骨粗鬆症は、骨の構造が脆弱化し、骨折リスクが高まる代謝性骨疾患です。この疾患の大きな特徴は、自覚症状がほとんどないことです。多くの患者は、骨折が発生するまで骨粗鬆症に気付かないことがあります。
骨粗鬆症自体は痛みを引き起こすことはなく、「沈黙の疾患」とも呼ばれています。しかし、ちょっとした転倒や日常動作でも骨折を起こしやすくなります。特に骨折が生じやすい部位は、脊椎(圧迫骨折)、手首の骨(橈骨遠位端骨折)、太ももの付け根(大腿骨頚部骨折)などです。
患者が骨粗鬆症と診断される一般的な経路には、以下のようなものがあります。
骨粗鬆症の診断には、X線検査が基本となりますが、より詳細な骨密度測定には以下の検査法が用いられます。
骨粗鬆症の発症リスク因子には、年齢(特に女性の閉経後)、低体重、早期閉経、カルシウム摂取不足、運動不足、喫煙、過度のアルコール摂取、ステロイドの長期使用などが挙げられます。特に女性は閉経後に女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴い、急速に骨量が減少するため注意が必要です。
骨粗鬆症の薬物療法は、骨密度の低下を抑制し、骨折を防止することを主な目的としています。治療は生活指導と薬物療法の2本立てで行われます。現在では多様な薬剤が開発され、それぞれ異なる作用機序を持っています。薬物療法は大きく分けて、「骨吸収抑制薬」と「骨形成促進薬」に分類されます。
骨吸収を抑制する薬剤:
骨粗鬆症治療の中心的な薬剤で、過剰な骨吸収を抑え骨密度を増やします。服用間隔や剤型に多様性があり、患者のライフスタイルに合わせて選択できます。
服用時には、食道への刺激を防ぐため、十分な水で服用し、服用後30分間は横にならないよう指導が必要です。
骨に対して女性ホルモンと似た作用を持ち骨密度を増加させますが、骨以外の臓器(乳房や子宮など)には影響を与えません。
閉経期の更年期症状を軽くし、併せて骨粗鬆症を治療する目的で用いられます。
骨吸収を抑制するだけでなく、強い鎮痛作用も認められています。骨粗鬆症に伴う背中や腰の痛みに対して用いられることが多いです。
骨吸収にかかわるタンパク質に作用して骨吸収を抑制します。6か月に1回の皮下注射で済むため、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。
骨形成を促進する薬剤:
食事で摂取したカルシウムの腸管からの吸収を増す働きがあります。また、骨形成と骨吸収のバランスも調整します。
骨密度を著しく増加させませんが、骨形成を促進する作用があり骨折の予防効果が認められています。
新しい骨をつくる骨芽細胞を活性化させ、骨強度を高めます。骨密度が非常に低い患者など骨折リスクが高い患者さんに適した薬です。
その他の補助的な薬剤:
カルシウム製剤
カルシウムは骨をつくる主要な成分です。骨粗鬆症患者さんでは食事の摂取と薬の摂取量をあわせて1000mgが望ましいとされています。
薬物療法の選択は、患者の年齢、性別、骨折リスク、併存疾患、薬剤の副作用、服薬コンプライアンスなどを総合的に評価して行われます。特に重要なのは、継続的な服薬の必要性を患者に理解してもらうことです。約半数の患者が1年後には処方通りの服薬ができていないという報告もあります。痛みが消えたからといって自己判断で薬を中断しないよう指導することが重要です。
骨粗鬆症治療における注射薬は、内服薬に比べて確実な投与ができる点や、服薬管理が難しい患者にも適用できるという利点があります。特に近年では、投与間隔の長い注射薬が開発され、患者の負担軽減と