ブロバリンをいまだに「処方できる薬」だと思ったまま患者対応すると、調剤エラーや医療事故につながる危険があります。

ブロバリン(ブロモバレリル尿素)は1915年に日本で発売されて以来、長年にわたって不眠症・不安緊張状態の鎮静に使用されてきた薬剤です。 しかし、2022年に日本新薬のブロバリン原末が販売中止となり、同成分を扱う他社製品も追随する形で相次いで製造・販売を終了しました。 2025年3月末をもって経過措置期間も終了しており、現在は統一名(1121001X1018)での請求に切り替わっています。wikipedia+2
販売中止の背景には、より安全性の高いベンゾジアゼピン系薬やオレキシン受容体拮抗薬が登場したという時代的変化があります。 1960年代以降、ブロバリンは医療現場での使用が徐々に減少しており、同じ効能効果を持つ製品が複数存在することも販売中止の判断理由の一つです。 つまり、臨床的な必要性が低下した中での自然な市場退場といえます。viatris-e-channel+1
医療従事者として重要なのは、「販売中止=すでに在庫もない」と認識することです。患者が以前処方されたブロバリンを持参するケースも残存しており、その際の適切な対応方法を知っておく必要があります。
ブロバリン自体は販売中止になりましたが、同成分であるブロモバレリル尿素は現在も市販薬に配合されており、乱用問題は継続しています。 具体的には、解熱鎮痛薬「ナロン錠」「ナロン顆粒」、鎮静薬「ウット」などにブロモバレリル尿素が含まれています。
乱用の深刻さを示す数字があります。日本でOTC医薬品乱用の成分として報告が多いものの中で、ブロモバレリル尿素はコデインに次いで2番目に多い報告数を記録しています。 これは意外な事実です。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/6597
精神科・薬物依存の専門家である松本俊彦氏は、ブロモバレリル尿素について「論外の薬」と評しており、専門家の間では長年問題視されてきました。 2014年には薬事法改正で「乱用のおそれのある医薬品の成分」に指定され、含有する一般薬の販売が1人1箱に制限されました。
| 規制の変遷 | 内容 | 年 |
|---|---|---|
| 販売個数制限 | 1人1箱への制限(薬事法改正) | 2014年6月 |
| 習慣性医薬品指定 | 依存性から習慣性医薬品に指定 | 継続中 |
| ブロバリン原末販売中止 | 日本新薬が製造販売中止 | 2022年 |
| 経過措置期間終了 | 同成分他社品の経過措置満了 | 2025年3月 |
医療現場での実践的な対応として、患者がブロモバレリル尿素含有OTC薬を常用している場合には、依存リスクを念頭に置いた問診が必要です。服薬歴の確認に際して、市販薬の成分表示まで丁寧に確認するのが原則です。
ブロバリンの同成分代替品は現在存在しません。 より安全で有効な薬剤への切り替えが必要です。
参考)https://www.ygken.com/2023/
現在の睡眠薬の選択肢として、医療現場で注目されているのはオレキシン受容体拮抗薬です。 レンボレキサントとエスゾピクロンは、2022年のLancet掲載のネットワークメタアナリシスにおいて、中長期的な有効性・安全性が確認された数少ない睡眠薬として挙げられています。 これは使えそうです。stellamate-clinic+1
一方で、ブロモバレリル尿素への依存が形成されている患者に対しては、急激な中止は危険です。 連用中に急激に投与量を減少させると、痙攣発作・せん妄・振戦・不安などの離脱症状が出現することがあります。 投与を中止する場合には徐々に減量するという慎重な対応が条件です。nakakita+1
ブロモバレリル尿素への依存が疑われる患者を診た場合、薬物依存専門施設や精神科への紹介を検討することも重要な選択肢です。依存症治療は一般内科・外科では対応が難しい場面が多く、連携体制の構築が求められます。
参考:ブロモバレリル尿素の依存性・乱用リスクについて薬剤師向けに詳しく解説されています。
「ブロモバレリル尿素」依存から患者を守る!薬剤師が知るべきこと|m3.com
ブロバリンの処方は中止されましたが、過去に処方されたブロバリンや市販薬のOD(オーバードーズ)に対応する機会は、救急・精神科の医療従事者には現在も残っています。これは知らないと損する情報です。
ブロモバレリル尿素は経口摂取後20〜30分で効果が発現し、消化管から速やかに吸収されます。 服用量が増えるにつれ麻酔深度が深くなり、急性中毒では四肢の不全麻痺・深部反射消失・呼吸抑制といった中枢神経症状が出現します。 厳しいところですね。jsct+1
初期対応として最も重要なのは、胃内に錠剤・粉末が多量に残存しているケースが多いため、胃洗浄などを確実に行うことです。 また、吸収されたブロモバレリル尿素の排泄促進には強制利尿が有効とされています。 「強制利尿が有効」という点は、他の薬物中毒とは異なる対応として覚えておくべき情報です。
また、慢性中毒・過量服薬の症状が精神疾患と誤診されるリスクがある点も重要です。 悪心・嘔吐・傾眠・せん妄・錯乱・興奮などの症状は統合失調症や双極性障害と混同されやすく、服薬歴を丁寧に確認しないと診断が遅れる可能性があります。
参考)コラム
参考:ブロムワレリル尿素の体内動態・中毒治療について日本中毒学会がまとめています。
これは検索上位には出てこない独自の視点ですが、ブロバリン販売中止後の現在において、医療現場には「隠れ依存患者」が潜在している可能性があります。ブロバリンは1990年代以降、慢性ブロム中毒の報告が増加しており、長年服用していた患者が代替手段として市販薬に移行しているケースが考えられます。
見分け方のポイントは「OTC薬の複数購入歴」です。2014年から1人1箱制限がかかっているにもかかわらず、複数の薬局を使い分けて購入を繰り返す患者の存在が報告されています。問診時に「どこで薬を買っているか」「市販薬は使っているか」を確認するだけで、依存の早期発見につながります。
慢性ブロム中毒は、症状が認知症や精神疾患に似ているため発見が遅れがちです。 服薬歴確認という「1アクション」が診断の精度を大きく変えます。
参考:岐阜大学医学部神経内科によるブロムワレリル尿素の急性中毒・慢性中毒の詳しい解説。