スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)は、イブプロフェンをはじめとするNSAIDsによって引き起こされる重篤な皮膚粘膜疾患です。発症機序は薬剤特異的な細胞性免疫反応により、CD8陽性T細胞が活性化され、角化細胞のアポトーシスを誘導することで表皮の壊死性変化が生じます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11017452/
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000064391.pdf
イブプロフェンによるSJSの発症率は非常に低いものの、単回投与でも発症する可能性があることが国際的な症例報告で確認されています。18歳女性の症例では、イブプロフェン服用後に体表面積の25%に及ぶ皮膚病変と重篤な粘膜症状を呈し、迅速な診断と治療が必要でした。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11543214/
SJSの早期診断には、特徴的な臨床症状の迅速な認識が極めて重要です。初期症状は上気道感染様の前駆症状から始まり、急速に皮膚粘膜症状へと進行します。
参考)http://www.tdc-eye.com/disease/disease08.html
初期症状(前駆期) 📋
皮膚症状 🔍
粘膜症状 👁️
診断には、薬剤服用歴の詳細な聴取が不可欠です。イブプロフェン服用から症状発現までの期間は通常7-21日ですが、再曝露の場合はより短期間で発症することがあります。組織生検では、表皮の広範囲な壊死と基底層での炎症細胞浸潤が特徴的所見として認められます。
参考)https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/EM%20major(1).pdf
SJSの治療は支持療法を中心とした集学的アプローチが基本となります。早期診断と適切な治療により、予後の改善が期待できます。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/14-%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%81%8E%E6%95%8F%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%B3%E3%82%B9-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-sjs-%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E4%B8%AD%E6%AF%92%E6%80%A7%E8%A1%A8%E7%9A%AE%E5%A3%8A%E6%AD%BB%E8%9E%8D%E8%A7%A3%E7%97%87-ten
急性期治療の要点 🏥
原因薬剤の即座の中止が最優先です。イブプロフェンが疑われる場合は、関連するNSAIDs全ての使用を避ける必要があります。重症例では集中治療室または熱傷ユニットでの管理が必要になります。
薬物療法の選択肢 💊
シクロスポリンA(3-5mg/kg/日)は、CD8陽性T細胞の機能を阻害し、疾患の活動期間を短縮する効果が報告されています。ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1000mg/日×3日間)も早期投与により有効性が示されていますが、感染リスクの増加に注意が必要です。
参考)http://eye.sjs-ten.jp/doctor/treatment
高用量免疫グロブリン静注療法(IVIG)やプラズマフェレーシスは、重症例において考慮される治療選択肢です。TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト)も炎症軽減効果が期待されています。
眼科的合併症への対応 👁️🗨️
SJS患者の約50%で重篤な眼科的合併症が発生します。急性期の結膜炎、角膜上皮障害から、慢性期の瘢痕形成、視力低下、最悪の場合は失明に至ることもあります。眼科専門医による早期介入と継続的な管理が必須です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8672139/
NSAIDs使用時のSJS予防には、リスク評価と適切な患者指導が重要な役割を果たします。
参考)https://minacolor.com/articles/7202
リスクファクター評価 ⚡
患者教育のポイント 📢
イブプロフェン処方時には、以下の症状出現時の即座の受診指導が必要です。
薬剤師との連携により、調剤時の注意喚起と症状モニタリングの重要性を患者に伝達することも効果的です。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4073
SJSの予後は早期診断・治療開始により大きく左右されます。適切な管理により急性期を乗り越えても、長期的な合併症に対する継続的なフォローアップが不可欠です。
急性期予後因子 📈
長期合併症と管理 🔄
眼科的後遺症は最も深刻な長期合併症の一つです。慢性期には瘢痕性結膜炎、角膜混濁、睫毛内反による角膜損傷が生じ、QOLの著しい低下を招きます。定期的な眼科受診と適切な点眼治療、必要に応じた外科的介入が重要です。
皮膚の色素沈着や瘢痕形成も長期的な問題となります。心理的サポートを含めた包括的なケアが患者の社会復帰に重要な役割を果たします。
再発予防と薬剤管理 💡
SJSの再発率は約20%と高く、同一薬剤への再曝露は絶対に避ける必要があります。患者には薬剤アレルギー手帳の携行を指導し、医療機関受診時の申告を徹底させることが重要です。
参考)https://juniperpublishers.com/oajt/pdf/OAJT.MS.ID.555558.pdf
交差反応を示す可能性のある薬剤群についても十分な説明と注意喚起が必要です。イブプロフェンでSJSを発症した患者では、他のNSAIDsの使用も慎重に検討する必要があります。
イブプロフェン使用時のSJS発症は稀ですが、一度発症すると生命に関わる重篤な状態となり得る疾患です。医療従事者は単回投与でも発症リスクがあることを認識し、患者への適切な指導と早期症状の認識、迅速な対応体制の構築が求められます。多職種連携による包括的な患者管理により、SJSの予防と早期治療が可能となります。