ナロルフィンはκ受容体を刺激しGタンパク質経路を活性化し鎮痛と痒み抑制を引き出す一方、μ受容体には競合的に結合し呼吸抑制や多幸感を相殺する 。[4][1]
molecular docking 解析ではアリル基がκ受容体の疎水ポケットと相互作用しβ‐アレスチン経路を抑えるバイアスが示唆され、鎮痛効果と精神症状軽減のバランスに寄与すると報告される 。[5]
こうした二重機能は「リバースアゴニスト」と呼ばれ、既存μアゴニスト乱用後の呼吸抑制回復と残存鎮痛の両立を目指す設計思想の先駆けとなった 。[6]
[7]
[2]
[5]
作用機序を視覚的に理解するにはKEGG Pathway「オピオイド受容体の作動薬と拮抗薬」図が参考になる 。
参考)https://www.kegg.jp/dbget-bin/www_bget?dr_ja%3AD08247
国内添付文書は廃止されたが歴史的標準用量は塩酸塩換算で0.5 mgを静注し数分以内に呼吸数が回復すると記載される 。[3]
投与経路は静脈内が主流であり、筋注でも吸収は良好だが発現まで10 分を要し救急現場では不利とされる 。[2]
半減期は約1.5 時間であり、フェンタニル系の長時間作用には再投与を前提に投与設計を組み立てる必要がある 。[9]
| 投与経路 | 初回量 | 効果発現 |
|---|---|---|
| 静脈内 | 0.5 mg | <2 分 |
| 筋肉内 | 0.5–1 mg | 5–10 分 |
| 皮下 | 1 mg | 10 分以上 |
用量設計の詳細は古典的論文が豊富に議論している。
急性ヘロイン中毒治療報告での用量プロトコル
投与後に悪心・嘔吐が20%前後で報告されるが、これはκ受容体刺激による延髄CTZ活性化が機序と推測されている 。[1]
大量投与では離脱様症状(焦燥、血圧変動、頻脈)が出現し、オピオイド依存患者で特に顕著であるため0.5 mg刻みの漸増が推奨される 。[3]
光分解で着色し活性が低下するため遮光バイアル保管し調剤後速やかに投与することが安全確保につながる 。[10]
[1]
[9]
[7]
副作用マネジメントはWHOガイドラインにも簡潔に触れられている。
WHO麻薬拮抗薬使用指針の該当章
代表的拮抗薬であるナロキソンと機序・力価を比較すると、呼吸抑制拮抗力はナロキソンが約15倍強力であるものの鎮痛温存率はナロルフィンが高い 。[9]
ナルトレキソンは経口長時間型で依存症維持療法に用いられ、急性蘇生ではナロルフィンとナロキソンが選択肢となるが投与後の再鎮静リスクはナロルフィンが最大と報告される 。[9]
海外ではκ選択性を改良したNALBUPHINEが臨床使用され、副作用プロファイルはナロルフィンを踏襲しつつ鎮痛力を強化している 。[5]
| 薬剤 | 受容体作用 | 半減期 | 用途 |
|---|---|---|---|
| ナロルフィン | μ拮抗/κ部分アゴニスト | 1.5 h | モルヒネ中毒蘇生 |
| ナロキソン | μ拮抗 | 1.0 h | 統一蘇生薬 |
| ナルトレキソン | μ拮抗 | 4–13 h | 依存症維持 |
| Nalbuphine | κ部分アゴニスト | 5 h | 疼痛管理 |
各剤の比較は日本麻酔科学会ガイドラインが網羅している。
麻酔科ガイドラインでの拮抗薬比較表
近年、ナロルフィンのκ受容体バイアス特性を応用し「低用量連続静注で術後痒みとせん妄を抑える」試験が進行中であり、疼痛以外の適応拡大が模索されている 。[5]
また、非依存患者での急性疼痛モデルではナロルフィン単独がモルヒネ同等の鎮痛を示しつつ依存原性を示さないことがラット試験で証明され、非依存性鎮痛薬として再評価が高まる 。[6]
薬物動態改良型プロドラッグが2024年にACS誌で報告され、投与間隔を6 時間から24 時間へ延伸可能とされ臨床移行が期待される 。[6]
[7]
[6]
[6]
最新研究動向を定点観測するにはPubMed検索「nalorphine novel use」が有用である 。
参考)https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.jmedchem.4c00646