スチレンは「石油だけを原料とした人工物」だと思われがちですが、実はシナモンなどの天然食品にも微量のスチレンが含まれています。
化学を学ぶとき、「構造式」「分子式」「示性式」の3つの書き方の違いに混乱する方は少なくありません。スチレンを例にとって、それぞれの意味を整理してみましょう。
まず分子式はC8H8で表されます。炭素原子が8個、水素原子が8個という意味で、分子全体に含まれる原子の種類と数を示したものです。この分子式から分子量を計算すると、炭素(原子量12)×8+水素(原子量1)×8=104となります。
組成式はCHです。これは原子数の最小比を示すもので、分子式C8H8をそのまま8で割った比率を表します。試験でうっかりC8H8と書かないよう、組成式と分子式はしっかり区別が基本です。
次に示性式はC6H5CH=CH2で表されます。示性式は「どんな官能基を持つか」が一目でわかるように書いた式です。C6H5はベンゼン環の部分(フェニル基)を表し、CH=CH2はビニル基(エテニル基)を表しています。つまり「ベンゼンにビニル基がくっついている」と一目で読み取れます。
構造式では、各原子間の結合を線(価標)で表したものになります。ベンゼン環を六角形で描き、その頂点のひとつからビニル基(-CH=CH2)が伸びている形です。ベンゼン環の内部は通常、三本の二重結合が交互に入った形で書かれます。
これは使えそうです。示性式のC6H5CH=CH2さえ覚えれば、構造式も自然と頭に描けるようになります。
| 式の種類 | スチレンでの表記 | ポイント |
|---|---|---|
| 分子式 | C8H8 | 原子の種類と数 |
| 組成式 | CH | 原子の最小整数比 |
| 示性式 | C6H5CH=CH2 | 官能基がわかる |
| 構造式 | ベンゼン環+ビニル基の全原子結合図 | 結合の様子を完全表記 |
スチレンの構造を理解するうえで核心となるのが、ベンゼン環とビニル基という2つのパーツの性質です。
ベンゼン環(C6H5−)は、6つの炭素原子が正六角形に並び、その各頂点に水素原子がついた平面的な環状構造です。この環の内部では、電子が非局在化した「共鳴構造」を取っています。ベンゼン環があることで、スチレンは芳香族炭化水素に分類されます。意外ですね。ベンゼン環はニスや塗料の原料としても重要で、あの独特の芳香もここから来ています。
ビニル基(-CH=CH2)は、炭素-炭素の二重結合(C=C)を含む基です。この二重結合こそが、スチレンの化学的な反応性の要です。二重結合は「π結合(パイ結合)」を1本含んでおり、このπ結合が比較的切れやすい。そのため、他の分子との反応(付加反応・付加重合)が起きやすくなっています。
また、ベンゼン環とビニル基が直接つながることで、両者の電子が共役(互いに連動)する「共役系」が形成されます。この共役系の存在により、スチレンは光や熱に対して自発的にラジカル重合しやすい特性をもっています。つまり保管条件が悪いと重合が進んでしまうということです。
実際に市販されているスチレンには、この自発的重合を防ぐ「4-tert-ブチルカテコール」などの重合禁止剤が添加されています。これを知っていると実験室や工場での扱いで大きな差が出ます。ビニル基に注意が必要です。
参考:日本スチレン工業会によるスチレンモノマーの基本情報と構造の解説ページです。
スチレンモノマー(SM)とは|日本スチレン工業会(JSIA)
スチレンの最も重要な化学反応が、付加重合によるポリスチレンの生成です。高校化学の試験でも頻出で、反応式の書き方までしっかり理解しておく必要があります。
付加重合とは、二重結合をもつ分子(モノマー)が、その二重結合を開きながら次々と連鎖的に結合して長い鎖状の高分子(ポリマー)を作る反応です。スチレンのビニル基にある C=C の二重結合がπ結合1本を切り離し、左右のスチレン分子と新たなσ結合を作ることで連鎖が続いていきます。
反応式は次の形で表されます。
n C6H5CH=CH2 → (-CH(C6H5)-CH2-)n
ここで気をつけたいのが、繰り返し単位の書き方です。ベンゼン環(C6H5)がペンダント(側鎖)として炭素主鎖にぶら下がっている形になります。具体的には、主鎖の炭素(CH2-CH)が連なり、一つおきにフェニル基(C6H5)がついている構造です。ポリスチレンの略称はPSです。
ポリスチレンは透明で成形しやすく、私たちの身近な食品容器(プリン・ヨーグルトのカップなど)やクリアファイルなどに使われています。さらに、内部を発泡させた発泡スチロール(ポリスチレンフォーム)は、体積の約95〜98%が空気で構成されており、断熱性と軽量性に優れた素材です。単純計算で、1㎥の発泡スチロールのうち実際のプラスチック部分はわずか2〜5%ほどしかありません。
また、スチレンはポリスチレン以外にも多くのコポリマー(共重合体)の原料となっています。代表的なものを以下に示します。
スチレン一種のモノマーが、これほど多種多様な製品を生み出している点は意外ですね。
参考:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」にてスチレンの物理化学的性質・有害性・SDS情報が確認できます。
スチレンというと、石油化学工業の産物というイメージを持つ方がほとんどです。しかし実際には、スチレンは自然界にも存在する天然有機化合物です。これが原則です。
スチレンという名前の由来は、19世紀にドイツで「Styrax(スティラクス、和名:蘇合香)」という天然樹脂から精製された物質に「Styrol(スチロール)」と名付けられたことにさかのぼります。その英語名がStyrene(スチレン)です。
もうひとつの名称「Cinnamene(シンナメン)」は、香辛料のシナモン(桂皮)から得られるケイ皮酸(C6H5CH=CHCOOH)を原料としてスチレンが得られたことに由来しています。実は、シナモンなどのケイ皮酸を含む食品において、酵母が保存料(シナモン成分)を脱炭酸することで微量のスチレンが生成されることが報告されています。食品変敗の原因として「石油のような臭い」がつくのはこのためです。
さらに最先端の研究では、植物・細菌・真菌の一部がケイ皮酸脱炭酸酵素によってケイ皮酸からスチレンを合成できることが確認されており、大腸菌にこの酵素の遺伝子を組み込んでグルコース(砂糖の一種)から大規模にスチレンを生合成する研究も進められています(Metabolic Engineering 誌, 2011年)。これは石油を使わないスチレン製造法として注目されています。
工業的には現在、エチルベンゼンの脱水素反応によってスチレンが製造されています。エチルベンゼンに鉄系触媒などを使って高温で水素(H2)を取り除くことで、C=C 二重結合を持つスチレンが生成されます。日本国内のスチレンモノマー生産量は2016年度だけで約194万7,843トンにのぼり、いかに大量生産されているかがわかります。東京ドームの容積が約124万㎥であることを考えると、それがどれほど巨大な量かイメージできます。
参考:スチレンの名称の由来・天然での存在・製造方法などの背景情報が詳しくまとめられています。
スチレンの構造式を学ぶ意義は試験だけにとどまりません。スチレンの構造的な特性は、その毒性・危険性とも深く結びついています。実務で扱う人や化学メーカー勤務の方にとっては、法令上の義務も発生する重要な知識です。
まず急性影響として、スチレンの蒸気を吸い込むと眩暈・頭痛・嗜眠・嘔吐などの中枢神経系への影響が現れます。皮膚や眼への刺激性もあり、液体が皮膚についた場合には接触性皮膚炎を起こすことがあります。
長期的な健康影響として深刻なのが、色覚異常・高周波難聴・短期記憶障害などの神経系障害です。長期間にわたってスチレンにばく露された労働者には、これらの影響が報告されています。厳しいところですね。さらに発がん性についてはIARC(国際がん研究機関)がGroup 2A(ヒトに対しておそらく発がん性を示す)に2019年に引き上げており、日本産業衛生学会も第2群Aと分類しています。
法規制面では、スチレンは特定化学物質障害予防規則(特化則)の第2類物質・特別有機溶剤等・特別管理物質に指定されており、1%以上含有する環境での作業には多くの義務が課されます。具体的には以下の通りです。
また、スチレンは消防法の危険物第4類(引火性液体)第二石油類に分類されており、引火点は31℃です。夏場の気温に近い温度で引火の危険性があるということです。指定数量は1,000Lで、この量を超えて保管・取り扱う場合は消防法の規制を受けます。
さらに悪臭防止法の特定悪臭物質にも指定されており、工場敷地境界での濃度基準は0.4〜2ppmと定められています。スチレンの独特な強い臭いが近隣への影響につながりうるためです。
こうした性質を知ることで、スチレンを含む製品(発泡スチロール・FRP製品など)の廃棄・加工時のリスクも正しく評価できるようになります。
参考:スチレンの詳細なGHS分類・有害性情報・法規制リストが確認できる信頼性の高い情報源です。
第29回 スチレン(法規制・安全性の詳細)|月刊化学物質管理(情報機構)
高校化学や大学入試において、スチレンの構造式は頻出問題です。しかし試験本番で正確に書けない受験生が多いのも事実です。ここでは、つまずきやすいポイントと、一度覚えたら忘れにくい視点を紹介します。
最もよくある間違い①:ビニル基の二重結合をベンゼン環の内部だと勘違いする
ベンゼン環自体にも二重結合が含まれますが、付加重合するのはビニル基(-CH=CH2)の二重結合です。ベンゼン環は共鳴安定化されており、通常の付加反応に対しては不活性です。ビニル基が反応の主役です。
最もよくある間違い②:示性式を「C6H5-CH2-CH2」と書いてしまう
ビニル基の二重結合(C=C)を忘れてしまうミスです。示性式は必ず「C6H5CH=CH2」と書きます。CH2-CH2(エチル基)と混同しないように注意が必要です。つまりエチルベンゼン(C6H5-CH2-CH3)とスチレン(C6H5-CH=CH2)は別物です。
覚え方のコツ:「ベンゼン+エチレンの半分」で考える
スチレン(ビニルベンゼン)は、ベンゼン(C6H6)の水素1個がエチレン(H2C=CH2)から水素1個を除いたビニル基(-CH=CH2)に置き換わったものです。ベンゼンとエチレン両方のイメージを持っていると、構造が自然と頭に浮かびます。
試験で問われる周辺知識の整理
スチレンの構造式を中心に「ベンゼン環の性質」「ビニル基の反応性」「付加重合のメカニズム」を芋づる式に理解しておくと、高分子化学全般の得点力が大きく上がります。これだけ覚えておけばOKです。
参考:Wikipedia日本語版「スチレン」では、構造・物性・製法・用途・安全性が網羅的にまとめられており、学習の参照として適しています。

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