組みをわかりやすく解説


ベレキシブルの薬価を左右する「適応疾患の希少性」と今後の再算定リスク

医療従事者がベレキシブルの薬価を議論する際に見落とされがちな視点が、薬価の維持メカニズムと将来の再算定リスクです。今後の処方計画にも影響するため、押さえておくべきポイントです。


ベレキシブルが対象とするPCNSL(中枢神経系原発リンパ腫)・WM(原発性マクログロブリン血症)・LPL(リンパ形質細胞リンパ腫)は、いずれも患者数が限られる希少疾患です。PCNSLの国内年間新規発症数は全悪性リンパ腫の約3〜4%程度と推計されており、決して大きな市場規模ではありません。


市場規模が小さいということは、市場拡大再算定の対象にはなりにくい、という側面があります。市場拡大再算定とは、収載後に予想を超えて売上が拡大した品目に対して薬価を引き下げる制度で、オプジーボなどが代表例です。ベレキシブルは対象疾患の希少性から、この再算定リスクは比較的低いと考えられます。


一方で、新薬創出等加算の要件を満たすかどうかによって薬価維持の可否が変わってきます。新薬創出等加算は、イノベーション推進の観点から未収載適応症の開発状況などを評価する制度で、加算が適用されれば改定ごとの薬価維持(または引き下げ幅の抑制)が可能です。ベレキシブルは現状、希少疾病用医薬品指定を受けた品目であり、国内でのさらなる適応拡大が薬価維持の鍵になり得ます。


実際、小野薬品は国内でベレキシブルの「全身性強皮症」を対象としたフェーズⅠ試験も実施しており、適応拡大の可能性を積極的に探索しています。適応追加に成功すれば再算定の時期に有利に働く可能性があり、製薬企業にとってもR&Dの継続は薬価戦略と不可分です。


医療従事者の観点からは、特定の希少疾患治療薬が適応追加によって薬価が変動する可能性を念頭に置きながら、薬剤情報を継続的にアップデートすることが求められます。


小野薬品工業 プレスリリース(2020年5月20日)|ベレキシブル錠の薬価基準収載・販売開始について