4種混合ワクチン(DPT-IPV)は、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオの4つの感染症から子どもを守るための重要なワクチンです。このワクチンの接種開始時期について、重要な変更が行われましたのでご紹介します。
まず、4種混合ワクチンは平成24年(2012年)11月1日に定期接種として導入されました。当初は生後3ヶ月から接種が可能でしたが、令和5年(2023年)4月1日からは接種開始時期が前倒しとなり、生後2ヶ月から接種できるようになりました。この変更は、特に百日咳の早期予防に大きな意義があります。
接種時期の前倒しによって、お子さんの免疫獲得を1ヶ月早めることができるようになったのは大きな進歩と言えるでしょう。産まれたばかりの赤ちゃんは母親から受け継いだ免疫を持っていますが、生後2ヶ月頃からその免疫は徐々に低下していきます。特に百日咳については、生後1ヶ月程度でほぼ免疫が消失すると言われており、早期からの予防が非常に重要なのです。
最新の情報として、令和6年(2025年)4月1日からは「5種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチン」も定期接種の対象となりました。これは4種混合ワクチンにヒブ(Hib)ワクチンの成分を加えたもので、今後のワクチン接種体制に大きな変化をもたらすものとなっています。
4種混合ワクチンは、その名の通り4つの感染症を予防するためのワクチンです。それぞれの疾患について詳しく見ていきましょう。
ジフテリア
ジフテリア菌の感染によって発症する病気です。感染すると高熱や激しい咳、おう吐などの症状が現れます。さらに進行すると、咽頭部の腫脹による窒息死や、菌の出す毒素による神経麻痺を引き起こす可能性もあります。アフリカ、中南米、アジア、中東および東ヨーロッパで流行が見られます。
百日咳
百日咳菌の飛沫感染で起こる病気です。初期は風邪のような症状ですが、次第に咳がひどくなり、連続した咳込みの後に急に息を吸い込む際に「ヒューッ」という特徴的な音が出ます。特に乳幼児では呼吸困難になることも多く、けいれんや肺炎、脳症などの重い合併症を引き起こすことがあります。先進国(日本を含む)、途上国に関わらず広く流行しています。
破傷風
土壌中に広く存在する破傷風菌が傷口から侵入して発症する病気です。ちょっとした擦り傷からでも感染することがあり、手足のしびれやけいれんなどの症状が現れます。治療が遅れると命に関わる危険性があります。破傷風菌は世界中の土壌に生息しており、外傷や動物咬傷で感染するリスクがあります。
ポリオ(急性灰白髄炎)
ポリオウイルスによって引き起こされる病気で、小児まひとも呼ばれています。主にウイルスに感染した人の便を介して感染します。感染から発症までは通常4~10日かかり、多くの場合は症状が出ないまま免疫を獲得しますが、まれに血液を介して脳・脊髄へと移行し、麻痺を引き起こすことがあります。パキスタンやアフガニスタンなどの南西アジアやナイジェリアなどのアフリカ諸国で流行が続いています。
これら4つの病気は、いずれも重篤な症状を引き起こす可能性があり、特に乳幼児期の免疫が不十分な状態では危険性が高まります。4種混合ワクチンの接種により、これらの病気から子どもを守ることができるのです。
4種混合ワクチンの接種スケジュールは、初回接種と追加接種に分かれています。適切なタイミングで接種することで、効果的に免疫を獲得することができます。
初回接種(3回)
追加接種(1回)
初回接種の3回と追加接種の1回、合計4回の接種を生後2ヶ月から7歳6ヶ月までの間に完了させることが推奨されています。特に初回の3回をスケジュール通りに接種することで、早期に基本的な免疫を獲得することができます。
多くの自治体では、生後2ヶ月の誕生日の翌月までに初回接種用の予診票3枚を通知し、初回接種終了後1年経過した翌月までに追加接種用の予診票1枚を通知するシステムを採用しています。この通知に従って計画的に接種を進めることが大切です。
接種を受ける際は、37.5度以上の発熱がある場合など体調不良時には接種できないため、体調の良い時に医療機関を受診しましょう。また、接種後は15~30分間は医療機関で経過観察を行い、その日は激しい運動や長風呂は避けるようにしましょう。
日本の予防接種体制において大きな変化が起きています。令和6年(2025年)4月1日から、「4種混合(DPT-IPV)ワクチン」と「Hib(ヒブ)ワクチン」の成分を含む「5種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチン」が定期接種対象のワクチンとして導入されました。
これまで別々に接種していた4種混合ワクチンとHibワクチンを、1回の接種で完了できるようになったことで、赤ちゃんの負担軽減と保護者の方の通院回数削減につながると期待されています。
ただし、既に4種混合ワクチンの接種を開始している方は、原則として同じワクチンで残りの接種を続けることが基本方針です。しかし、現在4種混合ワクチンの販売中止に伴い、同じワクチンでの接種が難しい状況も発生しています。その場合は、医療機関と相談の上、5種混合ワクチンを用いて残りの予防接種を完了するという選択肢もあります。
この移行期間中は、医療機関によってワクチンの在庫状況や対応が異なる場合がありますので、かかりつけ医に相談しながら最適な接種計画を立てることが重要です。特に新しく生まれたお子さんの場合、最新の情報に基づいて接種計画を検討することをお勧めします。
5種混合ワクチンの導入は、日本の予防接種スケジュールの効率化と簡素化を図る重要な一歩と言えるでしょう。これにより、複数のワクチンを同時接種する際の組み合わせの選択肢が増え、よりスムーズな予防接種体制が実現する可能性があります。
4種混合ワクチンの接種開始時期が生後3ヶ月から生後2ヶ月へと前倒しされた最大の理由は、乳児の百日咳感染予防にあります。この変更がもたらす効果と重要性について掘り下げてみましょう。
百日咳は特に生後6ヶ月未満の乳児にとって非常に危険な感染症です。2018年の感染症発生動向調査によると、百日咳の入院症例の多くを乳児が占め、死亡例は乳児と高齢者に集中していることが報告されています。特に生後6ヶ月未満の症例(530例)では、無呼吸発作が23%、チアノーゼは30%に見られており、緊急の医療対応が必要な状態に陥るケースが少なくありません。
母親から受け継いだ免疫は、多くの感染症に対して生後2~3ヶ月頃から徐々に低下していきますが、百日咳に対する免疫は生後1ヶ月程度でほぼ消失すると言われています。このため、免疫のない状態で家族内感染に曝露した場合、接触者の80%が罹患するという高い感染率も報告されています。
4種混合ワクチンを生後2ヶ月から接種することにより、これらの6ヶ月未満症例のうち年間約100人の患者数減少が見込まれています。この数字は決して小さなものではなく、重症化や死亡リスクを考えると非常に意義のある変更と言えるでしょう。
また、接種開始時期の前倒しは、2025年4月に導入された5種混合ワクチンとの整合性の観点からも重要です。ヒブワクチンはすでに生後2ヶ月から接種開始されていたため、4種混合ワクチンも同じタイミングで開始することで、将来的な5種混合ワクチンへの円滑な移行が可能となります。
実際の接種スケジュールでは、生後2ヶ月時点でヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチン、そして4種混合ワクチンの5種類のワクチンを同時接種することが可能です。同時接種は単独接種と比較しても安全性や効果に変わりがないとされており、早期の免疫獲得や保護者の通院回数削減にもつながります。
ワクチンの早期接種は、特に免疫が未発達な乳児期の子どもを感染症から守るための重要な防御策です。百日咳のような重篤な合併症リスクのある感染症から子どもを守るため、接種スケジュールの変更を理解し、適切なタイミングでワクチン接種を行うことが重要です。