テラプレビル(商品名:テラビック)は、2011年にC型肝炎治療薬として承認されましたが、深刻な副作用問題により2017年に販売中止となりました。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%AB
最も重大な問題となったのは、死亡例の多発です。2014年の報告によると、テラプレビル服用患者の約23%に肝不全や全身の皮膚炎などの重篤な副作用が発生し、50~70代の男女15人が死亡しました。
参考)https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2600H_W4A720C1CC0000/
田辺三菱製薬の報告では、2011年11月の販売開始から2012年11月までに、テラプレビルを含む3剤併用療法で副作用が疑われる敗血症などの重篤な感染症が70例報告され、そのうち3例が死亡しています。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=43837
死亡事例の詳細を見ると。
これらの死亡例は、テラプレビルの免疫抑制作用による感染症リスクの増大が主要因と考えられています。
テラプレビルの副作用で最も頻繁に見られたのが皮膚症状です。国内臨床試験では、85%の患者に皮膚症状が出現し、その重症度は従来の2剤併用療法よりも高いことが確認されました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/55/4/55_250/_pdf/-char/ja
皮膚症状による治療中止例の特徴。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yye3.html
皮膚科専門医との連携が必須とされていましたが、軽微な症状でも重篤化するリスクがあるため、多くの症例で予防的な治療中断が選択されました。
中毒性表皮壊死融解症(TEN)のような生命に関わる重篤な皮膚障害も報告されており、これが死亡例の一因ともなっています。
テラプレビルの重篤な副作用として特に問題となったのが感染症リスクの増大です。テラプレビルとペグインターフェロンアルファ-2b、リバビリンの3剤併用療法では、感染症や感染症の悪化を誘発し敗血症に至るケースが多数報告されました。
感染症による副作用の詳細データ。
感染症の種類 | 報告例数 | 主な症状 |
---|---|---|
腎盂腎炎 | 15例 | 発熱、腰痛、排尿痛 |
肺炎 | 15例 | 発熱、咳嗽、呼吸困難 |
敗血症 | 13例 | 全身感染、多臓器不全 |
尿路感染 | 11例 | 頻尿、排尿痛 |
敗血症13例の特徴。
この感染症リスクは、テラプレビルが免疫系に与える影響と関連しており、白血球分画測定やCRP値の定期的な監視が必要でしたが、それでも予防は困難でした。
テラプレビルの販売中止を決定的にしたのは、治療完遂率の著しい低さでした。国内での第Ⅲ相試験における治療完遂率は約6割に留まり、3人に1人の割合でテラプレビルの投薬期間である12週間が経過する前に投薬中止となりました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/67/4/67_18-1/_html/-char/ja
治療中断の主な原因。
一方で、より安全で効果的な代替薬の登場がテラプレビル淘汰の背景にありました。
🔹 第2世代プロテアーゼ阻害薬(シメプレビル)
🔹 INFフリーDAA(直接作用型抗ウイルス薬)
これらの新薬の登場により、2017年にテラプレビルは製造販売中止となり、最新のC型肝炎治療ガイドライン第8.3版(2024年5月)では、治療推奨からテラプレビルの記載が完全に削除されています。
参考)https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/C_v8.3_20240605.pdf
テラプレビルの販売中止は、C型肝炎治療におけるパラダイムシフトを象徴する出来事でした。この変化は臨床現場に多方面にわたる影響を与えています。
治療選択肢の変化
テラプレビル販売中止により、医療従事者は以下の点で治療戦略の見直しを迫られました。
薬事承認プロセスへの教訓
テラプレビルの事例は、新薬承認における以下の課題を浮き彫りにしました。
📊 市販後調査の重要性
⚗️ 薬物相互作用の複雑性
テラプレビルはCYP3A阻害作用により多くの薬剤との相互作用を示し、併用禁忌薬が21%に達していました。これは現在の併用薬チェック体制強化の契機となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/25/1/25_38/_pdf
現在の治療環境への影響
テラプレビル販売中止後、C型肝炎治療は劇的に改善されました。
医療従事者向けの教育体制も強化され、新薬導入時のリスク管理や患者モニタリング体制の標準化が進んでいます。テラプレビルの教訓は、現在のDAA治療における安全性確保の基盤となっており、患者により安全で効果的な治療を提供する体制構築に活かされています。