2006年9月1日に原則全面禁止になったのに、2012年まで一部製品は合法的に使われていた事実を知っていますか?
参考)アスベスト製品はいつから禁止?日本の規制の歴史と今後の対策を…

アスベスト(石綿)の規制は、一夜にして実現したわけではありません。日本では約40年をかけて段階的に強化されてきた歴史があります。
まず最初の規制として、1975年(昭和50年)に特定化学物質等障害予防規則が改正されました。 これにより、石綿含有率が重量の5%を超える吹付け作業が原則禁止となりましたが、5%以下であれば依然として使用が認められていました。ここがポイントです。
参考)【画像で確認】アスベストが入っている建物の年代は? プロが答…
次に大きな転換点となったのが1995年(平成7年)です。 石綿含有率の基準が「1重量%超」に引き下げられ、さらにアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)の輸入・製造・使用が全面禁止になりました。
参考)【2025年版】アスベストに関する法令と法改正の歴史|リスク…
しかし当時最も使用量が多かったクリソタイル(白石綿)については、まだ規制が緩かったのです。つまり1995年以降も白石綿含有建材は合法的に使われ続けていました。意外ですね。
規制はさらに続きます。
以下の表に、日本のアスベスト規制の主な変遷をまとめました。
| 年 | 規制内容 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 1975年 | 石綿含有率5重量%超の吹付け作業を原則禁止 | 特定化学物質等障害予防規則 |
| 1995年 | 基準を1重量%超に強化。アモサイト・クロシドライトを全面禁止 | 労働安全衛生法施行令改正 |
| 2004年 | 石綿含有建材・摩擦材・接着剤の輸入・使用を原則禁止 | 労働安全衛生法施行令改正 |
| 2005年 | 石綿含有率1重量%超の吹付けを完全禁止 | 石綿障害予防規則制定 |
| 2006年9月 | 石綿含有率0.1重量%超の製品の製造・輸入・使用等を原則全面禁止 | 労働安全衛生法改正 |
| 2012年3月 | 猶予措置対象製品も含めた完全禁止 | 労働安全衛生法施行令改正 |
参考)https://www.env.go.jp/air/asbestos/chpt03_2-2.pdf
規制の歴史が原則禁止(2006年)と完全禁止(2012年)の2段階に分かれているのが原則です。
【2025年版】アスベストに関する法令と法改正の歴史 – 石綿ナビ(規制の全体的な変遷を時系列で整理した参考ページ)
そもそも、なぜこれほど厳しく規制されるようになったのでしょうか。アスベストの危険性は、単なる刺激物ではなく確定的な発がん物質として位置づけられているからです。
アスベストの繊維は、直径わずか0.02〜0.03μm(マイクロメートル)という非常に細い針状の形状をしており、肉眼では見えません。髪の毛の太さが約70μmですから、その約3,000分の1程度の細さです。これほど細い繊維は、通常のマスクでは完全には防げません。
吸入されたアスベスト繊維は肺の奥深くまで入り込み、30〜40年という長い潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫を引き起こします。 これが問題の本質です。つまり今なお被害が拡大しているということですね。
中皮腫(胸膜・腹膜・心膜を覆う中皮細胞に生じる悪性腫瘍)は、アスベスト曝露との因果関係が非常に強い疾患です。診断には臨床経過のほか、CT検査・病理組織診断が必要で、病理組織診断なしでは通常確定診断が下せません。
参考)中皮腫じん肺アスベストセンター 患者さんとその家族の方へ:中…
医療機関では中皮腫の患者を診察する機会があります。そういう状況です。患者から職業歴を聴取する際に「建設業・造船業・工場勤務」などのキーワードが出た場合、アスベスト曝露を積極的に疑うことが重要です。
中皮腫と診断された場合の補償・救済制度のフロー – 石綿健康被害救済センター(診断後の手続きフローを確認できる)
「2006年に禁止になったのだから、今ある建物はもう安全だ」と考えていませんか。これは大きな誤解です。
2006年9月1日以前に着工された建物には、現在もアスベスト含有建材が残存している可能性があります。 特に1970年代〜1990年代に建設された建物は、アスベストが最も盛んに使用された時代と重なります。
参考)株式会社都分析 – お知らせ – アスベストは今もある!使わ…
医療施設についても同様です。1980年代・1990年代に建設・増改築された病院・クリニックは、天井材・壁材・配管の断熱材などにアスベストが含まれている可能性があります。厳しいところですね。
特に注意が必要な場所は以下のとおりです。
参考)アスベストの使用時期はいつ?建築・施工時期から石綿含有建材を…
アスベストが残存していても、表面が安定した状態であれば直ちに健康被害は生じないとされています。なら問題ないんでしょうか? 問題となるのは、改修・解体工事などで建材が破砕・切断されて繊維が飛散するタイミングです。そのため、工事前の事前調査が法的に義務付けられているのです。
石綿に関する基礎知識 – 環境省(石綿含有建材の種類や規制の経緯を詳しく解説した公式資料)
アスベストの使用が全面禁止された後も、法整備はさらに進んでいます。特に2022年・2023年の法改正は実務に直結するため、確認が必要です。
さらに2023年10月1日着工の工事から、建築物の解体等の事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ者が行うことが義務化されました。 つまり無資格者が調査を実施した場合、法令違反になります。これが条件です。
参考)https://www.ccus-support.com/column_60859.html
調査結果の記録は3年間の保存が義務付けられており、違反すると行政指導の対象となります。 報告義務者は元請事業者(施工業者)であり、下請業者や発注者が代わりに報告することはできません。
参考)石綿(アスベスト)事前調査が義務化 - 今さら聞けない法改正…
医療施設の改修・増築を計画する際、施設管理者や担当医師としてこの点を発注前に確認しておくことが重要です。確認するアクションは一つです。
【2026年最新】アスベスト調査の報告義務とは? – CIC(最新の報告義務と手続き方法を整理した実務向けコラム)
ここまでは法律の話が中心でした。しかし医療従事者の立場から見ると、もう一つ重要な視点があります。
それは「医療従事者自身がアスベスト曝露リスクを持つ職場にいる可能性」です。あまり語られない話ですが、1970〜1980年代に建設された病院・診療所は、天井や壁の吹付け材にアスベストが使われているケースがあります。 そういった施設では、大規模改修工事時に飛散が生じるリスクがあります。
医師・看護師が「患者のアスベスト被害」を診るだけでなく、自分たちも曝露リスクの中にいる可能性があるのです。これは認識しておくべきリスクです。
アスベスト関連疾患には無症状のまま30〜40年が経過するという特性があります。 そのため、仮に過去に曝露していたとしても、今から定期的なフォローを行うことが重要です。
アスベストによる健康被害が心配な場合は、指定された医療機関(各都道府県の労災病院のアスベスト疾患センターなど)での健康診断の受診が可能です。 石綿健康管理手帳を持つ方は、無料で6ヵ月ごとに定期健康診断を受けられます。 これは使えそうです。
施設の建設年を確認し、1980年代以前に着工された施設で勤務している場合は、施設管理者に建物のアスベスト調査の実施状況を確認することをお勧めします。メモしておくと良いでしょう。
アスベスト関連疾患への取組 – 独立行政法人労働者健康安全機構(医療従事者・関係者向けの中皮腫パネル研修情報も掲載)
アスベスト(石綿)に関するQ&A – 厚生労働省(健康不安のある方向けの受診案内と制度説明)
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