HLA役割:免疫機能と抗原提示における基本的意義

HLAは免疫系における「自己」と「非自己」の識別を担う重要な分子として、抗原提示や移植適合性に深く関わっています。その多様な機能と疾患との関連性について理解していますか?

HLA役割と免疫機能

HLAの基本的役割
🛡️
自己・非自己識別

外部病原体と自己組織を区別し、免疫応答を制御する

📋
抗原提示機能

ペプチド断片をT細胞に提示し、適切な免疫反応を誘導

🔄
移植適合性

臓器移植や造血幹細胞移植での適合性判定に不可欠

HLA分子の基本構造と免疫識別機能

HLA(Human Leukocyte Antigen)は、ヒトの主要組織適合性複合体(MHC)として、免疫系において極めて重要な役割を担っています。HLA分子は、「自己」と「非自己」の識別という免疫反応の根幹機能を司り、外部から侵入する細菌やウイルスなどの病原体を選別する重要な働きを持っています。
HLA分子の構造は、細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン、細胞内ドメインの3つの部分に分けられます。特に細胞外の遠位ドメインは、抗原ペプチドの選択的受容とT細胞への抗原提示という最も重要な機能を担当しています。この構造的特徴により、HLA分子は病原体由来のペプチドを結合し、免疫担当細胞に危険情報を伝達することができるのです。
HLA抗原は1954年に白血球の血液型として発見されましたが、その後の研究により、ほぼすべての細胞と体液に分布していることが明らかになりました。この広範囲な分布により、HLAは全身の免疫監視システムの基盤として機能しています。

HLAクラスI分子による細胞内感染監視

HLAクラスI分子(HLA-A、B、C)は、体のほぼすべての細胞表面に発現し、細胞内で産生される内在性ペプチドを提示する役割を担っています。これらの分子は通常、約9個のアミノ酸からなるペプチド断片をその溝構造に結合させ、CD8陽性キラーT細胞に提示します。
ウイルス感染や腫瘍化などにより細胞内で異常なタンパク質が産生されると、HLAクラスI分子がこれらの異常ペプチドを表面に提示し、キラーT細胞による細胞除去のシグナルとして機能します。このメカニズムにより、感染細胞や腫瘍細胞の早期発見と排除が可能となり、生体防御の第一線として働いています。
興味深いことに、NK細胞(Natural Killer細胞)はHLAクラスI分子の発現レベルを監視しており、HLAクラスI分子の発現が低下した細胞を優先的に攻撃する「ミッシングセルフ」機構も存在します。これは、ウイルス感染細胞が免疫回避のためにHLA発現を抑制することに対する生体の対抗手段として進化した重要なシステムです。

HLAクラスII分子と抗原処理機構

HLAクラスII分子(HLA-DR、DQ、DP)は、樹状細胞、マクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞に限定的に発現し、外来抗原由来のペプチドをCD4陽性ヘルパーT細胞に提示する機能を持っています。これらの分子は、通常15個前後のアミノ酸からなる比較的長いペプチド断片を結合させます。
抗原提示細胞が細菌などの外来病原体を貪食すると、細胞内でこれらが分解され、HLAクラスII分子と結合して細胞表面に提示されます。この過程により、ヘルパーT細胞は外来抗原の存在を認識し、適切な免疫応答を開始することができます。
ヘルパーT細胞は抗原認識後、Th1サイトカインやTh2サイトカインを放出し、それぞれキラーT細胞の活性化やB細胞による抗体産生を促進します。このように、HLAクラスII分子は獲得免疫応答の司令塔的役割を果たしています。

HLA多型性と疾患感受性

HLA遺伝子は極めて高い多型性を示し、各遺伝子座で数十以上のアリル(対立遺伝子)が存在します。この多型性により、各個人が異なるペプチド結合パターン(モチーフ)を持つことになり、アリル特異的な免疫応答が惹起されます。
特定のHLAアリルを持つ個人では、特定の疾患に対する感受性が規定されることが多くの研究で明らかになっています。例えば、自己免疫疾患の一部では特定のHLAタイプを持つ人に発症リスクが高いことが知られており、これはHLA分子が自己ペプチドを異物として認識してしまう機序と関連しています。
また、感染症に対する抵抗性や感受性も、個人のHLAタイプによって大きく左右されます。これは、各HLAアリルが結合できるペプチドの種類が異なるため、病原体由来ペプチドの提示効率に差が生じることが原因です。

HLA在移植医療における決定的役割

移植医療においてHLA適合性は成功の鍵を握る要因です。臓器移植造血幹細胞移植では、ドナーとレシピエント間のHLA型一致度が移植後の生着率や拒絶反応の発生率を大きく左右します。
造血幹細胞移植では特に、HLA-A座、B座、C座、DR座という4座(8抗原)の一致する割合が重要とされています。HLA型は両親から各座の半分ずつを遺伝的に受け継ぐため、兄弟姉妹間では25%の確率で完全一致する可能性があります。
移植後の合併症である移植片対宿主病(GVHD)の発症にも、HLA不適合が深く関わっています。ドナー由来の免疫細胞が、レシピエントのHLA分子を「非自己」として認識することで、重篤な免疫反応が惹起されるメカニズムが解明されています。現在では、HLA高解像度タイピング技術の発達により、より精密な適合性評価が可能となっています。
このように、HLAは免疫監視、抗原提示、移植適合性という多面的な役割を通じて、生体の恒常性維持に不可欠な機能を果たしており、現代医療における個別化治療の基盤としても重要な意義を持っています。