褥瘡の肉芽形成期に「とりあえずプロスタンディン塗っておけばOK」と思っていると、1日10g超えで全身性の血圧低下が起きることがあります。shg11710blog+1
アルプロスタジルアルファデクス(商品名:プロスタンディン軟膏0.003%)は、プロスタグランジンE1(PGE1)を主成分とする外用薬です。 PGE1は局所の血管を拡張させ、血流を増加させる生理活性物質で、この作用により創部への酸素・栄養供給が改善されます。shikkari999.livedoor+1
具体的には「皮膚血流増加作用」「血管新生促進作用」「表皮形成促進作用」の3つが治癒を後押しします。 つまり、傷を"外から塞ぐ"のではなく、"中から再生させる"薬と理解すると現場で応用しやすいです。
参考)プロスタンディン軟膏(アルプロスタジル)の作用機序 - 薬剤…
褥瘡の治癒過程は、急性期→炎症期→増殖期(赤色期)→成熟期(白色期)→治癒という流れをたどります。 プロスタンディン軟膏が最も効果を発揮するのは増殖期〜成熟期、すなわち赤色期から白色期です。これが基本です。
黒色期(壊死組織が残る時期)や感染を伴う黄色期に本剤を塗っても、血流改善作用が十分に発揮されないばかりか、感染を悪化させるリスクがあります。 時期の見極めが正確な治療の前提となります。
参考)https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/05.pdf
参考情報:褥瘡の外用薬使用時期の整理(日本老年医学会)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_of_geriatrics_50_5_597.pdf
用法は「1日2回、潰瘍周囲から潰瘍部にかけて消毒・清拭後、ガーゼ等にのばして貼付または直接塗布してガーゼで保護」です。 シンプルな操作ですが、"量"の管理が現場では見落とされがちです。
参考)プロスタンディン軟膏0.003%の基本情報(副作用・効果効能…
添付文書には「原則として1日塗布量10gを超えないこと」と明記されています。 10gとはチューブ1本(20g入り)の半量、スプーン小さじ約2杯分に相当します。想像より少ない量です。hokuto+1
この制限の根拠は全身吸収にあります。油脂性基剤に溶け込んだPGE1は、大量塗布すると経皮吸収が増加し、血管拡張作用が全身に及ぶ可能性があります。 結果として血圧低下、脈拍異常(頻脈・徐脈)が出現する報告があります。shg11710blog+1
広範な褥瘡を複数部位に抱える患者では、部位ごとの量が少なくても合計が10gを超えるケースがあります。複数部位使用時には合計塗布量の確認が条件です。
さらに使用期間も8週間以内という制約があります。 8週間経過しても治癒していない場合、治療方針そのものを再評価するタイミングとして活用してください。
参考情報:使用量・使用期間に上限のある塗り薬の整理(薬剤師ブログ)
使用量、使用期間に上限のある塗り薬
本剤には明確な禁忌が設けられています。重篤な心不全のある患者・出血のある患者・妊婦・本剤成分への過敏症既往歴のある患者への使用は禁忌です。 この4点は必ず使用前に確認するべき項目です。
なかでも見落とされやすいのが「出血傾向」への注意です。 PGE1には血小板凝集抑制作用があるため、もともと出血傾向がある患者では創部からの出血が増強するリスクがあります。 抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の患者にはとくに慎重な判断が必要です。jpn-geriat-soc.or+1
添付文書には「褥瘡・皮膚潰瘍の創部では出血傾向が認められることがあるので、使用して出血傾向が増強した場合は中止すること」と記載があります。 使用開始後も観察を継続することが原則です。
参考)プロスタンディン軟膏0.003%の効能・副作用|ケアネット医…
また、心不全患者では経皮吸収されたPGE1の血管拡張作用が心負荷を増大させる可能性があります。 重篤な心不全患者への使用は、代替薬の選択を検討してください。
参考情報:プロスタンディン軟膏の出血リスクの解説
https://yakuzaic.com/archives/95366
薬剤の選択は「主薬」だけでなく「基剤」の特性でも大きく変わります。これは見落とされやすい視点です。
プロスタンディン軟膏の基剤は「油脂性(プラチナベース)」です。 油脂性基剤は水分をほとんど含まないため、保湿・保護効果が高く、創面の乾燥や刺激が少ないという利点があります。 乾燥しやすい赤色期〜白色期の創面に適しています。pharmacista+1
一方で、油脂性基剤は水分吸収能が低いという特性も持ちます。 滲出液が多量に出ている創部(感染期など)に使用すると、滲出液が逃げ場を失い、浸軟(皮膚のふやけ)を起こすリスクがあります。滲出液が多い時期には不向きです。
参考)褥瘡治療薬一覧~赤色期・白色期~【ファーマシスタ】薬剤師専門…
同様に、感染を伴う創には抗菌作用のあるカデックス軟膏やゲーベンクリームが優先されます。 「油脂性基剤で滲出液が少ない乾燥傾向の赤〜白色期の創」という条件が、本剤が最も力を発揮する場面と覚えておくと現場で役立ちます。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2005/057011/200500271B/200500271B0008.pdf
| 基剤の種類 | 代表薬 | 特徴 | 向いている創 |
|---|---|---|---|
| 油脂性 | プロスタンディン軟膏 | 保湿・保護効果高い、水分吸収低 | 滲出液少ない赤〜白色期 |
| 水溶性 | アクトシン軟膏 | 水分吸収能高い | 滲出液中程度の創 |
| 乳剤性 | ゲーベンクリーム | 抗菌作用あり、冷却効果 | 感染・黄色期 |
赤色期〜白色期の褥瘡治療薬として、プロスタンディン軟膏の他にもフィブラストスプレー(トラフェルミン)やアクトシン軟膏(ブクラデシン)が選択肢に上がります。 これらとの使い分けを整理しておくと、処方提案や指導の質が上がります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/kurumi/6270
フィブラストスプレーはbFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)製剤で、線維芽細胞・血管内皮細胞を直接活性化します。 肉芽形成促進の作用が強力で、深い褥瘡に適していますが、1日あたりの薬価が高く、使用期間も4週間以内という制約があります。 コスト面での比較が重要です。yakuzaic+1
プロスタンディン軟膏の薬価は1gあたり約34.3円です。 1回の塗布量を2〜3gとすると、1日2回で約137〜206円、8週間の治療総コストは約7,672〜11,536円(薬剤費のみ)となります。フィブラストスプレーと比較すると、コストを抑えつつ肉芽形成・表皮化を促したい場面で有利です。
参考)プロスタンディン軟膏0.003%の添付文書/電子添文(副作用…
あまり語られない視点として、「使用期間8週間の管理を病棟全体で行う仕組みがない施設では、知らず知らずのうちに長期投与が続いている」という問題があります。使用開始日をカルテ・ナースステーションのホワイトボードなどに明記し、8週間を超えた時点でレビューするルールを設けることが、コスト削減と安全管理の両立につながります。
使用期間を超過した状態での漫然投与は、薬効の再評価が行われないまま医療費だけが増加する状況につながります。薬剤師と看護師が連携して「いつから使っているか」を定期確認する仕組みが、現場での対策として有効です。
参考情報:プロスタンディン軟膏の特徴とガイドライン上の位置づけ(いなかの薬剤師)
https://mibyou-pharmacist.com/2021/02/03/alprostadil-alfadex/
参考情報:褥瘡治療薬の赤色期・白色期の解説(ファーマシスタ)
褥瘡治療薬一覧~赤色期・白色期~【ファーマシスタ】薬剤師専門…