ドラッグマスターファイル医薬品業界の重要な制度完全ガイド

ドラッグマスターファイルは医薬品承認申請における重要な制度です。原薬メーカーの知的財産を保護しながら品質保証を実現する仕組みの全貌を解説します。この制度を理解すべき理由とは?

ドラッグマスターファイル医薬品承認の基盤制度

ドラッグマスターファイル制度の概要
📋
機密保護システム

原薬メーカーの製造ノウハウを開示せず審査可能

🔐
知的財産保護

合成方法や製造技術の機密情報を厳格に保護

🌐
国際基準

米国FDA、カナダ、中国等でも類似制度を運用

ドラッグマスターファイル制度の基本概念と重要性

ドラッグマスターファイル(Drug Master File:DMF)制度は、医薬品業界における機密情報管理の中核を担う重要なシステムです 。この制度は、原材料メーカーが独自の製造ノウハウや技術情報を顧客である医薬品申請者に開示することなく、規制当局に直接提供できる仕組みとして設計されています 。
参考)https://ecompliance.jp/2025/03/14/dmf_20250314/

 

日本では原薬等登録原簿(MF:マスターファイル)として2005年4月から運用が開始され、医薬品医療機器法第80条の6で法的根拠が定められています 。この制度により、原薬等製造業者は製造方法、製造管理、品質管理等に関する審査必要情報を事前に登録することで、知的財産を保護しながら承認審査に参加できるようになりました 。
参考)https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/master-files/0007.html

 

DMF制度の最大の特徴は、サプライチェーン全体の効率化を実現することです。原材料供給者は技術ノウハウの保護手段を得られ、医薬品メーカーは承認申請の効率化を図れます 。規制当局にとっては医薬品の品質と安全性評価のための貴重な情報源となっており、三者すべてにメリットをもたらす制度として機能しています 。

ドラッグマスターファイル申請手続きの実務

ドラッグマスターファイルの申請手続きは、国内外で詳細な規定が整備されています。日本の原薬等登録原簿制度では、任意登録制度として運用されており、原薬等製造業者がノウハウ保護を希望する場合のみ登録を行います 。
登録申請には、原薬等の名称、製造所の名称、成分及び分量、製造方法、品質管理試験、規格及び試験方法、安定性試験データなどの詳細情報が必要です 。特に注目すべきは、CTD第三部などの品質・製造方法に関するデータを添付資料として提出する必要があることです 。
参考)https://www.japta.or.jp/wp-content/uploads/2021040901.pdf

 

📋 申請時必要書類一覧


  • 原薬等登録原簿申請書

  • Quality Overall Summary (QOS)

  • 製造業許可証明書類

  • 安定性試験データ

  • 品質管理試験結果

米国FDAのDMF制度では、2018年5月からTYPEⅡ(原薬)とTYPEⅣ(添加剤)でeCTD申請が義務化されています 。紙申請からの移行期に対応するため、多くの申請代行業者がeCTD化サポートサービスを提供しています 。
参考)https://www.djklab.com/service/kaigai-1494/

 

海外製造業者の場合、国内管理人の設置が必要となり、申請業務及び維持管理サービスの専門業者に委託することが一般的です 。これにより、外国製造業者認定申請業務や照会事項対応業務もあわせて対応できるため、申請の確実性が向上します 。
参考)https://www.cobridge.com/service-guide/dmf/

 

ドラッグマスターファイル承認審査プロセスの詳細

ドラッグマスターファイルの審査プロセスは、従来の医薬品承認審査とは大きく異なる特徴を持っています。重要な点は、MFの登録自体は形式的なチェックのみが行われ、製造方法の妥当性などの内容審査は行われないことです 。
参考)https://www.nihs.go.jp/drug/PhForum/8thRecord/2yoshitani.pdf

 

PMDA(医薬品医療機器総合機構)のMF管理室では、登録申請書の形式要件確認を行いますが、登録されたことによって内容の妥当性が認められたわけではないという点を明確にしています 。実際の審査は、製剤の承認申請時にMFを引用する形で実施されます 。
承認審査の流れは以下のようになります:
🔄 審査フローの段階


  1. MF登録申請・形式確認

  2. 製剤承認申請でMF引用

  3. 製剤審査時にMF内容評価

  4. 照会事項対応・追加資料提出

  5. 承認可否決定

製薬企業にとって重要なのは、MFを利用した承認申請における信頼性保証の確立です 。MF登録内容の情報入手が不完全な場合、承認書とMF原薬の実態に齟齬を生じさせ、製品回収や欠品を招くリスクがあります 。
参考)https://www.jpma.or.jp/information/quality/jirei/bbh7c90000000jbr-att/2023-3.pdf

 

実際の事例として、製造販売業者では MF登録内容を正確に把握せずに承認申請を行った結果、承認書の原薬情報記載不備が複数判明し、管理体制の見直しと改善を実施したケースが報告されています 。

ドラッグマスターファイル品質管理と国際基準対応

ドラッグマスターファイルにおける品質管理は、国際的な調和を図りながら各国固有の要求事項への対応が求められています。日本のMF制度は海外当局のDMF制度を参考に設計されており、特に米国FDAのシステムとの整合性が重視されています 。
参考)https://www.jga.gr.jp/jgapedia/deals/_19341.html

 

品質管理の核心となるのは、原薬の製造方法、製造工程管理、品質管理試験の詳細な文書化です 。これらの情報は、後の製剤承認審査で品質の妥当性評価に直接使用されるため、正確性と完全性が極めて重要です 。
国際基準への対応では、各国で要求される資料の種類や形式に大きな違いがあります。例えば、中国のDMF制度では安定性試験データが必須となっており、他国と比べて提出が必須な資料の種類が多くなっています 。
🌐 主要国のDMF制度比較


  • 米国: eCTD義務化、LOA制度運用

  • カナダ: 2020年から電子申請のみ

  • 中国: 安定性試験データ必須要求

  • 日本: CTD第三部等の添付必要

品質保証の観点から、MF登録者は薬事法や通知等の理解が不可欠です 。登録時のデータ不備は、関係する製剤の承認審査に影響を及ぼす可能性があるため、「何を求められているのか」を登録者自ら考えることが重要視されています 。

ドラッグマスターファイル近年の動向と課題解決

ドラッグマスターファイル制度は近年、デジタル化と国際調和の推進により大きな変化を遂げています。特に注目すべきは、米国FDAにおけるeCTD(電子化CTD)申請の義務化です。2018年5月以降、TYPEⅡ(原薬)とTYPEⅣ(添加剤)でeCTD申請が必須となり、業界全体のデジタル移行が加速しています 。
この変化に対応するため、多くの申請代行業者が紙申請からeCTDへの変換サービスを提供しています。フルコンバージョンによる本文全体の電子化が推奨されており、将来的な管理効率化の観点から重要な投資となっています 。
現在の課題として、MF利用における情報伝達の不備が挙げられます。製造販売業者の実態調査では、MF登録内容は部分的な情報しか入手できず、一部はメールや二次加工データで連絡を受けており、転記ミスなどのリスクが存在することが明らかになっています 。
⚠️ 現行制度の課題点


  • 部分的情報入手による不完全な把握

  • メール等による非公式な情報伝達

  • 転記ミスやデータ不整合のリスク

  • 上流契約の困難によるMF利用許諾の遅延

解決策として、業界では MF登録者からの情報提供方法の標準化や、製造販売業者との密な連携体制の構築が進められています 。特に、MFの変更登録に伴う製造販売承認書の一部変更承認申請では、製造販売業者との事前協議が不可欠となっています 。
参考)https://japia-gr.jp/wp-content/uploads/2024/05/6d00ce438ee9c56e7e72f1e98ee4413e.pptx

 

国際的な視点では、中国のDMF制度(原薬・添加剤・包装資材の関連審査制度)が継続的に改善され、医薬品との関連審査及び承認のための完全な制度として整備が進んでいます 。これにより、グローバル展開を図る企業にとって、各国制度への対応がより重要になっています 。
参考)https://www.gmp-platform.com/article_detail.html?id=25810

 

今後の展望として、AIやブロックチェーン技術の活用による品質管理の自動化や、リアルタイムでの情報共有システムの構築が期待されています。これらの技術革新により、ドラッグマスターファイル制度はより効率的で透明性の高いシステムへと発展していくことが予想されます。