あなたが何気なく書く「STEMI」が、救急の120分を無駄にすることがあります。

STEMIは「ST-segment elevation myocardial infarction」の略で、急性冠症候群(ACS)の中でもST上昇を伴う急性心筋梗塞を指す専門用語です。 急性胸痛の患者をACS、非ACSに分け、その中でSTEMIとNSTEMIに分類するフレームワークの一部ですね。 多くの現場では「ST上昇=STEMI」と短縮して認識されがちですが、実際には心電図の基準や心筋逸脱酵素、臨床症状の組み合わせで診断される「症候群」であり、単なる波形の略称ではありません。 ここを取り違えると、「ST上昇があるからとりあえずSTEMI扱いで」といった乱暴な判断につながりやすくなります。
関連)https://litfl.com/stemi-management/
診断基準としては、連続する2誘導以上で1mm(前胸部誘導では2mm)以上のST上昇、新規の左脚ブロック、心筋壊死マーカーの上昇などが組み合わされます。 このため、心電図だけを見た「ST↑=STEMI」という略語的な理解は本来の定義を半分しか捉えていません。つまり「STEMIはST上昇を伴う心筋梗塞という臨床診断であって、ST上昇という“所見”の略語ではない」ということですね。 細かいようで、カルテの一行や救急搬送要請の一文では生死を分ける差になります。
STEMIという略語が明確に定義されているのは、治療方針がNSTEMIと大きく異なるからです。 NSTEMIはリスク層別化を行った上で24~48時間以内の侵襲的治療が検討されますが、STEMIでは「できるだけ早く再灌流させる」ことが最優先となります。 この治療戦略の分岐点を表すラベルがSTEMIという略語なので、臨床的な意味づけをセットで理解しておくことが基本です。 STEMIは「治療方針ラベル」ということですね。
関連)https://www.ncvc.go.jp/coronary2/column/20211213_011.html
たとえば119番から救急隊現着まで10分、現場滞在10分、搬送20分で、ここまでで既に40分前後を消費します。 残り80分でER受付、心電図、血液検査、循環器コール、カテ室準備、PCI実施まで完了させる必要があり、各ステップに“わずかな”ロスが積み重なるだけで簡単にオーバーします。ここでSTEMIという略語の使い方がボトルネックになることがあります。 「STEMI疑い」なのか「確定STEMI」なのか、救急隊と病院側で認識がずれていると、PCIチームの立ち上げが10~20分単位で遅れることがあるからです。
関連)https://www.primarycare-japan.com/news-detail.php?nid=1460
臨床研究では、ドア・トゥ・バルーン(D2B)時間が30分遅れるごとに死亡率が有意に上昇することが示されており、5~10分単位の遅れも積み上がると無視できません。 東京ドーム約1個分の心筋(左室心筋質量に相当するイメージ)が壊死に陥る時間がじわじわ削られていく、と考えるとインパクトが伝わりやすいでしょう。結論は「STEMIと書くか、STEMI疑いと書くか」で、患者の心筋量と予後が変わり得るということです。
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リスクを下げるためには、救急現場からカテ室まで「STEMI」という略語を時間軸とセットで扱う意識が有効です。具体的には、カルテや申し送りで「STEMI(発症から90分経過)」のように、略語+経過時間をワンセットで表記するルールをチームで統一する方法があります。 こうすることで、STEMIの一言に「今どれだけ急いでいるべきか」というニュアンスが自然と乗るからです。つまり時間情報を組み込んだ略語運用が基本です。
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STEMIという略語が便利な一方で、NSTEMIや非虚血性ST上昇との誤認は、患者にとって大きなデメリットになります。 代表例は、NSTEMIや不安定狭心症に対してSTEMIと誤認して血栓溶解薬を使用してしまうケースで、実際に出血性合併症や死亡リスクが増加する可能性が報告されています。 つまり「STEMIのつもりでやった積極治療」が、逆に患者の予後を悪化させることがあるわけです。痛いですね。
また、早期再分極や心膜炎、左室瘤など、非虚血性のST上昇をSTEMIと読み違えると、不要なカテーテル検査や入院、医療費増大につながります。 1件あたりのPCIコストは日本でも数十万円規模で、病院経営にとっても患者負担にとっても小さくありません。臨床の現場では、「胸痛+ST上昇=とりあえずSTEMIで」とラベリングしてしまうことで、誤認と過剰治療のセットを呼び込みやすくなります。つまり「安易なSTEMIラベル」が問題ということですね。
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なお、教育用リソースとしては、総合診療向けにSTEMIと紛らわしい心電図波形を図示している解説が有用です。 こうした資料をカンファレンスで共有し、自施設の症例に当てはめて検討することで、「これはSTEMIとは呼ばない」という感覚をチームで揃えやすくなります。
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STEMIと紛らわしいST上昇症例と心電図所見の解説(総合診療)
STEMIという略語は、ERだけでなく救急隊、循環器内科、ICU、カテ室スタッフなど、多職種が共有する「合図」として使われます。 しかし、誰がどのタイミングで“STEMI確定”と呼ぶかの基準が曖昧だと、カルテ上の表現や申し送りの内容にばらつきが出ます。これが、時間ロスや検査・治療の重複、説明内容の食い違いといった形で顕在化しやすいのです。厳しいところですね。
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実務的には、院内プロトコルに「STEMIの定義」と「略語の使い方」を明文化しておくと、こうしたばらつきをかなり減らせます。たとえば「救急隊段階では“STEMI疑い”、ERで循環器医が心電図と症状を確認した時点で“STEMI確定”と表現する」といった運用です。 カルテ上も「主訴/現病歴」では“ST上昇を伴う胸痛”と記載し、「診断名」にSTEMIを立てるのは循環器の確定後に限定するなど、レイヤーを分けることができます。言葉の階層を作る運用が原則です。
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このような運用を支えるツールとしては、電子カルテのテンプレート機能や救急室用のチェックリストが役立ちます。 「STEMIプロトコル」のテンプレートを一つ作成し、ACS疑いの症例ではそこから入力を始める運用にしておけば、記載漏れや時間情報の抜けを減らしやすくなります。 現場としては、「とりあえず略語を書いておく」から「略語をトリガーに、必要な情報をセットで入力する」スタイルに変えるイメージです。これは使えそうです。
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STEMIという略語の理解を深めるには、教科書的な定義だけでなく、現場の「シミュレーション」に組み込むのが効果的です。 たとえば学内実習や院内研修で、「同じ胸痛症例に対して、STEMIと言った場合と言わなかった場合で、チームの動きがどう変わるか」を比べる訓練を行う方法があります。つまり略語を「指示語」として扱うトレーニングです。意外ですね。
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このとき有効なのが、「STEMIという略語を出さずに、情報だけでどこまで動けるか」をあえて試すシナリオです。胸痛の性状、リスク因子、心電図の所見、バイタルサインだけを伝え、参加者に「この段階でSTEMIと呼ぶかどうか」を判断してもらいます。 そのうえで、早くSTEMIと判断したチームと慎重に見極めたチームで、再灌流までの時間と誤診率がどう変わるかを比較します。 こうした振り返りを通じて、「略語を出すタイミング」が感覚ではなくデータで議論できるようになります。つまりシミュレーションが基本です。
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参考として、急性冠症候群全体の診断から治療までを体系的に整理したプロフェッショナル向け解説も役立ちます。 STEMIだけでなくNSTEMI、不安定狭心症の扱いを俯瞰しておくことで、「どこからどこまでをSTEMIと呼び、どこからは呼ばないか」の線引きを自施設の実情に合わせて考えやすくなります。
関連)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=8
急性心筋梗塞とSTEMI/NSTEMIの診断・治療(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の病態・診断・治療方針の解説
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